第32話 きけんなやつら?
背筋をピンと伸ばし、一定の歩幅でつかつかと歩いてこられると結構威圧感があると思う。それがまだ若く背の低い女の子だったとしてもだ。堂々としてるっていうのが大事なんだろうなー。
門から少し離れたところでピタッと止まったミーシャは、くいっと顎を上げて二人を見上げる。見方によっては見下ろしているともいえるかもしれない。
相手がどこの誰だかわからないので、最低限礼儀は保っている……、と思う。
「本邸はセラーズ伯爵邸です。ご用件がありましたらお伺いいたしますが」
意訳すると『用もないのにじろじろ見てんじゃねぇよ、ここがどこだかわかってんのか?』かな。
せめてミーシャの邪魔にならないようにすました顔をしておこう。子供の俺が口をはさむと、というより、ちゃんとした身分がある俺がしゃべるとややこしくなる気がする。法律に関する詳しい部分は知らないけれど、不敬罪とかそういうのが適応されてしまったら彼らだって困るだろう。
俺だって困る。めんどくさいもん。
「へぇ、ずっと誰もいないからだれも住んでないのかと思ってた。せっかく可愛いのにそんなに怖い顔しないでよ」
男だか女だかわからないほうの唇が弧を描く。
細く先が垂れた眉と切れ長の吊り上がった瞳にギャップがあって、愛嬌と色気が同居してる感じだ。ちょっと怪しすぎて俺的には得体のしれない怖さが勝るかも。危険なにおいがする人が好きな人はガッツリはまりそう。
ミーシャはどうかなと思って横顔を見ると、はじめと変わらない表情のまま何の反応も示していなかった。プロだなぁ。
「やめとけクルーブ。すいやせんね、俺たち学も礼儀もない
「邪魔すんなよスバリ。折角可愛いお嬢さんに粉かけてんだからさ、あ、こら」
「特にこいつはほんと馬鹿なんすよ。連れて帰るんで俺たちのことは忘れてくだせぇ」
スバリと呼ばれた男は遠くからはひょろっと背が高いように見えたけど、近づいてみると体全体が引き締まっていて、さらに猫背であることが分かった。筋張ったやたらと大きな手のひらがクルーブの襟をつかみ、そのまま猫のように持ち上げて連れ去っていく。
スバリは抵抗するクルーブをものともせずに、曲った背中をさらに曲げ、何度か謝罪をしながら去っていった。
癖の強いコンビだなぁ。
「……ルーサー様、あまり近づいてはいけませんよ」
「それは、
俺は探索者についてそれほど詳しくないけれど、ミーシャが差別めいたことを言い出すのが意外だった。仮にもミーシャも貴族の家の子だし、探索者に思うところがあるのかな?
実際探索者になるのって、食い詰めの人や農地の親から引き継げないような末子だったりするらしいからなぁ。貴族とは対極にいる人たちなのかもしれない。
「はい。成功している
「……ごめん」
あー……、そうか。
あまり外の人に触れあってこなかったから気づかなかったけど、ああいうのがいきなり攻撃してきたりする可能性もあるのか。
人間って怖いもんね。
飲み屋街で歩いてたら、いきなり巻き込まれて刺されたりするしね。
とはいえここは貴族街だから、彼らもある程度身分が保証されているレベルの
暇つぶし程度の軽い気持ちで、ミーシャに余計な心労をかけてしまった。
……今の俺って、ミーシャに守られるのかぁ。せめてもうちょっと強くなって、守らなくても大丈夫って思ってもらえるくらいにはなりたいなぁ。
自信満々だし、もしかしてミーシャも強かったりするのかな。メイド戦士、ちょっとかっこいい。
「ミーシャって実は戦えたりするの?」
「いいえ? 全然戦えませんけれど……」
「じゃあもしかして盾って、そのままの意味……?」
「はい。ですから外を歩くときは必ず護衛を連れていって下さい。私がついていってもお役に立てませんから」
「うん、そうする……。危ないことに巻き込みたくないし……」
結構本気で話しているところを見ると、案外王都って治安が悪いのか……? 外に出て遊んでみたいって気持ちが結構あったんだけど、だんだん怖くなってきた。
護衛ねぇ、うちの使用人にそれっぽい人いたかな? 剣術や魔法の訓練はしてるけど、こいつやるな、みたいな気配で察知できる能力はまだ身についていない。
というか、そんなもん鍛えたくらいで身につくのか?
通りすがる人全員をめちゃくちゃ警戒していない限り、察知することなんてできない気がする。
まぁでも、身分がある貴族なんていうのは、それが普通のなのかもしれないなぁ。そう思うと特権はあっても生活自体は窮屈なものだ。
守られるのが当たり前ー、みたいなメンタルでないとやってられなそう。
俺大往生希望だけどさ、人を犠牲にして生きてくのはちょっとやだなぁ。
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