第63話 ローズ嬢の独占欲
「ローズ嬢、話があるんだが……」
「なにかしら」
俺たちに見向きもせずに……、というのは嘘で、めっちゃこっちを警戒しながら少年が話しかけてくる。
少年って言っても俺よりも年上だけどね。
「場所を変えたい」
「あら、ここじゃ話せないことなのかしら?」
「……ローズ嬢、御父上から話は聞いているだろう?」
「どうかしら。そんなあいまいな言い方じゃわからないわね」
察するにスレッド家の関係者だな。後ろの連中動揺困ったような、いらいらしたような顔をしてる。
俺たちがいる前でコンタクトとってどうしようってんだ?
派閥の話なら家同士の集会でもすればいいのに。
反対派閥とされてる俺やイレインが舐められてる?
「殿下を紹介してくれるという話だっただろう」
「いないものは紹介しようがないじゃない」
「紹介できる機会だってあったはずじゃないか。俺たちは来年から学園に入るんだ。その前には縁を持っておきたい」
「……知らないわ、聞いてないわ、本当に」
まっすぐと相手の目を見て言い返すローズ。
これ嘘です。こいつ何かをごまかそうとするとき、逆に相手を威圧しようとするんだよな。急にカッと目を見開くんじゃねぇよ、怖いから。
相手もかわいそうだ。
あまりにローズが堂々と嘘をついてるものだから、あちら側が動揺して相談し始めてしまっている。そんなことばっかりしてると悪役令嬢として後で酷い目に合うんだ。
マジでそのうちやらかしそうだなこいつ。
殿下が優しい性格してるから大丈夫だと思うけど、場合によっちゃ聖女とか平民上がりの優しい女の子とか現れてもおかしくないわけで。
ついでに取りまきをしている俺まで一緒にひどい目にあうってこともあるわけで。
考えるときりがないから、結局その時に起こったことに対処してくしかないんだけどな。
流石に数人で話し合うとごまかしは効かないらしく、視線を戻した少年はやや厳しい表情をして口を開く。
「いや、知っているはずだ。なぜ手を貸してくれないんだ」
「……うるさいわね」
「……なに?」
「うるさいのよ。殿下はお優しいから、紹介なんてしたらあなたたちのことも気にしてしまうでしょう! 私はできるだけ殿下の時間を独占したいの、なぜ邪魔するのよ」
ローズがあまりにも身勝手で、自分本位な気持ちを全てぶちまけた。
俺はそういう奴だって知ってたけどね。
俺たちがお目こぼしされているのは、あくまで殿下が気に入ってくれているからだ。
不可抗力でそうなってしまったのならともかく、自ら興味の対象を増やすようなまねはしたくないのだろう。独占欲の強いことである。
俺的にはちょっと怖いタイプの女性だ。
深刻に巻き込まれて刺されたくないので、ローズの邪魔をするつもりは一切ない。
「……派閥を維持しないと、殿下の后として名乗りを上げることすら難しくなるかもしれないぞ」
「あなたたちの家がそうでも、わたくしの家、スレッド家は別よ。一緒にしないでくださる?」
プライドをズタボロにされた彼らがローズを殺すのが先か、あるいは殿下ゲットを邪魔されたローズが彼らを差すのが先かチキンレースしてるのか?
俺のことは巻き込まないでね。
「…………今日のところは引き下がろう。しかし父上には報告をするからな!」
「どうぞご自由に」
相手方が多少賢明だったらしい。
8歳の女の子とまともに交渉しようってこと自体が間違っているのだ。まして狂戦士ローズに殿下の紹介をしてもらおうなんて、ちゃんちゃらおかしい。
男の俺にすら嫉妬しているのに、新たな男を殿下の近くに寄せるわけないじゃん。
でも俺いつも思うんだけど、殿下はローズと結婚してもそんなに悪い未来にならない気がするんだよな。
こいつ意外とちゃんと勉強してるし、こうして余計な輩を近くへ寄せない役割も果たしている。問題があるとすれば能臣だろうが奸臣だろうが平等に近くへ寄せないことだろうか。
真面目に考えてみたらやっぱ駄目だった。
今はまだ8歳だからいいけど、大人になるまでにちょっとは成長してね。
「あんな奴ら近寄せるくらいなら、まだヒューズをおいといたほうがましね」
「その心は何ですか?」
「毒にも薬にもならないわ」
尋ねた俺が悪いけど、答えたローズはもっと悪い。
ヒューズ君が泣いちゃうので酷いこと言わないで欲しい。
表情をひきつらせたヒューズ君の肩に両方から手が乗せられる。
イレインとベルが同情して慰めに入ってくれたのだ。
意外と仲間意識はちょっとだけある俺たちである。
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