第9話 ドラゴンクンとのお遊戯会。
リゼットの転移魔法で飛ばされた先。
そこは、沿岸都市ファビアンから、おおよそ一週間程歩いた場所にある竜の棲家の"ドラグーン地域"だった。
木々が薄い断崖絶壁の先には、天変地異とで言うべき炎のカーテンに、季節にそぐわない雪景色。
きっと、ドラゴン同士が喧嘩を繰り返した跡であろう。
遠目からでも分かる不穏な空気。
勇者時代に培った探知魔法によると、ファイヤードラゴンからアースドラゴン、フリーズドラゴンなど、ざっと二十匹はいるのが窺える。
……ここ、地獄の入り口?
思わず、苦笑いを浮かべてしまう。
いや、そんな事よりも……。
俺が引き攣った笑顔を浮かべていると、リゼットは俺の腕を組んだまま目を輝かせていた。
今の状況とは裏腹に。
「ど、どうでした?! アタシ、転移魔法には自信があるのですよ!! 」
……とっても褒めて欲しそう。
まあ、確かに、転移魔法なんて代物を使用できる人物なんて、この世で限られている。
一応、俺も使えるが、会得はアレクによる地獄のレッスンを3年も受けたものだ。
つまり、この娘、魔法に関しては、相当な手練れ。
多分、この国であるフラメタ王国の一級魔導師よりも、遥かに上を行っているだろう。
それは分かった。
でも、俺が憧れていたのは、可愛子ちゃんとの薬草摘みだったり、弱々なモンスターとの安全安心なヌルゲーバトルな訳で。
もう勇者時代の様な危機迫る闘いはたくさん。
そんな事を考えているからこそ、「す、凄いね……」と、心ここに在らずな状態で返事をするのがやっととなった。
だが、リゼットはフニャフニャな表情を崩しながら、「やったぁ〜。大魔導師様に褒められました〜」などと、恍惚の表情を浮かべるのであった。
とりあえず、帰ろう。
もう満足だろ。
生憎、大魔導師と勘違いしてくれているし、このまま伝説の魔物との対決するのは嫌だ。
後、先ほどは心を奪われかけたが、やっぱりこんな無謀な娘と行動を共にしていたら、いずれは"最果ての地"とかに連れてかれかねない。
よって、街に送り届けたら関わらないのが先決と判断。
という事で、今度は俺が転移魔法の呪文を唱えた後で、彼女の腕を掴もうとした。
「魔法、凄かったよ! じゃあ、そろそろ……」
だが、リゼットはもう既に俺の近くから居なくなっていた。
「お、おいっ!! 」
ーーなんと、単騎で龍の群れに突っ込んでいたのである。
「では、今度はアタシの戦闘力をお見せしますっ!! 」
そう告げると、彼女の持つ杖の先は、七色に染まっていた。周囲には無数の魔法陣。
待て待て。この大魔法は……。
「いや、だから……」
……そんな心の叫びも虚しく、彼女は杖を振り下ろした。謎のポーズと共に。
「カオス・インベイジョン!!!! 」
同時に、世界を破滅に導くかの様な激しい爆音が響き渡ると共に、辺り一帯の地形は崩れて行く。
ーーそして、すっかり爆風が止んだ時、俺は目の前の光景を見て呆然とした。
あれだけ物騒なオーラを放っていたドラゴン達は、一匹と残らずにピクリとも動かない状態からで死に絶えていたのだから。
……いやいや、ヤバすぎだろ。
この娘、ワンチャン俺でもかなりの苦戦する筈だぞ。
そう思うと、立ち尽くすしかなかった。
だが、衝撃を与えてくれやがった張本人は、至ってケロッとしていた。
「"師匠"、どうでした? 正直、あんなトカゲの群れでは大して実力を見せられませんでしたが、合格ですかね?! 」
自前の杖を振りながら、再びこちらに駆け寄る彼女。この娘、怖えわ。
後、いつ師匠に昇格した? 合格ってなんだよ。
そんな事を考えつつも、同時にある興味が湧いた。
……だって、これだけの実力があるなら……。
「はいはい、合格合格。それよりも、それだけの力があるなら、魔王軍でもかなりの地位に就いていたのではないか? 」
疑問を口にする。
それに対して、リゼットは「やった〜! 合格ですぅ〜」とひとしきり喜んだ後で、こんな事を口にしたのであった。
「まあ、一応、魔王軍にも属していましたよ。"混沌"の名で少しは有名でしたからっ! 」
ーー俺は、彼女の口から放たれた言葉を飲み込むと、真剣な表情へと変わった。
「お前、つまり、それって……」
何故ならば、この能天気で小さな娘は、魔王軍幹部だったのだから。
実際に姿を見た事はない。
だが、敵軍の"最終兵器"と恐れられた存在だったが故、"混沌"の名は人間にも知れ渡っていた。
まさか、そんな大物が俺の目の前に……。
いや、嘘だよね? 嘘だと言ってくれ。
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