第5話 勇者サマの自分磨き。
アレクに痛烈なダメ出しをされてから、俺は自分の意識を変える事にした。
これまで、モテたい一心で女の子にうつつを抜かしすぎた結果、自分磨きを怠っていたのである。
故に、まずは容姿から。
手始めに髪を切る事にした。
本来ならば、おしゃれな美容室で今風のヘアーに生まれ変わりたい所だが、また悪評を広められるのを恐れ、アレクに「どうしても、普通の青春がしたいんだ! 諦められないんだ! 」と、土下座をする事によって、切って貰ったのである。
ヤツは元々、繊細な魔法陣を描かなければいけない魔導師であったが故、手先が器用な事を知っていたから。
もうどうせ、ボロクソに言われたついでなので、思い切ってお願いしたのだ。
あまりにも必死な対応に対して、彼女は「し、仕方ないわね……」と、案外アッサリと俺の提案を受け入れてくれた。
一本、また一本と繊細にお髪を剪定するたびに、現代若者へと生まれ変わって行くのを実感。
「……まあ、こんなものかしら」
鏡に映る自分は、まるでリア充。素晴らしい。
ついでに、『ボクの事を忘れないで』と言わんばかりに数本出ていた鼻毛も、ゲジゲジと見窄らしい眉毛を指南の下でカット。
更に、全身をローブで隠した上で、若者用の私服を数着購入。
自分の服のサイズと最近の流行については、王室のメイドからも人望のあったアレクから事前に告げられた。
結果、出禁男だとバレなかった為、目的の品はゲット。
最後に、変わろうと思う決意が伝わったのか、彼女は貴族御用達である晩餐会等における"感じがいい口調や仕草"の指導を始めたのであった。
「まず、アンタは人との接し方を知らなすぎるわわ」
この言葉から始まったコミュニケーション講座は、実に厳しいものだった。
「こ、こんにちは、ご機嫌、麗しゅう……」
アレクに秘密でハーピィの美女との会話を想像したら、思わず声が上ずる。
すると、興奮から滑稽な姿へと変貌した俺を見て、大きくため息をついた。
「……うわ、キモ。その痛々しい口調じゃ、アンタはまだ変態よ。なんで、普通に出来ないの? バカなの? 」
罵詈雑言の嵐。
そこからは、熱血指導が続く。
「うん。まあ、こんなもんかしらね」
約一週間にも及ぶダメ出しの期間を経て、自然な会話が出来た事が出来た。
努力実って、及第点を貰えたのである。
「や、やった……」
……気がつけば、アレクはかなり強力してくれていた。
アレク様々とは、この事を言う。
もし彼女がいなかったら、多分、俺はここまでの"ヤングボウイ"になれなかったはずだ。
そう実感を持った所で、一つ釘を刺された。
「当面は、顔を隠して生活しなさい。その上で、地道に"悪い人じゃない"って見せつけるの。そうやって信頼関係を築かない限り、どんなに外面を変えても"出禁男"っていう現状は決して変わらないわよ。じゃないと、アンタの描く青春とやらは永遠に無理」
「わ、わかった」
あまりにも説得力がある言葉を前に、今となっては師匠と化した彼女の言いつけを守る事にした。アレクがオカンに見える。
そして、すっかりと自分への自信を取り戻した俺は、ついに街に出る決意をした。
……今なら、行ける。モテたい、モテたい、モテたい、モテたい。
そんな欲望が、胸の奥底から湧き上がる。
だが、これまでの様な安易なナンパ活動は出来ない。
何故ならば、アレクからの『顔を隠す』という言いつけがあるから。
という事で、俺は顔を隠した上でモテる方法を模索した。
……それならば……。
最高の案が思いついた。
「……じゃあ、今日、社会貢献の一環として、"冒険者"としてギルドに行ってみるよ」
街に出るその日、とてつもなく高尚な理由をつけて、ステップアップした自分のコミュ力を試す事を伝える。
……そう告げると、アレクはまるで弟子の門出を祝うかの如く、目を潤ませた。
「……アンタ、やっと昔に戻ったみたいね。まるで、勇者だった時に戻ったみたい。本当に良かった」
彼女は、俺が改心したと勘違いして感動していた。
まるで、成長を見守るオカンの様に。
本当は、ついでに冒険者の美女に強さを見せてモテたいだけなんだけどねっ!
……なんて本音は言えない。
なので、勇者時代を思い出す様に凛とした表情を見せて、こう伝えた。
「では、行ってくる」
そんな過去に戻った事を錯覚させる振る舞いに対して、アレクは小さく頷いて微笑んだ。
「気をつけてね、ペテロ……」
不覚にも、一瞬だけ、師匠や腐れ縁などではない"一人の女の子"として、可愛いと思ってしまった。
だが、『気のせいだ』と、自分に言い聞かせた。
故に、慌てて気を取り直して真っ赤な頬を隠す様にローブに身を包むと、振り向きもせずに手を振って、逃げる様に自宅のドアを開けた。
バカアレク。お前は、お人好し過ぎるだけ。俺は、お前なんかとは……。
……そう心の中で何度も復唱すると、青春を取り戻すキャンペーンの第二弾へと旅立ったのであった。
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