第59話 根回し?
一周回ってサフサール君が戻ってきたときには、その隣にぶすくれたヒューズ君が歩いていた。今回もおててをつないでいるようだ。初めに見つかって泣き出しでもしたんだろうか。
今回はサフサール君も慎重に探しているようで、足音がかなり近くまでやってきた。荷物を動かしている音もしたけれど、どかし難いように配置しておいたからその作業は遅々として進まない。
ベルはその音に動揺して目を泳がせている。
「大丈夫」
今にも場所を移動したそうにしていたので、その頭に手を置いて動きを抑える。今動いて音を出したりしたら、かえって目立って見つかりかねない。
案の定少しすると、軽く息を吐く音がしてサフサール君の足音が遠ざかっていく。
「ね?」
上下に首を振るベルは、そういう動きをするおもちゃみたいで面白い。
殿下とローズは俺たちが隠れていた場所を見ていた。見つかるとしたらあの二人の視線からかな。
サフサール君は優秀だし、5歳児にばれないようにふるまえというのも酷だろう。
「頭に血がのぼるから止まりなよ。もうちょっと隠れてよう」
去っていくサフサール君とヒューズの背中を見送って、未だに首を動かしているベルの頭部を抑える。
それからもう一度しゃがんで、ああそうだと思ってベルに尋ねる。
「ベルも楽しい?」
さっき俺に止められたので懲りたのか、ベルは一度だけ縦に深く頷いた。
あー、たまには5歳児達と遊んでやるのもいいかもなぁ。
しばらくして全員が見つかった。
サフサール君は想定通り先に見つかった5歳児達の視線から俺たちを見つけたようで、イレインを見つけたときもそれは同じだった。
サフサール君がじーっと木の上を見つめて「イレイン、降りてきて」とやや硬い口調で言うと、イレインがするすると木から降りてきて、最後の枝からぴょんと飛び降りる。
見事な着地を見る限り、運動神経は悪くないのだろう。
しかし面白かったのはそこからだった。
「イレイン、その恰好で木に登ったら危ないよ」
「……大丈夫です、気を付けていますから」
「気を付けていても危ないよ」
「いえ、しかし」
「心配だから次は辞めてね」
「……はい」
イレインが普通に怒られて普通にへこんでいたのだ。
俺はこっそりと笑っていたのだが、そこからはとばっちりだった。
「ルーサー、見てたなら止めてあげてほしいな」
「あ、すみません……」
「いいんだ、でもよろしくね」
「はい」
おいイレイン、お前のせいで怒られたじゃんか。サフサール君は過保護だなーって思ったけど、ちょっとだけ考えてからそうでもないかと考え直した。
多分俺はエヴァが同じことしてて、近くにいる許婚がそれを止めなかったらもっと嫌味なこと言うと思う。それを思うと、サフサール君はやっぱり人間ができている。
イレインが軽く怪我をしても『ばっかでー』としか思わないけど、サフサール君のために一応警告するようにしよう。俺が注意したって実績を解除した後は好きにして、後でサフサール君に怒られるがいい。
その後も何度かかくれんぼは継続した。
次にはヒューズ君が張り切って鬼に立候補してきた。見つかるのは悔しいから、今度は見つける方になろうという腹だろう。
相変わらずセットで動いていた俺たちに、新たにウォーレン家の二人セットが加わる。これに関してはサフサール君がイレインのお目付け役になった形だ。イレインはめちゃくちゃ不服そうな顔を一瞬見せたけれど、それ全部自業自得だからね。
一人で本気でかくれんぼ楽しんでじゃねぇよ。
そんなわけでうまいこと隠れていた俺たちだが、ヒューズ君が誰も見つけることができずに屋敷を3周した辺りでぴたりと動きを止める。悪いことに俺たちの隠れている場所の目の前で。
眼を開いて瞼に涙をため唇をプルプルと震わせてる。
泣くぞ、すぐ泣くぞ、これ。
「ベル、ちょっとごめん」
断りを入れても分かっていないようだ。
ま、しょうがないか。
足元に落ちていた石を蹴飛ばし、ヒューズ君の方へ転がす。
小刻みに震えていたヒューズ君がハッとした顔をして俺たちの隠れている方を向いた。
はいはい、遊びは楽しい方がいいからな。泣かせるほどマジでやってもしょうがない。それをやっていいのは鬼がイレインかサフサール君の時だけだ。
「そこにいるんだろ! わかってるからな!」
涙目のくせにどや顔で大きな声をだしながら向かってくるヒューズ君。
「ほら、いたぁ!」
「見つかりましたか」
「簡単だった!」
「そうですね」
それなら見つけたとたんに俺とベルの手を取るのやめような。
「よし、他のやつ探すぞ」
「そうですね、一緒に行きましょうか」
俺あんまり子供好きじゃなかったはずなんだけど、段々扱いに慣れてきた。
なんだろうな、エヴァって妹ができたおかげで兄としての自覚とかが芽生えたのか? 泣かせて放置するほど憎くは見えねぇんだよなぁ。
ま、悪役として皆に嫌われてるより、同年代に少しくらい味方がいたほうがいい。
これはその事前準備ってことにでもしておこうかな。
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