第64話 お出かけ準備
王誕祭一日目はつつがなく終わり、二日目に差し掛かる。
父上はお仕事、サフサール君はそのおまけ。
こういった嫡男の教育を他家の貴族にまかせたりすることは、本来絶対にありえないことだ。
そもそも相手側が受け入れてくれない。自分の働き方の手の内をわざわざ明かすような事もしない。
預ける方にだってリスクはある。長いこと教えにしたがうことで、後継ぎが他の家の傀儡になってしまう可能性があるのだ。
よほど仲がいいんだろうな、父上とウォーレン伯爵って。
ま、そんなことはどうでも良くて、今日は初めて街に出て王誕祭を楽しめる日だ。
一緒に行くのはイレインだけ。
護衛はクルーブとその相方スバリ。猫背のくせにぬらっと背の高いおじさんだ。つまり背筋を伸ばしたらめちゃくちゃでかい。
あんまりたくさん話したことはないけれど、とりあえず信用していいらしい。
これは別にクルーブがそう言ったからとかではなくて、父上が改めて結構マジで調査してくれたからだ。
クルーブは王都の出身だったらしく、色々と問題はあるのだけれどその人間性や背景は【賢者】であるルドックス先生が保証してくれている。俺も随分長いこと世話になってるしね。
一方でスバリの方はよくわからなかった。ただ、むかしクルーブが言っていた通り、出身がウォーレン伯爵領らしく、わざわざ手紙のやり取りをしてその人間性を調査してもらったらしい。
結果白。
【
なんならばダンジョン以外の場においては、かなり怪しい少年であるクルーブを相方として定めたのが、傍から見たとき彼にとっては最も大きな決断だったんじゃないかという調査結果が出ている。
クルーブについて知りたいかと父上に聞かれたとき、俺は思わずうなずきそうになったが、辛うじて我慢をすることができた。
俺はクルーブのことが嫌いじゃないし、これだけ世話になっているのに勝手に相手の事情を知ろうなんて失礼にもほどがある。世話になってる人の気持ちを裏切るような嫌な奴にはなりたくない。
「父上が調べて、身元を保証してくださるんでしょう?」
「そうだ」
「ではききません。直接本人から聞きます」
「……ふむ。貴族としては聞いておいた方がいいが、人としてはその方がいいだろうな。……私はお前の決断を尊重する」
父上、そんなに優しく撫でたら、俺の回答に満足していることがバレバレですよ。
威厳を保とうと気を張っていることも多いけれど、俺はこんな身内には優しくてちょっと甘い父上のことも好きだ。
そんなわけで当日。
できるだけ派手でない、市民に紛れるような服を着て俺たちは迎えを待つ。
イレインもその辺にいる女の子風、らしい格好をしているけれど、残念ながら素体がいいので絶対に目を引くことになるだろうな。
「お前、絶対目立つよね」
俺が今まさに言おうとしていたことを、イレインが呆れたような顔をして言ってきた。正直鏡を見たとき、俺も同じことを思ったのでその言葉は甘んじて受け入れる。
俺、将来有望そうなキラキラ系美少年だもんな。
中身は俺だけど。
チーム殿下の男連中をタイプ分けするならば、殿下は素直で明るく優しそうなタイプ。典型的爽やかスポーツ系陽キャっていったらいいのかな。
俺は母上に似たサラサラ金髪キラキラおめめの美少年。自画自賛できもいけど、客観的に見てのことだから仕方ない。発言がすべて丁寧語だから、ちょっととっつきにくいかもしれない。
ヒューズ君が、目つきの悪い不良系。態度はツンデレ中身は子犬。
「お前も目立つからな」
ちなみに女連中も中々に特徴的。
イレインは父親譲りの銀色に近いグレーのウェーブがかかった髪色で、鋭い目つき。母親譲りの紫色の瞳とばっしばしのまつ毛。唇は薄くてちょっと幸が薄そう。まぁ美少女で、中身はやんちゃな子供っぽい性格のホスト。んでもって実は意外と素直。
ローズは情熱的な真っ赤な御髪を、多分力技でストレートにしている感じ。切れ長の目じりはやや吊り上がり、多分将来美女になるんだろうなーって感じのパーツをしてる。イレインが静の悪役令嬢なら、ローズは動の悪役令嬢って感じ。中身は見た目の通りで、正ヒロイン感は全くない。
あとはベルだけど、ベルは前髪で目が見えないから印象よくわかんない。黒色の髪の毛を、女の子なのにミディアムボブくらいにしてる。この世界の女の子でロングじゃないのめっちゃ珍しい。
イレインがまねをしたいと言って、普通にサフサール君に止められていた。世間的には貴族の女性は髪を伸ばすものらしいよ?
相変わらずドレスを着ていないと少年か少女かわかりにくい感じなので、容姿説明は割愛。しいて特徴を上げるとするならば、背が小さい。
「なぁ、屋台で買い食いしていいと思う?」
「……駄目だろ」
貴族的に買い食いはアウトじゃない?
「よくない?」
でもなぁ、たまの外出だしなぁ。
「いいと思う?」
イレインがどうしてもって言うならなぁ?
「たまにはいいでしょ。屋台の飯にピンポイントで毒入れるのとか無理じゃない?」
そうだよね、無理だよね。
いいよね、たまには買い食いくらいしても。
「だよな。じゃ、ちょっとだけ食べるか」
あとなイレイン、俺言わないでやってるけど、お前だんだん言葉遣いが女の子っぽく柔らかくなってきてるからな。
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