第42話 『苦しめてごめん・・』

42◆5 



 ◇悲しみの中で


 三嶋友里は初めてのことで不安を抱えながら皇紀に


『子供ができたかもしれない』


という言い方で妊娠したことを伝えた。

 すると不安的中。


『今回は堕ろして。今は時期が悪いと思う。

 子供を作るのは俺がそっちに帰ってからにしよう』


と厳しい返事が届いた。



 堕ろす? 私たちの子を? 


 私が独りで産んで独りで産後の立ち回りができないと皇紀は

思ったのかもしれない。



 皇紀だけの身勝手な理由ではないのだろう。

 だけど……身を切られるように辛い。



 堕胎なんて、もし私や皇紀の親が私たちを妊娠した時に

堕胎を選んでいたら私たちはこの世にいないんだよね。


 これってそういうことなんだよね。



 皇紀は分かってるのかな。

 一生後悔しそうで怖い。



 身の内の葛藤と戦い続けている私の元へ追撃のようなメールが

深夜遅くに届いた。



 皇紀じゃない別の誰かからのメールなのに書いてあることは

私と皇紀に係わることだった。



『子供のことでうじうじ泣いて神尾を縛り付けるな。

 神尾に相応しいのは神尾に頼ってばかりのあなたではなく、

 元気づけることのできる自分こそが結婚相手として相応しい。

 もう神尾に連絡してくんな』



 どうやら略奪? 女のようだ。



 ご丁寧にホテルでのふたりの様子まで画像を添付して知らせてきてる。


 これって、皇紀は知ってるんだろうか。


 あまりのことにショックが大き過ぎて、まんじりともせず翌朝を迎えた。


 とにかく皇紀と一度話をしなきゃあと思い私は考え直してくれないかと

メールや電話で何度も連絡を入れたのだけれど、翌日だけじゃあなく、

ずっとなしのつぶてで皇紀から連絡が来ることは二度となかった。



 悩み過ぎたのがいけなかったのか、何が原因なのかは分からずじまいだったけれど休み明けに産婦人科に行くと赤ちゃんの心音が聞こえなくなっていて、望むと望まざるとに係わらず私の赤ちゃんは翌日お腹の中から消え去った。



 心音があっても無くても堕胎手術に変わりはない。


 いい子だね、親が苦しまないよう自分から身を引いたのだ。



 ごめんね……ありがと……ごめんね。



 会いたかった、お母さんはあなたに会いたかった。



 新しい命が誕生し歓喜している人もいる同じ部屋で

新しい命を失い失意のどん底にいる者もいる。



 何て残酷な場所。


 産婦人科の病室とはそういうところ。


 私は術後すぐに医院を後にした。

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