第14話 魔石サンの正体。
「……ふう。危なかった……」
バカな同居人のカミングアウトが起きる前に、小さな身体を抱えたまま急いで街道の魔石の前まで走ってきた。
街で一番の冒険者を奴隷にしてるなんてバレれば、出禁男よりも不名誉な称号を与えられそうだし。
……にしても、リゼットのヤツ、俺に抱えられた事によって頬を赤らめてやがる。ちっ、ちょっとだけ可愛いじゃねえか。
「全く。強引なんですね、ご主人様」
その一言で気分は切り替わった。自宅でのコイツの振る舞いを思い出して。
どちらにせよ、さっさと目的を達成せねば。
……というわけで、ダメイドを乱雑に降ろすと、まずは魔石の周りをグルリと一周。
そこで気がついた事がある。
街道のど真ん中に聳える、おおよそ3メートル程の高さがあるその巨石には、幾つもの結界が編み込まれていたのだ。
アレクの術式には劣るものの、相当強固。
しかも、丁寧に結界を隠蔽する為の細工まで施されてる。
要は、地方都市レベルの冒険者では、とても除去出来る代物ではないという話。
……どちらにせよ、この岩は近隣の崖から偶発的に落ちた物ではなく、誰かが"人為的"に設置したと結論付けられるのだ。
「誰が、何のために……」
事実を目の前に、神妙な口調で思わずそんな言葉を漏らす。
だって、街のライフラインとなる道を意図的に封鎖するなんて、明らかに何らかの悪意の他何者でもない訳だし。
もしかしたら、この案件は想像以上に根が深いのかもしれないと思った。
……すると、隣で無駄に惚気ていたリゼットは、魔石の方に目をやると、俺の腕を掴みながら妙な事を言い出す。
「というか、この"色"の魔力って……」
ヒントになりそうな事を口走る。
「お前、何か知ってんのか? 」
俺がそう問いかけると、彼女は頷いた。
「はい。というか、この形の術を使用できる者なんて、"あの人"しかいませんし……」
既に答えを知っているっぽいリゼットはそう呟くと、魔力探知を開始した。
そして、すっかり周囲の気配を把握すると、真顔で街道に沿うように聳える崖の上を指差した。
「犯人、アイツです」
俺は吐き捨てるように放たれたリゼットの言葉を聞くと、人差し指の示す方向に視線を移す。
……すると、そこにはとても大人とは思えない小柄な身体である緑髪の魔族が立っていたのである。
目が合った瞬間、彼女はまるで『なんでバレた』とでも言わんばかりの驚愕の表情を浮かべた。
だが、慌てて切り替えるように不敵な笑みを浮かべ始める。
「や、やはり、やって来たなっ! 我が同胞、リゼットよ!! 」
まだ、動揺が残る口調。
そこですぐに分かった。
あの少女は、リゼットの知り合いなのだと。
……にしても、漂うポンコツ臭。
だって、無理やり胸を張って自分を強く見せようとする割に、顔は引き攣ってるし、微妙に震えてるし。
リゼット程の強大な魔力は感じられない。
どうしても小物にしか見えないのだ。
それに、先程の我が従魔の反応を見る限り、余り相手にしたくなさそうな感じだったし。
もし仮に、街に危害を加える様な存在なのだとしたら、討伐も考えたであろうが、今現在の振る舞いを見る限り、多分、少しビビらせればすぐに逃げるだろう。
故に、俺は短剣を振り下ろすと、巨石を結界ごと森林奥深くに吹き飛ばした。
ーー「ドカンっ!! 」
すると、憶測通り、魔族は呆然とした顔を見せた。
「……えっ? 」
その表情を確認すると、今回の依頼は滞りなく達成されたと分かった。
そして、俺は固まる魔族の少女を無視したまま、リゼットに「じゃあ、帰るか」と告げた。
「はいっ! では、今日はペテロ様のイメージアップ作戦の成功を祝してハンバーグを作ってください! 」
「……お前はメイドだろ。たまには自分で作れよ」
「何を言っておられるんですか。アタシは、食べ専なので」
「いやいや。それはメイドとは言わないだろうが……」
……だが、そんなやり取りを繰り返しながら歩いていると、魔族は必死の形相で眼前に現れた。
「ち、ちょっと、待って!! な、なんでウチを無視するのよ!! 」
涙目で立ち塞がる。
その姿は、余りにも惨めだった。
……同時に、大きなため息が出た。
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