まだまだ子供っぽいかも、多分ね
第31話 新しい屋敷でのティータイム
セラーズ邸は領地の館よりは狭いけれど、それは比較したときの話でしかない。
周りの貴族の家と比べてもがっしりとしたつくりをしており敷地も相応に広い。
近所の人を呼んでお茶会ができそうな気配がすごくある。
母上の出産がすんで落ち着いたら、人がいっぱい来て賑やかになったりするのかなぁ。
ちょっと残念なのは、この館の書庫には本があまりないことだ。
学園に行けば図書館があるので、そちらで読めばいいという判断で、館には買い込まないようにしていたらしい。
俺はまだ学園に行けないから、他の時間つぶしを探さないといけなくなったわけだ。
ああ、ちなみに王都の名前と王国の名前は一緒。プロネウス王国のプロネウス。覚えやすくていいね。王様の名前はジーナス。見たことないけど、渋そうなイメージのお名前だ。
確か父上と同い年だって言ってたから、結構若いはずだけどね。
母上のお腹はだいぶ大きくなってきていて、最近では外でお茶を飲むのも控えているようだ。代わりに俺が暇な時間は庭のテーブルセットに腰かけて足をプラプラさせている。
何をしているかというと、セラーズ邸の外を歩く人や馬車を眺めているのである。
意外と子供が歩いてたりするんだよね。
学生服っぽいのを着て、同年代の人とおしゃべりしてるから、多分噂の学園とやらの生徒なんだと思う。
まあつまり、子供と言っても俺よりは年上だ。俺と同年代の子が一人で外を歩いていたら、速やかにしかるべき場所に通報してあげたほうがいい。
はじめのうちはセラーズ邸に人がいるのが珍しいのか、ちらりと門の格子から中を窺う学生もいたけれど、庭師のおじさんやお出かけするメイドさんにじろりと無言で見つめられて逃げていくことが多い。
俺には優しいんだけど、ちゃんと外の人には厳しいんだ、みんな。
セラーズ家は全体的に使用人たちのグレードが高いというか、一致団結しているような気がする。多分歴代のセラーズ家の人たちとか、父上とか母上とかがしっかりしてるからなんだろうなぁ。
一見冷たそうに見えるけど心はホット、みたいな人が多くて、勘違いされやすいのが玉に瑕。これもまたセラーズ家の当主夫妻に似ている。悪いところまで真似しなくていいんだよ。
俺はちゃんと笑顔で外の人に接するようにしたいね。
そんなことを考えていると、門の外を変わった格好の人が通り過ぎた。レザーの手袋をつけて、マントをなびかせている。全体的に動きやすそうで、使い込まれた装飾具は高価そうには見えない。
一言で表現するなら、場違いな人物だ。
貴族の人の1.5倍速くらいで歩くその人は、あっという間に俺の視界から消えて行ってしまった。
「今のって何してる人だろう?」
ミーシャに尋ねると、こてんと首を傾げられる。
かわいいね。
「そうですね……、貴族ではないことは確かだと思いますが……」
「だよね……」
「もしかしたら
「ああ、
「貴族でないものが貴族街へ入る時は、よほどのことがない限り武装解除されますから」
「へぇ、そうだったんだ……」
ミーシャは何でも知ってるね、さすミー。
「ミーシャって17歳だったよね? 13歳くらいからうちに来てるのに、色んなこと知ってるよね」
「ええ、正しくは12歳の頃に雇っていただいて、1年間はルーサー様に着くためにしっかりお勉強させていただきました」
ふーん……。あれ? ってことはミーシャって12歳で嫁に出されようとしてたの? この国の貴族って結構な化け物が潜んでそうだな……。どこのどいつか聞き出しておきたいけど、ミーシャに聞くのはちょっとなー。
「ミーシャも魔法とかって使えたりするの?」
「使えませんね。習う機会もなかったので」
「……学園とか、通いたかった?」
あまり聞かないほうがいいのかと思いながらも尋ねてみると、ミーシャはふふっと笑った。
「気にしないでください。兄が一人学園へ通っていましたが、弱小貴族の子は立場が弱いらしく、あまり楽しいという話も聞きませんでした。嫡男に生まれなくてよかったなと思っていましたよ」
「結構大変なんだね」
「ええ、王宮の縮図みたいな場所ですからね。互いにつながりを作ることに一生懸命なんだそうです」
「ええ、僕普通に勉強したいけどなぁ」
まー特権を持つような人たちの子供が集まったらそうなるかー。
毎日親の自慢とかばっかりしてるのかな。笑顔で外の人に接するって決めてたけど、無理かもしれない。
毎日図書館にこもることになるかも。
ああ、でもそんなことしててマジで悪役扱いされても困るし、適度に交流する必要はあるんだろうな。父上が幼いうちに同年代の子供と交流させようとしてるのも、その辺に関係するのかもしれない。
子供のうちに上下関係叩き込んでおくか……?
いや、それはそれで最終的に悪いやつ扱いされそう。
うまいことグループ作っておいても、外部から来たイレギュラーな存在にぶっ壊されるのがセオリーだもんなぁ。
うーん、面倒くさい。
一人で淡々と努力し続ける方が、まだ気楽かもしれない。
そんなことを考えながら、ふと門の方へ視線を戻すと、こっちを指さして何やら喋っている二人組がいた。
無精ひげを生やした老け顔の男性と、偉い童顔の性別不明の人。指さしてるのは後者ね。前者はそれを見てニヒルに笑っている。笑ってないで止めなよ。
おそらく
俺は全然気にしないけどさ、無礼を絵にかいた話に聞いてる限り、普通の貴族の家にそんなことしたら多分大変なことになると思うよ?
「……注意してきますね」
にっこりと笑って歩き出したミーシャだったが、俺の横を通り過ぎる頃にはと殺し屋みたいな目つきになってた。
……これこれ、俺はいつものかわいらしいミーシャちゃんが好きですよ。
トラブルになっても嫌だし、後ろからついていこうかな。
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