第6話 Fラン冒険者クン。


 さて、やって参りましたは、冒険者ギルドっ!!


 ファビアンのメイン通りの一番目立つ所にある石造りの施設。

 ここには、世界中から猛者達が集まる場所なのです。



 勇者時代、冒険者の中に紛れ込んだ魔王軍幹部を見つけ出す為に名前を隠して潜入捜査を行った時、既にギルド登録は済んでいる。偽名でね。



 しかも、ランクはSSSまであるうちの、F。



 つまり、我は現在、クソ雑魚なのだ。



 本来ならば、簡単に最上位ランクまで登り詰められるだろうけど、テキトーに女の子とイチャイチャするならば、相手は弱いくらいが丁度いい。


 むしろ、ガチ勢なんかと関わったら、『龍を倒そう』とかやる気を出すに違いないし、のんびりとした冒険者ライフなんて行える訳がない。



 腰に短剣を差しただけの如何にもな初心者コーデも完璧。



 と言う訳で、身のこなしの確認や、ある程度の行動が決定した所で、意気揚々とギルドの扉を開けた。



 ……すると、その先は、活気に満ち溢れている。



 受付(嬢可愛い)では、報酬を受け取りに来た筋肉質の猛者たちが嬉しそうに銀貨を受け取っていたり、近くの食堂には旅の成功を祝して乾杯する声で賑わっている。


 以前の魔王軍との戦争時より、ずっと活気付いていて、そこには昔の様な悲壮感はカケラも感じられなかった。



 なんだか、その光景を見ると、平和が訪れたのか、と、少しだけ嬉しくなった。



 世界を救って、本当に良かったなって。



 ……それはさておき、辺りをキョロキョロと見渡すと、ギルドの真ん中に妙な銅像が存在感を示している事に気がつく。



 大剣を持っている割には、ヒョロガリだ。例えるならば、マッチ棒。

 それに、顔がめちゃくちゃ地味。目は細いし、髪の毛もボサボサ。眉毛も整ってない。


 どう考えても、彫刻になる様な偉人には見えない。



 もしかしたら、この国のドラ息子かなんかが使用人にでも無理やり造らせたのかもしれない。なんて悪どさだ。



 俺はそう思うと、前部のプレートに彫られたソイツの名前を見る事にしたのであった。



 すると……。



『世界の混沌に終止符を打った、偉大なる勇者 ペテロ・メルケン様』



 ……このヒョロガリ、俺かーい!!!!



 こんなダセェ訳ねえだろうが!!!! 誰だよ、彫刻師は!! 許せねえ!!



 それに、今は更に自分磨きが掛かってる訳で……。



 ふぅ。不快感から、一瞬だけ叫びそうになってしまった。


 まあ、ここは気を取り直して……。



 せっかくアレクから普通の振る舞いを学んだ事だし、落ち着くんだ。



 そう考えると、その場で一旦深呼吸をした。

 それから、すっかり冷静さを取り戻した上で、依頼書の貼り付けられたボードの方へ足を進めるのであった。



 ……それにしても、高難易度から初心者向けまで沢山あるものだ。



 どれにしよっかなぁ……。



 出来れば、多くのパーティーが合同で行う様なものがいいな。


 そうすれば、心ときめくヒロインの一人でもいるだろう。



 もう既に、近くにはヒーラー役と思しき娘や、少しワイルドな薄着こ格闘家風女子もいるし。



 これから、こんな娘達と……。考えるだけでワクワクする。



 そんな妄想を膨らませながらローブ越しでニヤける。



 ーーだが、その時、俺の下に奇跡が起きたのである。



「あ、あのぉ……。貴方は、お一人ですか? 」



 福音とも取れる神々しい撫で声が、背後より鼓膜を揺らした。



 これって、俺に向けてだよな。違いない。



 そう確信すると、慌てて振り向いた。



 すると、そこには平均身長くらいある俺よりも遥かに小さい魔族の少女が、不安そうに魔法の杖を抱えながら上目遣いで立っていたのである。


 完全に、俺を見ている。これは、間違いない。



 顔は……。合格っ!!!! 金髪ショートボブヘアも、頭の端から生えた紺碧の二本ツノも、ナイス!! 



 むしろ、あざます!!!! 付き合ってくれ!!!!



 だが、以前の出禁悲劇から学んでいた俺は、すぐに冷静な口調へと戻った。



「ああ、そうだよ。まだ駆け出しだけど」



 バクバクと高鳴る心臓の音を察せられぬ様、落ち着いた声で答える。



 その呼応に彼女はホッとした様な素振りを見せた後で、ニコッと笑った。



「良かった、です……。実は、アタシは今日が冒険者デビューなのですよ。故に、誰かご一緒に依頼を引き受ける人を探していた所で……」



 神様って、いたんだな。



 俺はそう思うと、『ここは押しどころだ』という本能に従って、天使よりも美しい微笑みを見せる彼女に向け、ローブ越しに白い歯をみせて、こう伝えたのであった。



「ならば、二人で冒険をするか。俺も、まだ経験が少ないから不安だし」


 

 ……すると、その受け答えに対して、少女は目を輝かせてお辞儀をした。



「う、嬉しいですっ! 早速、明日の朝に冒険をしましょうっ! 待ち合わせ場所は、中央の噴水前でお願いしますっ! では、また明日です!! 」



 やっべ。可愛い。好きだわ。



 思わず言葉に出しそうになった。



 そして、彼女は嬉々として一枚の依頼書を両手に抱えて、受付へと向かって行った。


 

 遠くに消えてゆく後ろ姿も可愛かった。



 こうして、俺は明日、人生初のデート(依頼だが)に臨む。



 ……あっ。そういえば、名前を聞くのを忘れてしまった。依頼内容を聞くのも。



 まあ、彼女とはこれから長い付き合いになるし、明日改めて自己紹介させて貰おうか。それに、冒険についても俺達はまだ、駆け出しの冒険者。



 そうそう強敵など現れる筈もないし。



 何よりも今は、思いっきり浮かれさせて貰おうではないか。



 だって、この街に来て初めてアレク以外の女の子とマトモに会話した記念日なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る