第16話 冒険者サンは第一号。
「……で、話ってなんだよ」
俺は、魔族であるポポロという少女に正体を隠すようにして、ローブ姿のままそう問いかけた。
だが、全く返事はない。
理由は、簡単な話だ。
「うわぁ〜!! すごいっ!! 魔界にもこんな立派なハンバーグないよぉ〜!! 」
要は、食事に夢中だからだ。
入店からずっとハンバーグ屋のメニューに釘付けとなり、俺への本題はすっかりと忘れている様子。
小さな口いっぱいに食事を頬張っていて、まるでリスのよう。
綺麗なエメラルドグリーンのサイドテールの髪を揺らしながら喜ぶ姿は、なかなかいじらしい。
それに、この魔族にはツノが生えてないんだな。
キラキラに輝く蒼色の瞳も綺麗だ。
こう見ると、この子ども、将来性はありそうだ。僕、こう見えてもロリコンではないので。
……まあ、それはそうとして。
これではわざわざ店内に誘われた意味がなくなるので、とりあえず浮遊魔法で料理の皿を手の届かない位置まで浮かせた。
すると、途端に必死の表情になるポポロ。
「な、何をするんだっ!! や、やめないかっ!! アンタ、テーブルマナーっていうものが成っていないな!! このハンバーグに謝りなさいっ!! 」
……やはり、イラッと来た。黙っていれば可憐な少女なのだが。
「もう一回聞く。何故、俺を追いかけてきた」
躾の如く厳しめな口調でそう問うと、まるで何かを思い出したかのようにハッと我に帰った彼女は、今度は身の丈に合わないポーズを取り始めた。
「くくく……。そうだったな。理由は、単純な話。リゼットのついでに、アンタの事も新魔族軍の幹部に勧誘してあげるってだけ」
なんか、仰々しい事を言った気がする。
もしこの少女の口から出た言葉が本当ならば、魔王なき今、軍の残党たちが新たに人間を襲うべく、領内にて再編成を開始しているのかもしれない。
それならば、とんでもない話だ。
せっかくこの国を救ったのに、再び戦禍が拡大しかねない。
そう成ったら、また戦場に行かなければならない。
そうなると、俺の青春はどうなる。
……考えてもみれば、ポポロは結界の使い手。こんなナリや性格ではあるが、もしかしたら、本当に軍の回し者なのかもしれない。
これは、リゼットと出会った時とは違う。
何故ならば、ハッキリと"新魔族軍"と口にしたのだから……。
帰るなりすぐに眠りに就いてしまったダメイドに話を聞くべきだった。
という事で、真意を再確認する為にも、手元に置いてある短剣を握りしめながらこう問うのであった。
もし、憶測が黒なら討伐せねば……。
「……本当に、魔族軍は動き始めているのか? どれぐらいの規模なんだ? 」
真剣な表情で質問をする。
……すると、彼女はフォークを手に取ると、怪しげな笑みを浮かべた。
「少しは興味を示したか……。我が新魔族軍の戦力は……」
ゴクリ。状況によっては、すぐにでも……。
ーーそして、ポポロは再び口を開いた。
「今はまだいない。だが、今後は百万人規模に増やす予定。その手始めに、アンタとリゼットって訳よ。どう? あまりのスケールの大きさにびっくりしたでしょう」
……………。
……んっ?
思わずポカンとした。
「えっ? ちょっと待ってくれ。って事は、今はお前一人って事? 」
そう聞くと、彼女はまるで『当たり前じゃない』とでも言わんばかりな顔でこう返答した。
「まあ、そうかな。"魔界の一匹狼"こと、ポポロ様ひとりでも全然実現は可能だけどね。感謝しなさい」
……つまり、こいつはボッチって事じゃないか。
なんだか、一瞬でもこの子どもの話をマトモに聞いてしまった事を後悔した。
だって、ヤツが口にした"世界征服"とやらは、ただの痛い妄言だったのだから……。
故に、これ以上コイツの茶番に付き合う必要はない事に気がついた。
「……じゃあ、俺、帰るわ……」
大きくため息を吐くと、俺は席を立つ。
すると、ポポロは先程までの凛とした表情から打って変わった。
「ち、ちょいちょいっ!! 待ちなさいって!!!! もし、ウチの願いが叶ったら、金銀財産は与えるから!!!! 」
「いや、そんなもんいらんわ。多分、リゼットも同じ気持ちだぞ」
「まあまあ、そう言わずにもう少し話を」
「あり得ないわ。世界征服なんて興味ないし。って事で、早く子どもはパパとママの所に帰りなさい」
俺がそう促すと、リゼットはポロポロと大粒の涙を流した。
「……なんでよ、ケチ。帰るなんて、できる訳ないじゃない。喧嘩別れして無一文で家出してきちゃったんだから。それに、みんな『世界征服なんかできる訳ない』とか言うし……。一回くらい見返したいじゃない……。なんで分かってくんないのよ。バカ、バカ冒険者……」
食事の手を止めて両手で涙を拭いながらメソメソとするポポロ。
……痛々しい。むしろ、憐れみすら感じてきた。
という事で、責めてもの慈悲として、俺はヤツに小袋に入った財布をそのまま渡した。
「これだけの金があれば、家まで帰れるだろう。ちゃんと謝って幸せに暮らせよ」
そう告げると、彼女はハッとした表情を浮かべると、濡れた瞳でコチラを見つめた。
続けて、ゆっくりと俺の財布の方に手を向ける。
よしよし、それで良いんだぞ。
……と思ったのだが。
ポポロは財布ではなく俺の手をギュッと握りしめたのだ。
「……やだっ。帰らないしアンタの勧誘を諦めないもん」
マジで面倒臭いヤツに絡まれたと思った。
だが、世間からの俺への目は厳しかった。
周囲に居る客の目には、幼気な少女を泣かせる不届者に映ったのだろう。
「あのローブの男、子どもを泣かせているわよ」
「どんなロクでなしだよ」
……畜生っ! なんで俺はいつもこうなるんだ!! ただでさえ、さっきギルドで心を抉られてるんだぞ!!
そう思って脂汗をかいていると、ここだと言わんばかりに、ポポロは上目遣いでこう言ったのである。
「お願い、ウチを捨てないで……」
結局、店内の空気に負けてしまった。
「世界征服はないが、友達なら……」
俺が押しにやられて目を逸らしながらそう返答すると、彼女の表情はみるみる内に晴れて行く。
そして、すっかり笑顔になると、最後にこう言ったのであった。
「うんっ! じゃあ、よろしくねっ! ウチの部下"第一号"っ!!!! 」
最強勇者の残念すぎるセカンドライフ 寿々川男女 @suzunannyo_ss
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