第5話 『苦しめてごめん・・』
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うきうき気分で週明け出勤した根米は昼休み休憩に入る30分前、
お手洗いで鉢合わせした先輩の
声を掛けられた。
いつもなら大抵『今日のランチは何にするの?』とか差しさわりのない
挨拶代わりのことを訊かれておしまいなのに、この日は違っていた。
「ね、何かいいことあった?」などと訊いてきた寺島は
ものすごく楽し気な様子で横幅いっぱいに口角を上げている。
確かに一昨日神尾と熱い夜を過ごしその余韻を手放すのがもったいなくて、脳内ではあの日の濃厚な時間を未だに思い出しては浸っている根米は
『ありましたとも』と言いたいところだった。
……が、ぐっと我慢した。
まだ確実にステディな関係とは言い難い状況でふたりの関係が後退するのは
避けたいと考えたからだった。
「最近高校の時の友達と久しぶりに会ってワイワイ楽しくやったからかな」
「ね、ね……同窓会があったの? 男子も来たの?
何組くらいカップルできた?」
矢継ぎ早に質問してきた経理事務の寺島まあこ女子は中途入社組で
私より社歴は2年先輩の42才独身だ。
年齢は私の9才年上になる。
人の恋バナが好きな人だから要注意だ。
「同窓会とかじゃなくて親しい友人2人と私との3人での飲み会でした」
「なぁんだ、男はひとりもいなかったの? つまんなぁ~い。
でもさぁ根米さんったらお肌ツルツルンで潤ってるから~、
てっきり彼氏でもできたのかなぁ~って。
焦っちゃった。うふふ。
根米さん、私たちってシングル《独身》という同じカテゴリに
属してるでしょ?
だぁかぁら、抜け駆けなしで勝負しましょ」
『抜け駆けなし? 勝負? はぁ~?
しかも33才の私と42才のおばはんなアンタとかよ』
私は思い切り胸の内とはいえ少々荒っぽい言いかたをしてしまった。
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