第87話 寮へ行こう!

 学園の歴史は国の歴史と同じだ。

 城に隣接するように作られたその学園に入学するには、かなり厳しい審査がされることになる。

 貴族以外にも将来を有望視される生徒が多数入ってくるので、入学前の調査は年単位で行われるのだとか。

 そういった生徒は、市井にある国から認められた予備校のようなものから上がってくる。だから最低限必要な教養などは、きちんと身に着けてきているのだ。

 貴族が家庭教師に頼むことを小学校教育のように行っているということになるか。


 しかしまぁ、子供なんて言うのは将来のことを中々考えないもので、実は優秀なのにさぼったりやる気がなかったりで予備校では埋もれてしまっている、なんてこともある。

 そんな子たちが急にやる気を出したり、あるいは才能があるかわからないけどお金を積んで入ってきたりするのが貴族推薦だ。

 審査もパス、何かあった時は推薦した貴族の責任。


 今年は殿下が入学されることもあって、多分その辺を利用した入学者がめちゃくちゃ多い。というか、入学者自体が多いんだけどね。

 貴族の子息もここ数年は多いし、それの取り巻きのために貴族推薦ではいるものがさらに倍増するからなぁ。


 そしてそれが何を意味するかというと、セラーズ家を敵視する勢力も比例して増えてるってことだ。

 おらワクワクしてきたぞ、なんて言える強靭な精神の持ち主ならまだしも、俺はそんな戦闘民族ではない。しっかり覚悟を持って臨まないと、すぐにぽっきり折れてしまいそうな気がする。


 頑張れ俺、負けるな俺。

 俺が全員をわからせておけば、後から入学するエヴァもルークも快適な生活を送れるはずだしな。


 数日のセラーズ家別宅に滞在ののち、俺は学園の寮へ向かうことになった。

 俺が門から出ると、時を同じくしてイレインが隣の屋敷から姿を現した。

 2日前にウォーレン王家から使いが来て、お隣りへ強制帰還となったかわいそうなお姫様(笑)である。

 いや、笑ってる場合じゃないんだけどさ。

 なんだかちゃんとお姫様っぽい服を身にまとったイレインが、俺に気づいて歩み寄ってくる。


 うわぁ、動き難そうだなぁ。

 一応俺やクルーブと一緒に戦闘訓練とかダンジョン探索とか一緒にこなしてたイレインだけど、あの格好ではろくに戦えそうにない。

 学園は制服だから大丈夫だと思うけど……、飾り付けられたものだ。

 あそこまできらびやかにするのは、学園のちょっとお馬鹿な層をけん制する意味もあるのかもな。お前らの前にいるのはプロネウス王国の裏切り者ではなく、ウォーレン王国の姫殿下だぞ、って。

 学園に他国の生徒が通うのかって話だけれど、まぁ、近隣の小さな国々からも幾人か殿下たちがいらしているようだし、そこまで違和感はない。

 プロネウス王国って結構でかい国だからね。


「久々に監視されてるの最悪だわ……。私の顔見て、歯の浮くような世辞ばっかり言ってくるんだ、あいつら。でも何か言われるたびに、うまくやれよってあの親たちののメッセージがちらつくんだよな……」

「しょうがねぇじゃん、お姫様なんだから」

「やめろそれ、柄じゃない……」


 反論する元気もないじゃん。


「とにかく、迷惑かけて悪いけど、学園でもよろしく頼むわ」

「そっちの父親が悪いだけで、お前のせいじゃないだろ」

「いや、そりゃそうだけど……、まぁいいか。そんじゃまたあとでな」


 なんか言いたげな顔して去っていったイレイン。

 色々面倒ごとに巻き込まれた感はあるけど、お前と知り合いじゃなくても、きっと父上は騒動の渦中にいることになっていたはずだ。

 色々秘密を共有できる仲間がいるだけ心強いってもんだよな。


 寮っていっても一学年数百人からいる学校で5年間学ぶわけで、全校生徒は1000人を軽く超える。

 それを全員収容する寮はそれはもうでかい。

 建物は全部で4つ。

 その仕分けは貴族か貴族でないかと、性別によるものだ。

 貴族は1人1部屋、一般は3人1部屋。

 一般の方が割合が多いのに貴族の建物の方が広く豪華に作られている。ちなみに校舎への距離も貴族の寮の方が近い。

 まぁ一般と貴族が一緒に時間を過ごしすぎて、あまり気安くなりすぎるのも良くない。

 常識的な範囲内であれば平等であるとされる学園だけれど、当然のことながらめちゃくちゃなれなれしくする一般人はいない。だって学園から出たときにひどい目にあわされるかもしれないからね。


 貴族の子女向けの広い寮は、警備の兵士なんてのもいるらしく、そのうちの一人に表向きは穏やかに寮の案内をしてもらった。

 学園に入った以上誰が敵対してて誰がそうでないかなんてわからない。

 油断せず行こう。


 

 よし、荷物置いた。

 鍵もった。

 戸締りした。


 ……寮の中探検するぞ!


 いや、油断しているわけじゃないよ。

 何かあったときに構造把握しておかないと困るのは自分だからね。

 幸い身分的に入ってはいけないエリアってないっぽい。

 でっかい建物に来たらまずは探索でしょ。


 まっすぐ部屋まで案内してもらったから、まだまだ見ていない場所は多い。

 出入り口の数、窓の場所、隠れられる場所。長年使っている建物だし、貴族のための建物なんだから、秘密の部屋とかもありそうだよな。


 ちょっとワクワクしてきたぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る