面倒ごとがやってきそうかも、多分ね
第60話 月日が流れ
殿下はそれからも幾度か家へやってきた。
そんなときはいつでもローズが一緒だったし、ウォーレン家の二人も一緒だ。
数度に一度はベルもやってきて、一緒に外で遊んだ。
それに比べてヒューズが来るのはたまにだけだった。偉そうな態度をとって強がっているけれど、結局ただの子供だとわかってしまったから、俺もいちいち目くじらを立てたりしない。
ちゃんと見てれば反応はいつだって素直なのだ。わかりやすく扱い易い奴である。
ローズも数回一緒に遊ぶうちに、高飛車なだけで本当にただ殿下の気を引こうとしているだけだって分かった。付き合いを持ってみれば案外悪い奴じゃないってこともあるんだと、俺は貴族に対して持っていた偏見を少しだけ見直すことにした。
一方で完全に見直すことがなかった理由もいくつかある。
それはパーティ会場での陰口だったり、殿下の周りにいる俺たちへの嫌がらせだったりを実際に体験したからだ。子供のやることだからちょっとした意地悪なのだけれど、俺はそこに別の悪意を感じ取った。
ようは、親がそうするよう仕向けてるってことだろ。
貴族では当たり前のことなのかもしれないけれど、奴らは子供を使って権力闘争をしているのだ。あー、いかにも貴族だね、って感じがする。子供が悪いんじゃなくて親が余計なこと吹き込むのが悪い。
これの何が良くないって、子供自体は悪いことをしてるって全然思ってないところだ。本当はそんなに悪い奴じゃないかもしれないのにな。
ローズだってヒューズだって、それにベルだって、まともに接することがなければ印象は随分違っていたかもしれない。
難しいのは、付き合って相手を知る機会が少ないってことだ。
多少友達っぽくなった奴は何人かいるけれど、その関係は思ったように広がらなかった。だって表立ってお前の親嫌な奴だな、とか言えないからね。
そうじゃないとして、下手に正しい話して納得させたところで、相手がウォーレン伯爵みたいな人だったら、廃嫡とかされる可能性もあるんだろ。やっぱめんどくせえこと多いよ、貴族って。
まぁ俺だって月日がたつ間にいろいろ勉強したってことだ。
そんなわけで、初めてかくれんぼしてから3年近くの月日が流れた。
俺たちは8歳になったし、サフサール君は12歳になった。
来年からついに学園に通うことになるのだけど、あそこからさらに成長したサフサール君は、多分学校でめちゃくちゃ活躍するんだろうなと思う。いくつかのパーティで、12歳の他の子供を見たけど、サフサール君ほど落ち着きがあって謙虚で賢そうに見えるやつはいなかった。
身内の欲目かもしれないけど。
そんなサフサール君とイレインは、昨日までウォーレン領へ帰っていた。
んで俺は今、戻ってきたイレインに死ぬほど愚痴られてる。
「あいつら親って自覚がないんだよ。兄貴があんなに頑張ってんのに、聞くのは成果だけなんだぜ。それが終わったと思ったら、領土の話だ。俺はいいぜ、俺は。でも兄貴はさぁ……」
お前さぁ、すっかりブラコンだな。
それ言葉遣いだけ変えてちゃんとサフサール君に伝えてやれよ。多分すごく喜ぶし、毎日頑張ろうって気持ちになるぞ。
妹を持つ身としてそれはよくわかるんだ。
「大変だな」
長い文句を聞いてやってから一言。
付き合っているうちにわかってきたことだけど、こいつ勢い込んで話してるのを一度最後まで聞いてやればすぐ落ち着くんだ。
ストレス溜めこんでるから
「大変だ。んで、お前の方は何してたんだ?」
「いつも通りだな。エヴァと遊んで、ミーシャとか母上と話して、クルーブとルドックス先生と魔法の訓練。父上が日中家にいられるときは剣の訓練」
「……何年も同じことばっかやっててしんどくないのか?」
「訓練しないほうがしんどい」
「お前やっぱ変だぞ。俺だってかなり勉強とかしてる方だけど、全然休まず毎日何かしてるじゃんか。なんだっけ、お前のよくわかんない妄想。悪役だとか、追放だとか、お家断絶? 確かに貴族の派閥はあるし、オルカ様のことをよく思わないやつらがいるのは事実だけど、ちゃんとバランス取れてるだろうか。むしろ癪だけどうちの父親の活躍とかもあって有利な方じゃねぇか」
この3年の間に、物語の話は色々説明した。
これまで何も起きてないし、イレインに心配し過ぎだって笑われても、俺はまだ安心することができていない。
まずもってローズとかから情報を得てみると、貴族の派閥はどうも不穏だ。あいつ殿下のためとか言いながら、知ってることぽろぽろ教えてくれんだよん。まぁ、俺もそれなりに仲良くなったってのもあるんだけど。
それに光臨教では勇者や聖女の選定とかいうのをやり始めている。
以前と比べると
父上は強いからともかく、俺が守らなきゃいけない相手はたくさんいる。
そして何より、俺は今世は長生きすると決めてるのだ。
「今はな。でもな、お前だって何があるかわかんねぇんだから、気をつけろよ」
「魔法の訓練は続けてるし、勉強もまぁやってる。これ以上どうしろと?」
「まぁな。心構えの問題」
「わかってるよ、気を付ける」
イレインは令嬢だからな、剣の稽古は流石にさせてもらえない。
父上に頼んでも、そこまではウォーレン伯爵に言わずにさせられないってことだった。
「そんなことより、もう少しで王誕祭だろ。今年は街に出られるんだから楽しくやろうぜ。クルーブさんとスバリさんが護衛してくれんだろ?」
「あー、そうらしいよな。でもその前にまた、王宮のパーティだけどな。お前今年ドレスどうすんの?」
いつもひらひらのかわいらしいのちゃんと新調されてるじゃん。
誰が選んでるのか知らねぇけど。
「あー、新しいの準備されてた」
流石に女の格好をすることには抵抗がなくなってきたらしい。心なしか女性らしい丁寧口調も板についてきた。相変わらず口数は少ないキャラだけど、ベルが横にいることが多いのでそれも中途半端だ。
因みにローズは女の子(仮)と、ベルが自分のライバルになりえないと判断したのか、途中から普通にコミュニケーションをとるようになった。そしてなぜか俺にだけちょっと厳しい。
お嬢様っぽいしゃべり方とか、ちょっと高飛車なのはもうどうでもいいんだけど、女の子より俺をライバル視するのだけ、複雑な気分になるからやめてほしい。
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