第八幕 決闘本気正気
――銭形勘十郎と風上蒼汰。2人の決闘が始まるとなって、女教師は2人を学校の決闘場と呼ばれる場所に連れてくる。そこは……まるで、大きなスタジアムのようになっていて、周りにいくつもの観客席が円状に並び、その真ん中には決闘者同士が戦うフィールドが展開されている。所謂、ローマのコロッセオと同じスタジアムのような作りになっており、その観客席のあちらこちらに……ちらほらと和服を着た生徒達が集まって来て、決闘をまるでサッカーや野球の試合でも見に来た客のように集まって来るのだった。
「……おい! なんか、一年生同士で決闘するみたいだぜ?」
「えぇ!? 一年って、こないだ入学したばっかりだろ? 早すぎやしねぇか!」
「……しかもなんかどうも、下級武士の奴と武士のなりそこないみたいなのがやるみたいだぜ?」
「……ふっ! この学校も落ちぶれたものだな。決闘とは、下級武士共が使う喧嘩両成敗とは違うのだというのに…………」
生徒達の中には、風上と銭形のやる決闘に全く興味を示さない者もいた。それも……多くは、上級の武士達。彼らの多くが決闘と言うものを古来から伝わる由緒正しき儀式だと思っている者は多かった。それもあって、今年度始まって最初の決闘が下級生のしかも……入学したての下級武士達による決闘などとなると……多くは、興味を示さず帰ってしまう。スタジアムの中に残ったのは、ごく少数の物好きと入学したてて決闘というものをいわば、学校行事のような感覚で見に来た一年生達だけだった。
スタジアムのフィールドの端と端に木刀を持った風上蒼汰。そして……反対側には、木刀ではなく……十手を2つ持った銭形勘十郎の姿がある。
「……ん? ちょっと待ってくれ。この学校の決闘は、木刀同士での戦いのはずだ。どうしてあんな……刀もどきを…………」
「……なっ!? 刀もどきとは、なんでい!」
風上が、銭形の持つ十手を指さして疑問を口にする。自分の十手を刀もどきなどと言われてショックだったのか……銭形が今まで見せた事もないような少し怒った顔で風上の事を睨みつけてくる。
すると、そんな揉める彼らの間に割って入って来たのは、この決闘を見届ける審判のような役割を担う事になったさっきの女教師。彼女が、風上に対してキチンと説明を述べた。
「……銭形は、家の事情により今回の決闘では特別に十手での戦闘を認めている。安心しろ。十手はそもそも人を斬ったりする時に使うものではないから……人を殺すような事はまずない。それに念のためアイツの十手には、アタシの詩術を施してある。パワーや重さなどは、お前の持っている木刀と同等だ」
「……なるほど。そう言う事ですか……。分かりました。上杉先生」
「……」
教師は、コクリと頷くとそのまま真剣な表情を浮かべて両者に向けて大きな声で告げた。
「……それでは、これより決闘を始めるがその前に……2人に言っておく事がある! 良いか? この決闘は、どちらかが死ぬまでやる古来のものとは違う。だから、まずお互いに真剣を抜く事は、絶対に禁止だ。今回の場合は、風上。ここへ来る前に更衣室などに真剣を置いて来るよう伝えといたが、間違いなくしまったか? もし、しまっていない場合や決闘中に真剣の使用が確認された場合は、即刻退学とする。決闘を侮辱しただけでなく侍の世界のルールをも侮辱した罪としてな。それから、私がそこまでと言ったらその時点で……何があっても決闘は終了だ。もし万が一、その時点でも決闘を続行しようものなら……その時点でその人の負け。そして、慎期間と言う事で2週間学校に来る事を禁止とする。その間の成績は、問答無用で全て0だ。それから、ルールについてだが……基本的に今持っている武器をはじめ、真剣以外なら詩術でも何でも使用する事は認める。ただ、こちらが危険だと判断した場合は即刻決闘は終了とする。それ以降も続けようとした場合は、さっき言った事と同様の処罰を下す。判定としては気絶などの戦闘続行不可能の状態となり、対戦者のどちらかが起き上がれない場合。それから、こちらが戦闘続行不可能と判断した場合だ。その時は、私が声をかける。この時点でまだ相手をいたぶるような行為をしようものなら……当然処罰を与える。……以上が決闘のルールだ。後は、好きなように戦え」
「……分かりました。刀は、置いてきました。大丈夫です。先生」
「……拙者もでい。わかりやしたよぉ。せんせぇ」
2人が、それぞれ返事を返すと上杉と呼ばれたその女教師は、彼らの真ん中に立ったまま片手を高く上げて両者の顔を交互に見て大きな声で言った。
「……それでは、これより決闘を開始する! …………はじめ!」
その合図とともに両者は、武器を構えて……次の瞬間に全速力で走り込み、そしてお互いの武器と武器を交えた……!
木刀と十手による決闘と言う事で、火花が散るとか……そういう派手な演出のようなものは、なかったが……しかし見に来た生徒達は決闘が始まると共に一斉に騒ぎ始めた。
そして、次の瞬間に銭形と風上の武器と武器によるぶつかり合いが激しく何度も起る……! 彼らの武器がお互いに衝突し合う中、銭形は十手を剣のように振り回しながら蒼汰に告げた。
「……!? あんさん、やっぱり結構早いでやんすね!」
「……」
蒼汰は、何も答えず、それから何度も物凄い素早さで攻撃を仕掛けていった。……序盤は、完全に蒼汰が有利に進んでいる。会場にいる他の生徒達も蒼汰の華麗な剣さばきに驚いていた。
「……なんだ!? あの一年、早すぎるぞ! 剣の動きがとんでもなく早い!」
銭形は、蒼汰のそのあまりの素早い剣にどんどん押されていく一方だ。彼は、どんどん後ろに下がっていく。
「……くっ!」
そんな苦しい状況の中、蒼汰が銭形に話しかける。
「……この勝負、侍の生まれでない貴方が俺に勝つ事はできない。何故ならまず、木刀と十手じゃ武器のリーチに差があり過ぎる。この時点で、アンタの勝てる確率はかなり下がる。……今ならまだ引き返せる。こんな勝負は、やめにしよう」
「……ほう?」
銭形は、風上の高速の剣さばきに、どんどん……どんどん押されていた。後ろへ……後ろへと……彼はどんどん不利になっていく。しかし、そんな状況の中で銭形は、風上の次の剣戟が襲い掛かろうとするそのほんのわずか数秒の所で一瞬だけ木刀を高く振り上げたそのちょっとの隙をつくようにもう一方の十手で風上を攻撃しようとした。
すぐにその攻撃に気付いた風上だったが、当然避ける事などできず、彼は銭形の十手による突きをそのままお腹に食らってしまい、一気に銭形から離れて後ろへと後退していく。蒼汰が後退していく中、さっきまでの猛攻になんとか耐えていた銭形がここで、口元をなんだか楽しそうな遊びにワクワクしている子供のように笑いだした。彼は言った。
「……あんさんは、ちょっとヘタレなんですかね? 男なら一度決めた勝負は最後までやり通すのが筋ってもんでしょうに……。まぁ、ええです。それに……拙者は、どうしても知りたいんだ。アンタと松平殿との間に何があったか……そして、それこそが……俺の…………」
「……ん?」
銭形の顔が急に曇り出した事を風上は、見逃さなかった。彼は、突然どうしたのだろうかと彼に尋ねようとしたが、しかしそれよりも先に銭形の方が動き始めるのだった。
「……次は、こっちの番ですかい! 行きやすぜ! 親分!」
銭形は、十手を二本両の手に持った状態で風上に向かって走って来るのだった――。
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