第8話 大魔導師クンの予感。
えっ? この娘、可愛い顔してガチで言ってんの?
ドラゴン討伐、しかも、一頭ならず群って……。
流石に、嘘でしょ。
だって、俺もこのリゼットって娘もFラン冒険者だし。
ドラゴンは単体でもS級以上の冒険者が対象となる魔物。
それが、群れともなれば、間違いなく伝説級の敵となる。
正直、街の冒険者を全員集めたとしても、勝てない気が……。まあ、俺なら勝てるけど。
とはいえ、この娘は天然と判断。
いや、命知らずとでも言うべきか。
流石に冗談だろう。それに、ギルドだって、まさか駆け出し冒険者のそんな無謀を受け入れるわけがない。
「あ、あのぉ……。マジで行くんすか? 」
唐突な超高難易度クエストの提案に、引き攣った笑顔でそう問いかける。
……だが、リゼットの眼は紛れもなく"ガチ"だった。
「はいっ! きっと、ペテロさんと二人ならば、無難に倒せる気がするんですよ!! 」
……あれ? 妙に自信ありげ。もしかして、俺が勇者と知っての事か? って事は、やっぱり……。
そう考える内に、先程までの疑惑が脳裏に蘇る。
……だが、リゼットの反応は全く違うものだった。
彼女はまるで夢物語を語るかの様に美しい真紅の瞳を輝かせたのである。
「あなた、以前貧民街で『変態野郎』とか言って絡んできたギャングに向けて"印象操作"の魔法を使っていましたよね。あんな凄い術を使える"大魔導師"が身近にいるなんて、感動したのですよ」
彼女が嬉々として話した内容に、妙な納得をした。
つまり、リゼットは、最初から俺に狙いを定めていたのだ。
あの時、声を掛けてきたのも、偶然ではない。
それに、先程まで疑っていた魔王軍の差金による勇者の暗殺などではなく、純粋に魔法使いと勘違いしていると見た。
ある意味有名なペテロの名前を知っているというあたり、俺のこの街での悪行も理解していると見られるが……。
一瞬だけ、自分の現実を思い出して心が折れそうになったが、敢えてプラスに捉える事にした。
リゼットは街で"出禁男"という不名誉な名を付けられたこんな俺に、尚も、憧れを抱いてくれているのだから。
とはいえ、誰にもバレない様に使った筈のあの術を見抜く所を見ると、リゼットってかなり強いんじゃ……。
とりあえず、間違いなく駆け出し冒険者などではないのは事実。
……まあ良い。ゴチャゴチャ考えるのはやめた。とりあえず、疑惑は晴れたんだもの。
俺は殺されない。事実、この輝く瞳が物語っている。それだけで今は充分だわ。
……そうなると、やる事は決まった。
あとは、ドラゴン討伐なんて無謀な冒険は回避しなくては。
リゼットは魔法に自信があるのだろう。
でも、相手が相手。
俺なら簡単に倒せるだろうけど。
王を蹂躙した魔国領出身の事実がある以上、勇者を名乗るのは親愛度のマイナスに繋がりかねないし。
それに、間違っても死なせたくない。せっかくの伴侶候補な訳だし。
ペテロ、17歳。今、青春の予感がしています。
全く……。随分とリゼットという少女に心が奪われてしまったものだ。
だって、可愛いんだもん。仕方ないじゃんか。
ならば、ここはもう一度ギルドに戻って、無難なクエストを所望しつつ、大魔導師的な立ち位置でいい所を見せて……。
ーーだが、そう作戦を練っているのも束の間だった。
「では、早速行きましょうっ! 」
リゼットは腕を掴む。柔らかな双極が当たる。ムラっとくる。強引さにムラっとくるっ!!
「だから、そうじゃなくて……」
しかし、ハッと我に帰ってそう呟こうとした所で、彼女は抗う暇も与えずに、こんな呪文を唱えた。
「テレポーテーション……」
「待っt……」
同時に、朝陽が少しだけ顔を出した噴水広場から、俺とリゼットの姿は消えた。
まるで、最初から何もなかったかの様に……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます