第4話 お姫様サマのお悩み。


「はぁ…………」



 アレクは、帰宅するや否や、そんな風に大きくため息を吐いた。



 その声に、出来上がったばかりのシチューを配膳しながら応える。



「そんな深刻な顔をして、どうしたんだ? 」



 本日は青春活動をオフにしていたが故、日頃の苦悩から解放されて引きこもり生活を謳歌していた俺とは対照的な態度。


 ……まあ、今日も俺を蔑ろにして外で楽しんでやがるこの女には、少々の憤りを感じるが。



 だが、そんな能天気な発言に、彼女は激怒した。



「それは、アンタがこの街で人気がなさすぎるからでしょ! 」



 えっ? 今、なんて?



 すると、彼女はしなだれる様にテーブルへ座り込むと、こう続けた。



「せっかく、街の人に『彼はコミュニケーションを取るのが苦手なだけで悪い人ではない』って弁明しても、全然信じて貰えないし……。何のために、外面を良くしてるって思っているのよ」



 頭を抱えながら、そう心中を吐露するアレク。



 それってつまり……。



 思わぬ彼女の発言に、呆然とする。



 何故ならば、アレクはただ闇雲に外をほっつき歩いていた訳ではなく、単純に俺のイメージの回復に尽力していただけだったのだ。



「でも、どうして……」



 だって、そうだよ。

 彼女は俺を帝国に戻す為だけにここに滞在しているという話。


 つまり、俺の肩を持つ必要なんて、どこにもない筈なのだ。


 そんな疑問に対して、彼女はグッタリと顔を覆ったままの状態で、こう返答するのであった。


「だって、どんな理由があるにせよ、かつての仲間が悪く言われているのなんて、許せる筈がないじゃない……」



 衝撃を受けた。


 この女の事を、理解していなかったのだと。


 コイツは、今でも俺の事を仲間であると思ってくれている。



 気持ちにすら気付かずに、ワガママな理由でこの街に無理やり引き留めている。



 にも関わらず、俺が仕出かしてしまった"失敗"さえも、フォローし続けてくれていたんだ。


 俺は、本当にバカだった。


 周りを見ずに、自分の事しか考えず暴走してた。



 こんなんじゃ、"青春"なんか出来る訳がないじゃないか。



 だって、今、この瞬間ですら、目の前の大事な存在すらも悲しませているんだから……。



 そりゃ、女の子に不審者扱いされて当然だし、不良にも絡まれる訳だ。



 最低なヤツなんだから。



 そう思うと、心の底から反省した。



「ごめん、俺の為に……」



 ……すると、アレクは顔を上げると、頬を赤らめた。



「べ、別にぃ?! もし、アンタの描く"青春"とやらを諦めたなら、今すぐに帝国に帰っても良いんだからねっ! 」



 不器用なフォローが、胸に沁みる。



 コイツ、こんなにいいヤツだったんだなって。



 故に、もっと自分や他人と向き合わなければいけない事に気がつくと、恥を捨ててこう問い掛けたのであった。



「……これからの俺は、街のみんなとどう接すれば良いんだ? 人と関わる事に慣れなすぎて、どうして良いのか分からないんだ」



 ぬるくなったシチューを気にする事なく、真剣な口調で疑問をぶつけた。



 ……同時に、アレクは上目遣いで俺を見つめる。不思議と、視線は暖かく思えた。まるで、母が子に向ける様な優しさも感じる。



 もしかしたら、この数週間の共同生活の中で、勇者パーティーだった時以上の絆で結ばれているのかもしれない。



 そんな確証にも近い感情が胸に押し寄せた時、彼女はゆっくりと口を開いた。




「じゃあ、まずは女の子を見る時の気持ち悪いニヤケ顔をやめなさい。後、そのボサボサの髪型や、だらしくなく伸びた鼻毛と眉毛も整える事ね。それと、喋り方もヘラヘラしてて評判悪いし、服装のセンスも最低。まるでオッサンじゃない。つまり、今のアンタは全てが最低レベルなの。分かる? そんな状態で良くもまあ、青春なんかしようと思ったわね。フォローしている私の身にもなって欲しいものだわ」



 先程の雰囲気とは裏腹に、冷静な口調で放たれた痛烈なダメ出しのコンボ。



 ……少しでも、感傷的になった事が、バカバカしくなった。



 てか、アレクもずっとそう思いながら生活をしていたの?



 そんな事実が告げられると共に、俺はその場に崩れ落ちた。



「まじか……」


「うん」



 もっと自分を磨かねばと思った。

 

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