第42話 将来の夢

 真面目なサフサール君だったけれど、お祭りの話になると流石に心が躍るようで、勉強の合間に大人が話していることをこっそり聞いて溜めた知識を、一生懸命に披露してくれた。

 だよなー、やっぱ祭りは楽しいよなぁ!

 無駄に高いステーキ串食べよう! 射的とかあんのかな。金魚すくいがあるなら池で飼ってもいい。昔鯉みたいな大きさになった金魚見たことあるんだよな。ああいうの飼いたい。


 なんて想像を膨らまして見るけど、多分どれもないんだろうな。サフサール君が話してくれた祭りの情報には結構信ぴょう性ありそうだし。

 屋台とかいっぱい出てそうだけど、買い食いは流石に許されない気がする。するならお供の人は連れてけないだろうなぁ。

 ミーシャからの信頼度を考えると、適当なこと言えば屋敷抜け出せそうだけど、流石に騙してまで行こうとは思えない。


 昼食をとったあとは、三人で魔法の鍛錬をする。

 一応ルドックス先生に、あらかじめ自主練のやり方は聞いている。俺みたいに気楽に気絶するやり方は異常らしいからね。


 剣の稽古の相手もしてもらおうと思ったのだけど、サフサール君に「怪我をしたら大変だから……」と、普通に断られた。

 小さな子を見るような目を向けるのやめよう。こちとらおおよそ30歳やぞ。


「魔法の訓練をしたあとなのにルーサーは元気だね」

「毎日鍛錬してますから」

「何か目標とかあるの?」

「治癒魔法を使えるようになることと、ルドックス先生のようなかっこいい魔法使いになることです」

「治癒魔法? 当主になるのに?」


 サフサール君の言葉にバカにしたような響きはなかった。あったら喧嘩になってるとこだけど、そんなタイプの嫌なやつならまともに会話なんかしてない。


「変ですか?」


 単純な疑問が出るということは、治癒魔法を使えるよう努力するのは、次期当主としておかしいということなのだろう。

 他にあれこれ言われる前に、サフサール君に言ってもらえて良かった。


「当主の人って、魔法が得意でも広域攻撃魔法を使う印象があったから……」


 あー、領地を守るとか考えた時、優先的に戦いが有利になる魔法を学ぶってことか。貴族の成り立ちを考えてもそうなのかもなぁ。

 どの世界でもそうだけど、貴族みたいな偉い奴って、なんかあるから偉くなったんだよな。足が速いとか、頭がいいとか、力が強いとか。その延長でいうなら、魔法がある世界なんだから魔法が得意な奴らがえらくなるのって当たり前だ。


 今でこそ魔法は階梯で分けられて、詠唱も形態化されてるけど、特権階級ができた当時なんて一部の魔法が得意な貴族が独占したりしてたんだろうなー。それっぽい雰囲気の描写歴史の本で見たことあるわ、そういえば。

 いくら読んでても、瞬間的に『あ、これ進〇ゼミで見たところだ!』ってならないと意味ないんだよな。


「治癒魔法はまず使えるようになりたいですが、最終的には全部の魔法を使えるようになるつもりです。それだったら変ではないですよね……?」

「え、うーん、ええっと……。『賢者』のルドックス先生を目指しているのなら、変ではないの、かな? すごくいい目標だと思うよ!」


 めっちゃ忖度されているのを感じる。

 絶対変だと思われてるでしょ、これ。多分サフサール君は、イレインよりもよっぽど世間の常識とか貴族における作法とか関係値とか叩き込まれてる。じゃなきゃいくらウォーレン伯爵が不在だって言っても、大人たちの社交場に連れて行ってもらえるはずがない。


「……本当はどうなんです?」

「……立派な目標だと……」

「本当は?」

「…………すべての魔法を使えるようになるなんて、魔法だけを極める人がやることだと思う」

「うーん……、そうなりたいって言ったら、周りから変に見られますか?」

「そこまでは、わからないけど……」

「ありがとうございます」


 そっかー、変かぁ。

 いやぁ、立派な貴族の当主になろうってつもりはあるんだけどね。多分向いてないけど。あんまり自分のやりたいこととかペラペラしゃべるもんじゃないんだろうなー。

 引きこもりのままもうちょっと大きくなって他の家の子と交流してたら、流れで変な奴だと思われるところだった。

 ……いや、別に5歳児なら変じゃなくない?

 俺前世5歳の時なりたかったものショベルカーだぞ。それに比べたら現実見えてるだろ。やっぱ貴族だとそういうの許されねぇのかなぁ。ウォーレン家を見てるとめっちゃ厳しい感じするけど、セラーズ家は割と自由な家風なんだよなぁ

 両極端で判断しがたい。


「ルーサー、本当に素敵な目標だと思うよ? 僕は……、そんな目標もてないもん」


 やばい、ちょっと黙って考え込んでたせいで、サフサール君にフォローいれられてる。話題逸らそう、話題。


「サフサール殿は、何かなりたいものとかありますか?」

「……立派な当主かな」


 あ、はい。他のこと言ってなんかの拍子にあの怖いウォーレン伯爵にばれたら大変だもんね。一応御付きの執事さんは離れたところにいるけど、ミーシャのように読唇術を持ってないとも限らない。

 サフサール君の本音を聞くにはまだ好感度が足りないようだ。場所も悪いし仕方ない。


 ずっとサフサール君と話してるけど、イレインも暇だろうし同じ話振ってやるか。

 雑に話を振ろうと視線を向けると、イレインは表情を変えずに視線だけ動かして俺を見る。


「イレインは何か……った」

「ん? どうしたの?」

「な、んでもありません」


 『イレインは何かなりたいものあるんですか?』と尋ねようとした瞬間、イレインの奴がこっそりと俺のつま先を、結構な威力で蹴飛ばしてきた。


 なんだこいつ! 仲間に入れてやろうと思ったのに!


 二人きりになった時、文句を言ってやろうと思ったら、逆にめちゃくちゃに怖い顔をして怒られた。

 『あのタイミングで聞かれたら、お前の嫁になることっていうしかないだろ! 気持ち悪いこと聞くな!』だそうだ。

 うん、まぁ、俺が悪いね。ごめんね。


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