第15話 少女サンは強引。
「……じゃあ、帰ろうか」
魔石除去の依頼を終え、逃げるように早歩きをする俺とリゼット。
それを阻もうとする小物。
「ち、ちょっと、待ちなさいよ! なんでウチの話を聞いてくれないワケ?! ねえ、リゼット! これから世界を掌握する王の右腕としてアンタを部下にしてあげるから、早く言うことを聞きなさいって! 後、この破茶滅茶に強い男はなんなの? ウチの多重結界を破るとか、強い魔族? もし良かったら、アンタも……」
先程、いとも簡単に魔石を除去した衝撃から早くも立ち直ったのか、やたらと口が回る。小さい身体を大きく動かして。
……底しれないウザさを感じた。
「……はぁ。まだそんな事を言っているんですか、"'ポポロ"。相変わらずお花畑なのですね。今のアタシには、まるっきし世界征服などをするつもりはありませんよ」
リゼットは呆れた様子でそう否定をした。
……てか、この少女、名前はポポロって言うのか。
だが、アッサリとお断りされた彼女は、大きく口を膨らませた。
「なによっ! リゼットのケチッ! アホッ! 」
舌を出して苦し紛れの罵詈雑言。中身だけではなく、心まで子どもだ。
……疲れる。帰りたい。
多分、俺やリゼットから見るとそこら辺の弱い者にしか思えないが、あれだけの結界を展開出来る時点で、少なくともファビアンでは敵なし。
ならば、この場で放置した所で、暴漢や荒くれ者に襲われる心配もない。
それに、この少しの間で彼女の性格が"小心者"であるのも良く分かった。
だって、普通は知り合いならばすぐに会いに行けば良いじゃん。
なのに、こんな風にネチネチと魔石を作り出してリゼットの到着を待つ辺りがそれを証明しているのだ。
つまり、全くの無害。放置しても無問題。
故に、俺はリゼットの腕を掴むと、手際よく転移魔法を展開した。
「……きゃっ。ご主人様、大胆……」
わざとらしいダメイドの声にイラッと来たが、無視するとそのまま街道を離れたのであった。
ーー「ち、ちょっと待ちなさいょ……」
とか言う、必死の叫びを無視して。
*********
とりあえず、魔石除去の依頼を終えた。
リゼットと共に達成を告げに行くと、また『従魔』だとか、『専属メイド』などと、好感度を下げる発言をしかねない。
故に、一旦帰宅した後で、昼間にも関わらず二度寝を決め込む彼女を横目に、コッソリとギルドにやってきたのだ。
これで、駆け出し冒険者ブリアン(仮)の印象は鰻登りになるに違いない。
だって、誰も取り除くことの出来なかった魔石をたった一日で吹き飛ばしたんだぞ? 当たり前だろう。
……しかし、現実はそう上手く行かなかった。
「お、おめでとぅ……。と、ところで、リゼットさんは……」
受付のニーナさんは、ドヤ顔の俺に対して、引き攣った笑顔でそう確認を始めた。
更に、その端末を凝視しているギルド内からはこんな発言の数々が聞こえる。
「あのルーキー、リゼットさんから手柄を奪ったんだな」
「さいってぃ……。命を掛けて戦う私達への冒涜よ……」
「リゼットたそ、依頼を譲るなんて、マジ天使でござるっ! ブボボボボ〜」
多数の批判を受けた。
どうやら皆様、俺がリゼットの依頼達成の功績を奪った形と勘違いしているらしい。
こうして、俺に二つ目の異名が付けられた。
“卑怯者冒険者ブリアン“という。
その現実を目の前にして、俺はそそくさと報酬を受け取ると、足早にギルドを去った。
……な、なんで、こうなるんだよ!!!!!!!!
そう心の中で叫びを上げながら。
そして、しばらく放心状態でファビアンの街を歩いた。
「何故、上手く行かないんだ……」
何度も言葉を繰り返しながら。
……だがそんな時、傷心状態の俺の前にやたらとコンパクトフォルムな少女が立ちはだかった。
「や〜っと見つけたっ!! アンタ、このウチを放置するなんて、あり得ないんだからっ!! 」
騒がしい声の主は、紛れもなくポポロだった。
しかし、全く興味が湧かなかった。
故に、無視した。
……だが、生気のない俺を、執拗に追いかけてくる。
「な、なんで逃げるのよ!! 仕方ないから、アンタの実力を見込んで、ウチの部下に……」
……うるさい。誰がこんな小物の部下になってやるものか。
俺は今、傷ついてるんだよ。勘弁してくれ。
しかし、無視され続けて目にいっぱいの涙を溜め込んだポポロは、口を膨らませると、こんな事を言い出したのであった。
「……これ以上、話を聞いてくれなかったら、この場でアンタに『悪戯された』って、叫んじゃうんだからね……」
ピタッと歩く足が止まる。
同時に、脂汗が流れた。
……待て待て。もし仮に、こんなメイン通りでそんな悪魔の言葉を叫ばれたら、俺は、いや、駆け出し冒険者ブリアンはこの街に居られなくなる。
ポポロは、見た目は12歳くらいの子ども。
ただでさえ、卑怯者のレッテルを貼られた俺が、幼気な少女に手を出したとでも言われてしまえば……。
途端に正気に戻った。
『このままでは、まずい』と。
故に、隣で今にも叫び出しそうな彼女の両肩を掴むと、取り繕うようにこう伝えたのであった。
「し、仕方ないから、は、話だけでも聞いてやるよっ! 」
俺が動揺しながらそう提案すると、彼女は一瞬でニコッと笑った。
「やっと、話を聞いてくれる気になったのねっ!! じゃあ、とりあえずそこのハンバーグ屋に……」
俺はファビアンに来てからずっと、厄日が続いている。
だって、思い描いた青春とは真逆の人生を歩いているのだから。
これは、神様からの試練なのか?
そう思いながらも、嬉々として店内に足を進めるポポロの背中を、丸まった身体で追いかけるのであった。
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