第47話 侯爵閣下へご挨拶
好き勝手させてもらっていた会場も、この国の王であるジーナス陛下が姿を現すと、やや落ち着いたものに変わる。
というか、殿下が「あ、父上だ」と言ったことで現れたことに気が付いて、周りを見たら貴族のおじさんたちが居住まいを正していた。
「カート様、僕は父上の元へ戻ります」
「うん! 僕も父上のところへ行く。あ、今度遊びに行ってもいいか?」
「……カート様のご都合さえよろしければ」
「わかった!」
小走りで去っていく殿下を見送ってから、俺はローズ嬢にも挨拶をする。
「では、ローズ嬢もまたどこかでお会いしましょう」
「……私も行くわ」
「はい?」
「殿下があなたの家に行くのなら、私も行く」
「……それは、ローズ嬢のご家族の方とご相談ください」
「お父様が良いって言ったらいいのね!? ありがとう!」
やだけどやだって言えなかった。
イレイン、嫌そうな顔してるけど、お前だって絶対断れなかっただろ。俺のせいじゃないからな。
「陛下がいらっしゃったんだね。それじゃあ戻ろうか」
人込みに飲み込まれると周りが良く見えなくなる。さっきまでは殿下が一緒だったから周りの貴族たちも気を使ってくれていたようだけれど、顔をよく知られていな俺たちだけだと、道を開けてはくれない。
間を縫うように進むのに、サフサール君が先頭を歩いてくれた。
先日挨拶をしたからか、多少は顔が知られているようで、たまに声をかけられながらもどんどん先へ進んでいく。友好的な貴族が4割、嫌そうな顔するのが1割、我関せずが残りって感じの割合か。あからさまではないからわからないけど、我関せず勢の中には、敵対的な貴族も相当混ざってそうだ。
嫌な顔をする奴はわかりやすくてまだいい。
多分これって、セラーズ家に対しても同じような反応をするんだろうな。ウォーレン家とセラーズ家が仲いいのってみんな知ってるだろうし。つーか、それを知ってるなら、陛下とこの二つの家が仲がいいことも知ってるはずだ。
その上で敵対的な態度をとるんだから、実は陛下の権力ってのも万全じゃないのかもなー。父上と同世代ってことは、陛下まだまだ若いし。
父上の元へたどりつくと、すぐ近くに穏やかな表情をした還暦近い男性が立っていた。俺たちの姿を見ると、すぐににっこりと笑い、顔に刻まれた皺が深くなる。それだけでよく笑う人なんだなということがよくわかった。
「おやおやベル、今日もルーサー殿に遊んでもらっていたんだね」
俺が知らなくてもあちらは俺のことを知っている。
父上と話していたのだから当たり前か。
「ルーサー、こちらはスクイー侯爵閣下だ。挨拶なさい」
「お初にお目にかかります。ルーサー=セラーズと申します」
「……うん、噂にたがわぬよくできた子だ。ベル、こちらへおいで。先日は我が孫であるベルの無作法を助けてくれた上に、一緒に遊んでくれたそうじゃないか。私から礼を言うよ」
「いえ、とんでもないです。殿下に率いられて楽しい時間を過ごさせていただきました」
スクイー侯爵は短くそろえられた茶色いひげを指でこすり変な顔をする。なんかしくじったかな?
「ルーサー殿と言い、イレイン嬢といい、殿下の同世代は豊作だ。オルカ殿たちのことを見たときも同じように思ったものだがな、はっは」
「まだまだ力及ばずお恥ずかしいばかりです」
「いやいや、オルカ殿はよくやっている。騒がしい声はあまり気にせずこのまま頑張ってもらいたいものだ。ほれ、ベルや、
ずっと俺の袖をつかんでいたベルが、スクイー侯爵の方へ移動して差し出された手をとった。ベルがその手を二度ほど引っ張ると、侯爵がかがんで耳を傾ける。ぼそぼそという小さな声が聞こえて、スクイー侯爵がまたくしゃりと笑った。
「ルーサー殿、ベルと遊んでくれる約束までしてくれたのか。あまりしゃべらぬこの子がこんなに懐くなんて、君はきっと心の優しい子なんだろうな。サフサール殿もそう思うじゃろ?」
してないけど!? さっきの話が勝手にベルまで適用されてんの!?
あー、いや、でもローズに許可出しておいてベルはダメとは言わないか。だってベルはなんの害もないし、てこてこついてくるからかわいいもんな。殿下も慣れてくるとかわいらしく見えるし、まぁ、賢めの子供を相手にする分にはそんなに苦じゃない。
子供の相手なんて得意かどうかわからなかったけど、エヴァが生まれてきてくれたおかげで兄としての気持ちが育ってきたのかもしれない。
エヴァ、大きくなったらお兄ちゃんいっぱい遊んでやるからな。
「はい、閣下。イレインも寡黙な方ですが、同じくルーサーと仲良くしています。おっしゃる通り、ルーサーの優しさがこの子達を引き寄せるのでしょう」
褒められるとむずむずする。しかもそれが事実でないならば余計にだ。
色々と隠し事があるせいで罪悪感に苛まれるのだ。
俺優しくないですよー! 打算まみれで相手してるだけですよー! と大きな声で騒ぎたくなってしまう。
「……ありがとうございます」
言葉少なく頭を下げると、「うむ」と頷いて、笑いながら侯爵閣下が立ち去っていく。
俺がほっと息を吐くと、父上のごつごつした大きな手が俺の頭をぽんと叩いてくれた。よくやった、なのか、緊張するな、なのかわからないけど、ほんのちょっとだけ気持ちが落ち着いてしまった。
母上には弱弱だけれど、なんだかんだ父上はやっぱり頼りになるのである。
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