第46話 目隠れの子
王誕祭の最終日。
俺たちは大人たちと同じ立食パーティの会場にやってきている。
一日目とは違って、今日は小難しい話をしないというお約束になっているらしく、本当にただのパーティ会場だ。
とか言いつつも、こそこそ話している大人はちらほら見かけるけど。
おーい、今俺たちの方見て内緒話した変なちょび髭とカツラっぽいおっさん、顔憶えたからな。子供だと思ってプークスクスするな。
おそらくおっさんたちが面白がってみているのは、俺たち子どもの集団だ。
そのメンバーは殿下を筆頭に、俺、イレイン、ローズ、なぜかその後ろに目を隠した積み木の子、さらに少し離れて保護者枠でサフサール君だ。父上は少し離れた場所で、静かに俺たちの様子を見守っている。
殿下は立食パーティのあちこちのテーブルをめぐって、自分や俺たちの好みの食べ物を探して歩いてくださっているのだ。俺はうろうろして好きなもの探すより、ひとところに留まってのんびり食事がしたいけどな。好き嫌いとかないし。
直線的な殿下の動きに、ローズがびったりとくっついて、あれがいいこれがいい言うものだから、今は縦横無尽に会場を歩き回ることになっている。はぐれたふりして父上のところ戻ってやろうかな。
でもなー、殿下とは同い年だから長い付き合いになりそうだしなぁ。一応俺たちのことを考えてあちこちめぐってくれてるみたいだし、めんどくさいのと目立つのが恥ずかしいって理由だけで離れるのはかわいそうだ。
ってかローズめっちゃ話しかけてるな。たまに殿下が俺たちと話したそうな顔をするのに、ずいっと間に入って話題をかっさらっていく。いくら殿下が年の割にしっかりしてるとはいえ、そのうち怒り出しそうで怖い。
俺やだよ、女の子泣かせる殿下を見るのとか。
俺、好意示されてから急に構ってもらえなくなったら、めっちゃ悲しくなって話しかけちゃうもんね。これで俺は彼女いない歴=年齢のもて男でした。もしかしてあの子俺のこと好きなんじゃない? という勘違いによる失敗はもうしたくないね。
俺の恋愛遍歴はともかくとして、仕方ないから俺からアクション起こしてローズを止めてあげることにした。
「ローズ嬢、先ほど仰っていた甘いタルトがあちらにあるようですよ」
「あら、ルーサー様、ありがとうございます。殿下、あちらへ参りましょう!」
「う、うん……」
怒るっていうか、振り回されて元気なくなってきてるね。
わははーって感じで元気いっぱいだった殿下が、すっかり萎れちゃってる。
かわいそうかわいい。
俺、もてたことないからよくわかんないけど、もてるのも大変だよな。イレインみたいに突然包丁で刺されたりするみたいだし。
……もてないのに巻き込まれてる俺の方がかわいそうじゃない? もう助け舟出すのやめた、馬鹿らしい。
ほら、俺の袖を指でちょこんとつまんでる目隠れ君も、そうだそうだという目をしているよ。目は隠れてて見えないけど。
というか、この子なんで一言もしゃべらないでずっと俺の横にいるの?
「イレイン、この子だれ?」
「知らねぇよ。殿下に聞けばわかるだろ」
「殿下に質問したらローズ嬢ににらまれるじゃん」
「女って怖いよな」
小声で周りから見えないように、もちろん聞こえないようにぼそぼそと喋る。
女って怖いっていうけどね、今はお前も女だからね。
話から戻ってくると、袖をつかんでいた目隠れ君が俺の顔を見ていた。見てるよな? こっち向いてるだけで別の方見てるとかないよな?
「なんでしょう……か?」
こくりと頷いてくれたけどね、これイエスノーで答える問いかけじゃないんだよね。超能力者じゃないから、頷かれても何が言いたいかわからないんだわ。
「前髪が随分長いですけど、それで前は見えるんですか?」
縦に首振り。
俺からは目が見えないんだけど、あっちからは見えてるのか。
こんだけ喋らないから、前に会ったときも一人っきりで積み木で遊んでたんだろうな。コミュニケーションとれる子たちは、大体他の子どもと一緒に遊んでたし。
それで俺が積み木をキャッチして返してやったからついてきてると、そんなところか。
「目が悪くなると大変なので、嫌じゃなければ前髪はもう少し短くした方がいいですよ」
お、悩んでる。
すぐに頷かないで、前髪をつまんでいじっている。結構こだわりがあったりするなら悪かったかもしれないな。
「そういえばお名前を聞いていなかったですね。僕はルーサー=セラーズというのですが、あなたは?」
あ、なんか言ってるな。
なんか言ってるけど、耳を澄ませてみても声が小さくて全然聞こえねぇ。
なんとかベルって言ってるような気がする
「……ええっと、ベル殿でいいですか?」
首を横に振ってるから違うと。まぁ全部聞き取れてないしそりゃそうか。
「……ベル」
「ベル殿、じゃないんですよね……?」
「ベル……!」
「あ、ああ、ベルでいいんですか?」
はいはい、殿とかいらないよってことね。
ちゃんと歩み寄ろうって気持ちがあって偉いねぇ。
周りにしっかりした子供が多いから、ベル君見てるとちょっと気が休まるわ。
「じゃあ僕のこともルーサーでいいですよ」
俺が笑って伝えると、ベル君は首とれるんじゃないかってくらいぶんぶんと頷いてくれた。
それでも目が見えなかったんだけど、どうなってんだこの前髪。
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