第45話 探索者クルーブ

 明日はまた王城へ足を運ばなければいけない日だ。

 子供が特別嫌いなわけじゃないんだけど、狂戦士バーサーカーがいるからなー、コミュニケーションに気を遣うんだよなー。

 とはいえ俺とイレインなんかは子供の相手をしてればいいだけだからまだましで、サフサール君は初日と同じで父上と一緒に社交界に顔を出さなければいけなくなる。

 ちょろっと話を聞いたところによると、派閥みたいなのが結構あるらしく、嫌なことを言ってくる大人もいるそうだ。9歳の子供相手にまさしく大人げないってやつ。


 3人そろって明日のことが憂鬱になっているところで、門の前に探索者が一人立ち止まった。この間も来ていたのの片割れで、確か名前はクルーブ。

 ミーシャをナンパしようとしていた方だ。

 クルーブは体を傾けながら庭を覗いているが、俺たちのことはあまり気にしていないようだ。しばらくそうして不審者をしてから、クルーブはようやく俺に声をかけた。


「ね、ね、お坊ちゃま、この間の可愛い子、今日はいないのかな?」


 不審者と喋ると後でミーシャに怒られそうだな。

 そうでなくとも、探索者に近づくなって言われてるし。

 俺が無視しているとサフサール君とイレインが顔を寄せてくる。


「ルーサーの知り合い?」

「いえ、前にも庭を覗いてきた探索者です」


 サフサール君がちらりとクルーブにちらりと視線を向ける。

 その間もあの中性的な見た目をした不審者は「おーい?」と声をかけている。声を抑えているところを見ると、使用人にばれて怒られたいわけじゃなさそうだ。

 今日は保護者のあの背の高い人いないのかな? おたくの子、また無礼なことしてますよ?


「探索者か……。貴族街を自由に歩いてるってことは、結構腕のいい人なんだろうね」

「軽薄そうに見えますが」


 元ホストの君が言うことではないね。あの赤い髪、ちゃらくて似合ってたよ?


「そう見えるかもしれないけど、後ろ盾がいないと貴族街に出入りはできないんだ」


 サフサール君がイレインの油断しているようにも聞こえる言葉を正して警戒を促す。


「反応しないほうがいいですか?」

「うん、まぁ、どうかな? 対立関係の……、いや、仲の良くない貴族に雇われてたりするとちょっとね」

「なんだよなんだよ、無視しなくてもいいじゃん、酷いなぁ……。今日はさぁ、一応用事があってきたんだぞぉ」


 クルーブが唇を尖らせて文句を言っている。なんか見た目も若いけど、性格もすげぇガキっぽい。性格だけ比べたらサフサール君の方が年上に見えるくらいだぞ。

 ミーシャをナンパするって用事だったらさっさと帰ってください。


「これ」


 ぽこん、と効果音がしそうな軽い調子で、クルーブの頭が杖でたたかれた。


「あ、ちょっと先生、僕無視されてるんだよ、酷いよなぁ。貴族の子ってみんなあんな感じなの?」

「お主が不審だからじゃろ。儂が来るまで待っとれと言ったのに……」


 後ろからぬっとあらわれたのは長いひげを蓄えた、我らがルドックス先生だった。

 用事があると言っていたのは嘘ではなかったらしい。


「あ、先生、開けます!」


 駆け寄っていくと、ルドックス先生は門扉越しに首を振った。


「いや、開けなくていいんじゃ。今日はな、ちょっとこやつに顔を出させに来ただけじゃ。こやつは若いし性格も見ての通りなんじゃが、魔法の腕はいいんじゃよ。だからそのうちルーサー様にも紹介したいと思っておったんじゃ」

「あ、この美少年がルーサー様なんだ。へぇ、まだ小さいのにちゃんと魔法使えるの? 先生ひいきしてなぁい?」

「しとらん。魔力だけならお主にも勝ると思っておるよ」

「へへ、先生さぁ、流石に冗談きついよぉ。僕、これでも探索者シーカーの上澄みだよ? あんまり馬鹿にしてくれちゃうと、ちょっと嫌な気分かも」


 なんだかピリピリとした空気を感じる。

 嫌な感じに一歩足を引くと、まるで動じていないルドックス先生が、再び杖を振り上げて、普通にクルーブの頭を叩こうとした。先生、結構バイオレンス。

 「わっ」といってクルーブが大げさに身をよじって避けると、変な空気が霧散する。


「儂は冗談は言わん」

「またまたぁ。…………え、本気?」


 二人はしばらく見つめ合って、それからクルーブが急にまじめな顔をしてしゃがみこんで俺と視線の高さを合わせる。


「な、なんですか?」

「ねぇ、ルーサー様って言ったっけ。家でなんか酷いことされてるでしょ。逃げるなら僕手伝うよ。先生も、なんでこんな家に子供をおいてるの?」


 抑えられた声は多分俺と先生にしか聞こえてない。振り返りルドックス先生を睨みつけたクルーブは、静かに怒っているように見えた。


「ひどいことなんて、されてませんけど」

「いつから魔法の訓練させられてるの、辛いでしょ、心配しなくていいからこっちに来たらいい」


 袖から小さな杖を滑り出させて握りこんだクルーブの頭に、三度ルドックス先生杖が振り下ろされる。


「落ち着かんか」

「いった……。先生、邪魔するとホントに怒るよ」

「この子は、勝手に魔法の訓練をして、勝手に魔力を鍛えたんじゃ。セラーズ家はそれに一切関与していない。どころか、毎日気絶する病気としてひどく心を痛めて負った」

「先生……、そんなしょうもない噓信じてるの? こんな小さな子が耐えられるわけないじゃん。そんなことできる奴いたら狂ってるよ」


 ホントだし狂ってないけどね。


「あの、ルドックス先生の言うことは本当です」

「いーや、嘘だね。親とかに無理やり言わされてるんでしょ」

「いえ、ですから、本当に自主的にやったことで、父上も母上も、俺のことをすごく大事にしてくれてます」

「あーあ、洗脳されちゃってるよ。酷い親だね、今僕がっ」


 ルドックス先生の杖の先端から魔法が放たれる。

 直後クルーブが体を揺らして、その場にばたりと倒れて動かなくなった。


「……ルーサー様、こやつの非礼を儂から詫びよう。大変申し訳なかった。言い訳になる様じゃが、まさかこんな反応をすると思って居らなんだ」

「いえ、構いませんが……」


 まぁ、父上と母上のこと酷い親って言ったことは忘れないけど。

 ミーシャに言い寄ろうとしたら絶対邪魔してやろう。


「良く言い聞かせて、もし話を聞くようじゃったら、その時また連れてくるからの。……まったく、貴族街に携帯できる杖まで持ち込みよってからに」

「あの……、どうしてその人を僕に会わせようと?」

探索者シーカーらしい魔法の使い方がうまい奴でな。魔法を素早く大量に運用に優れた、いうなればこやつも天才じゃ。ルーサー様が魔法の道を進むのであれば、早い段階で引き合わせおきたかったんじゃよ」


 なるほど。

 そういえば、貴族の使う魔法と探索者シーカーの使う魔法って、ちょっと運用が違うって言ってたな。身を守ったり、体一つで戦うってなると、素早く大量に運用する探索者シーカーの魔法の方が優れているって聞いた。

 これから何が起こるかまだまだわからない俺にとっては魅力的な話だ。


「……ありがとうございます、楽しみにしています」

「いやぁ、本当に申し訳ない。近くへ来たら急に走り出しよってな。悪人ではないんじゃが、落ち着かぬやつでな」

「それでも優秀な魔法使いだというのなら、僕も興味があります」

「そう言ってくれると思っておったよ。一応オルカ様にはそのうち引き合わせると伝えておるんじゃが……、今日のことはアイリス様やミーシャには伝えないほうがいいじゃろうなぁ」


 あー、過保護が発動して会わせてくれなくなりそう。ミーシャには絶対心配かけるし。


「はい、わかりました、そうします」

「うむ。では儂はこれからまだ仕事があるからこれで失礼しよう。こやつも存分にこき使ってやるとするかのう」


 ルドックス先生は髭が長く皺だらけの割に、実は背が高くてがっしりとした体格をしている。地面に倒れたクルーブをほいと担ぎ上げると、そのままゆっくりと歩いて王城の方へと向かっていった。

 クルーブが小柄な方とはいえど、老人とは思えない身のこなしだ。


 先生が去って行った後、俺はサフサール君とイレインにも事情を伝えて、今あったことを秘密にしてほしいとお願いした。

 イレインは素直にこくりと頷き、サフサール君は少しだけ悩んでから「聞かれなかったらね?」と半分了承してくれた。ま、真面目なサフサール君からもらえた答えと思えば上々だろう。


 クルーブ。

 変な奴っぽいけど、俺のみをマジで心配して話しかけてきていたっぽいし、多分|そんなに悪い奴でもないんだろうなー……。


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