第67話 貴族と探索者
串肉。
ちょっとだけ臭く感じるのは、普段の食事を作ってくれている人たちの腕がいいからだろう。あるいは、いい食材が使われているのかな。
香辛料が使われておらず、塩がばさばさかけられていて味にむらがある。うまいかまずいかって聞かれると、ちょうど中間よりちょっと下ぐらいな気がする。
しかし俺が口にした言葉は「おいしい」だった。
これ別に嘘ではないんだよな。
歩きながら、祭りでみんな楽しそうにしてる中の買い食い、それだけで自然と『おいしい』が出てくるレベルまで味が引き上げられていた。
先ほどまで酷評していたのは、自然と出てきた言葉に対しての照れ隠しみたいなもんだ。もくもくと頷きながら食っているイレインと一緒になりたくなかったという気持ちもなくはない。
「坊ちゃん」
「なんです?」
スバリにちょいちょいと手招きされて屋台の横へ戻ると、店主がパラパラと俺の串肉に何かの粉をかけた。
「食べてみてくだせぇ」
……毒? 怪しい薬? トリップはごめんだぞ。
串を持ったまま固まっていると、スバリがハッとした顔をした。
「毒じゃねぇですよ。スパイスってやつで、肉の臭みが抑えられて食べやすくなりやす。坊ちゃん途中から渋い顔してたじゃないすか。いいもん食ってるとやっぱりねぇ」
「……いや、美味しかったですよ?」
「まあいいからちょっと食べてみてくだせぇよ、ほら、毒じゃねえですから」
スバリが自分の串肉にも同じように見える粉をかけてもらい一口かじる。
いやー……、でも、ここで俺を害するような理由もない気もないか。
「まぁ、無理に食う必要もねぇですが……」
手を伸ばしてきたスバリから一歩身を引いて串肉をかじる。
もしスバリが俺を殺すつもりならもっとわかりづらく、もっと簡単にやれるはずだ。街中で毒を使って殺そうと、自らの手で捻り殺そうと、かけられる疑いには多分変わりがない。
なによりクルーブの友人を疑って嫌な思いをさせたいとは思わない。
貴族としちゃダメな考えかもしれないけど、今回に関して言えば父上たちもちゃんと調べてくれてるしな。
串肉をほおばると、爽やかな香りが鼻を抜けていく。
ピリッとした胡椒のような刺激と、鼻を抜けるハーブのような香りが、臭みを消して、しかも食べなれない味だというのになぜか本気でうまいと感じてしまった。
「お気に召したようで良かったでさぁ」
「これは、なんですか?」
「ダンジョンで出てくる植物系の魔物が飛ばしてくる種をつぶして乾燥させたもんなんですがね」
「……食べて大丈夫なんです?」
「俺たちは結構ダンジョンの中の生き物を食ったりしますぜ。お貴族様は気持ち悪がって喰いませんがね、下々じゃこういう品も取引されてるんでさぁ。……そん中でもこの粉はちょっとお高いですけどね。大規模に商売にできないせいで仕入れも安定しやせんし」
食べておいてよかった。ちょっとは俺に気を許そうって気持ちにでもなってくれたのかもしれない。
「ダンジョンでとれたものは流通に乗らないんです?」
「大規模な商会や国としてはやりやせんね。飢饉が起こった時なんかは、たまぁに頼ったりするみたいですが、なんせお貴族様たちは、ダンジョンがあまり好きじゃねぇ。取引だってこっそりでさぁ」
「光石は普通に使われていますよ?」
「あれは便利すぎやすからねぇ。国が管理してまさぁ」
光石とダンジョンの魔物からとれる食べ物、どう違いがあるんだ?
よくわからない。
「ダンジョンはね、狩り続けないと牙をむくんですよ。本当はあんなものさっさと最奥のコアを壊してぶっ潰した方がいいんです。でもそれが容易にできないほどに深いダンジョンもあるんでさぁ」
「国を挙げて討伐しては?」
「そういう動きも昔はあったそうです。ただねぇ、強い奴らは功績をあげて貴族になっちまう。そうなると危険なダンジョンなんかにゃあもぐらない。上層だけ潰して回っとけば安全に光石って資源も確保できるとなりゃあ、それでいいじゃねぇのってなるわけで」
「……ダンジョンはモノによって深さが異なるんですよね?」
「お、詳しいじゃないですか。じゃあこれは知ってます? 深くなるほど敵は強くなり、便利な素材を落とすようになる」
「素材、ですか?」
「そうです。武器に良いものが多いんでさぁ。例えばクルーブの持ってる杖、ありゃあ小さいけど性能は他の杖を上回る。そんなだから貴族連中も、俺たち
「……そうだったんですね」
知らない話だ。
貴族たちが探索者を雇う理由がこんなところで分かってしまった。だからクルーブはあんなに適当な態度で貴族に接しててもお目こぼしされてるわけだ。
「ま、国王陛下の覚えのいいお貴族様なんかは、特別いい素材で作られた武器なんかを下賜されてるらしいですけどねぇ。坊ちゃまのお父様もきっと持ってますぜ」
「
「持ちつ持たれつってやつでさぁね。ああ、俺からこんなこと聞いたなんて秘密ですよ。なんか聞かれたらクルーブのせいにしといてくだせぇよ。あいつが言う分には仕方ねぇで済みますからね。お、クルーブのやつこっちのこと忘れてやがるな」
少し足を早めたスバリは、背中が見えなくなりそうになったクルーブの後を追いかける。
スバリに置いてかれたら俺もはぐれそうだ。
あとを追いかけながら、一つ疑問に思ったことを聞いてみる。
「スバリさんは何でそんな話をしてくれたんです?」
スバリは背中を丸めたまま振り返らずに答える。
「いやぁ、俺は坊ちゃんのことをクルーブから聞いてるし、貴族のことだって詳しい。でも坊ちゃんは俺のことも
なるほど、考え無しのクルーブの相棒だけあってめちゃくちゃ考えているのかもしれない。
つーか、警戒してたのバレバレかぁ……。
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