第12話 ローブ男サンのイメージアップ作戦。


 リゼットが我が家の"メイド"となって、約半月が経過した。



 その最中、これからの生活に備えて、彼女の日用品やら衣服やらを購入。俺の金で、アレクが。


 続けて、彼女専用の寝室を用意した。


 まあ、まだ空き部屋が沢山あるからそこは問題ない。



 適応能力が著しく高いのか、すぐに生活に順応。


 ところが、住み着くや否や、早速、以前泊まっていた宿に置いてあったという怪しげな魔道具やら呪具なんかを持ち込んでからというもの、いつの間にか引きこもりがちになり、魔法の研究に明け暮れていた。



 ……つまり、今現在の彼女は、従魔ではなく、完全な居候となったのだ。要は、ただの食い潰し。このダメイドが。



 まあ、出会いの時の様に、『冒険に出ましょう! 』的な無茶振りがないのは有り難いが。



 今、嬉々としてやっている"完全復元"とかいう名前からしてチートっぽい魔法の研究成果が出ない事を願うばかりだ。



 という事で、すっかり日常に戻った。


 

 故に、今日は、何をしようか悩みながら、アレクとリゼットと共に俺が作った朝食を摂る。



 リゼットのやつ、いつもメシの時間だけは当たり前の様に顔を出してくる。マジでメイド失格だ。



「……で、正体を隠してから、街での印象は変わったのかしら」



「……まあ、な」



 食事の最中、毎日ファビアンの人々と楽しく交流するリア充の王女様からそんな問いを受けたのに対して、微妙な返事をした。



 ……実のところ、ここ数日、外出の際に例のローブを使用してからというもの、俺の"出禁男"の噂は薄まりつつあったのである。



 それは、各所の飲食店や観光地に足を運んで民衆の声に耳を傾けた結果、得た情報だ。



 最初は、「最近、あの変態を見なくなったな」くらいだった話が、「ここでの待遇に痺れを切らして泣きながら街を出て行った」的な話に移り変わり、最終的には、噂すら無くなった。



 アレクの方の情報によると、『あの変質者から解放されたお祝い会』とか銘打って、友人からパーティーの誘いを受けたらしいし。そこまで嫌われると、もういっその事気持ちいいわ。



 何にせよ、人間の適応能力には脱帽させられる。



 ……でも、結果的に俺、ペテロとしての印象自体が変わった訳ではない。



 つまり、今現在のまま身を隠した状態でいても、問題の根本を解消する事はないのだ。



「だけど、結局俺という存在が消えただけだしな。これじゃ、青春は出来ないよ」



 大きくため息をつきながら、小さな口でトーストを頬張るアレクにそう心中を吐露する。



「まあ、そうね……」



 彼女も、同じくらい悩んでくれている。


 

 今後、どうすれば良いのかって。



 ……だが、そんなドンヨリとした空気の最中、居候は朝食のツナサンドを飲み込むと、俺に抱きついてきた。



「そんな印象、関係ないですよっ! だって、師匠にはアタシがいるじゃないですかっ! 」



 ……うん。全然、嬉しくない。



 以前の俺なら彼女にムラッと来ただろうが、今ではすっかり恋愛対象から外れたから。ダメイドだから。


 そんなウンザリした気持ちの中で、清々しい程の無視を決め込んでいると、このやり取りにもすっかり慣れた様子のアレクは、何か思いついた様に、こんな提案をしたのであった。



「……だったら逆に、まずは"ローブの男"のイメージをアップしてみるのはどうかしら。そうすれば、街のみんなは信頼する訳だし」



 おお。それ、名案。



 確かに、今の俺は認識阻害の魔法で顔を隠したモブ。



 そんな謎の男が困っている人達の助けになれば、段々といい意味での噂話が増えるかもしれない。



 マイナスを大いに上回るプラスな行動を繰り返せば、最終的に正体を見せつけても受け入れやすいという話か。



「それ、いいな。天才かよ」



 という事で、即採用。



 早速受け入れた事に喜んだアレクは嬉々とした表情を浮かべた上で、更にこんな提案を始めた。



「でしょでしょ?! そこで、そんなイメージアップ作戦に打ってつけの"依頼"があるのよ」


「それは、一体……」



 そう告げられたことで、内容について問う。



 すると、彼女は詳細について話し始めたのであった。



「……これは、街の行商人から聞いた話なんだけど、森林地区に整備されている街道のど真ん中に巨大な魔石が落下したらしくて、馬車が迂回しなきゃいけないみたいなの。冒険者にも依頼を出したらしいんだけど、力でも魔法でも撤去出来ないって困ってるんだって。ここで、アンタの力を使えば、少しは印象が変わるんじゃないかしら」



 ……要は、慈善活動か。



 本来、その程度の依頼ならば、アレク一人で対処出来るだろうが、わざわざ譲ってくれたのか。



 めっちゃ良いやつ。



 それに、冒険者への依頼も正式に出ているなら、俺(Fラン登録済み)でも取っ掛かりやすい。



 じゃあ、乗っかるしかないじゃないか!!



「ありがとう、アレク。俺、やってみるわ!! 」



 俺は、彼女が用意してくれた最高のシチュエーションに感動しつつ、興奮から両手を握った。



 ……それに対して、顔を赤らめるアレク。



「……ま、まあ、元仲間が辛辣な評価なのが許せないだけだしぃ?! 」



 わかりやすいツンデレ。ええな。



 俺の今後の行動は決まった。


 

 これは、【謎のローブの男、英雄への第一歩大作戦】とでも名付けよう。



 ……そんな風に、活気付いた俺を見て、何故かリゼットは目を輝かせていた。



「何だか、楽しそうですねぇ〜。それなら、アタシも一緒に……」


「いや、お前は来なくて良い」



 即答しておいた。



 こんな危険な少女を連れて行けるかっての。



 それに、この作戦は、俺一人でやらなければ意味がない。



 という訳で、今日、ギルドに顔を出そう。



 ここから、俺の華麗なる逆転劇が始まるんだ。



 最高の青春に向けてな!!

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