第3話 お仲間サマとの格差社会。
モテる為の足掛けとして、アレクを仲間に引き入れてから、約一週間が経過した。
最初は、「誰がペテロなんかと……」などと、駄々っ子の如く拒否を繰り返してはいたものの、どうやら皇帝陛下から彼女に課せられた使命は、飽くまでも【どれだけ時間が掛かっても、勇者を連れて帰って来る】だったらしい。
そこで、早く帰りたい彼女は何度も説得を試みて来たが、今度は俺が駄々を捏ねた。
「嫌だ! 俺は、最高の恋をすんだ!! 」ってな具合に。
結果、折衷案として、『俺が青春を諦めるまで』という条件付きで、アレクは同居を認めてくれたのである。
最初は、なんか知らんが、「だ、男女二人で同じ屋根の下なんて、卑猥っ! 」とか、「お風呂を覗いたら、爆裂魔法を打つわよ」など、執拗に警戒をしてきたが、そのギクシャク感もいつの間にか解けていた。まあ、お前とは何も起きんわ。すまんな、お姫様。
何にせよ、これは、とても良い事である。
これからも、ヤツからバシバシと女の子を口説くイロハを研究させて貰おうじゃないか。
ただ、『彼女を利用しているだけ』という真実に勘付かれるとまずいので、飽くまでも、「王女である事を忘れて、セカンドライフを楽しもう」的な建前を付けておいたのだが。
……そんな中、彼女との生活は、予想だにしない展開へと進んでいた。
「今日は近所のポポロちゃんの恋愛相談に乗るから、一日出かけて来るわね」
今朝方、アレクはその言葉を残すと、足早に我が家を去って行った。俺を残して。
最近は、ヤケに予定を口にする事が多い。
そう、彼女はいつの間にか、俺なんかよりもよっぽど、この街に馴染んでいたのである。
最初は、気のせいかと思っていたのだが、彼女の"リア充スキル"は異常に高かったらしく、商店街の皆様や女子達からも、すっかり信頼を勝ち取っていたみたいだ。
対する俺の生活は、一人の時と全く変わらないのに。
相変わらず、行く先々で出入り禁止を突きつけられるし。女子には避けられるし。マジなんなの、この格差は。
挙句、ここの所、変なウワサまで耳にする。
『アレクさんには退っ引きならない事情があって、無駄に金だけは持っている"出禁男"に無理やり仕えさせられている』
……そ、そんな訳、あるかいっ!!!! なんで、いつもいつも俺ばっかりこんな目に……。
とまあ、現状に卑屈な気持ちを持つと、気分を紛らわせる為に、今日も働きもせずに街をプラプラとしているのである。
……すると、あまり人気のない路地に入った途端、俺はガラの悪い大男達に囲まれた。
「……おいおい、この変態野郎。ちょっとこっちへ来やがれ」
「そうだぞ、"出禁男"〜」
如何にもチンピラと言った風貌の3人組に絡まれたのだ。
……どうやら、このスラム地区でも、俺の事は知れ渡っているらしい。どんだけだよ。女の子に声かけられるならまだしも。てか、俺ってこんな所にまで悪名が轟いているんか? 少しショックだわ。
まあ、どちらにせよ、この類の人間が考える事は、たった一つ。
「とりあえず、有り金全部出せ」
やっぱりねっ! それしかないよねぇ〜。
女からの逆ナンならば、いくらあっても足りないが。
……というわけで、流石に面倒臭いので、ここは、穏便に魔法を利用させて貰うとしよう。
もし、不良共に怯える女の子が居たならば、殺さない様に力を極力抑える形で、カッコよくチンピラを殴り倒す所なのだが、残念ながら今いる場所は、スラム街。
辺りには生気を失いつつあるような人間が多い。
よって、動くだけ無駄なのだ。
という訳で……。
「記憶、改竄……」
彼らに指を指してボソッとそう呟くと、体格の良いゴロツキ達は、ボーッとした表情になって行く。
同時に、ヤツらは何が起きたのか分からないと言った顔で、「あれ、なんで……」とか呟きながら俺の元を去って行ったのだ。
その後、小さくため息を吐く。
「……ホント、いつになったら青春を出来るんだろう……」
心からの一言と共に猫背になると、俺は誰もいない自宅へと足を進めたのであった。
チンピラにモテてもしょうがないだろってね。
……それにしても、なんか、背後から妙な気配がする様な……。
*********
スラム街の路地裏で、背丈の低い魔族の少女は、ある光景を目の前にして、衝撃を受けていた。
視線の先には、最近街で話題となっている一人の青年。
彼は、有名なギャング組織の一員であるファンク、ジョズ、グルードの3人に絡まれていたのである。
ここら辺一帯で、強盗の類に巻き込まれるのは、日常茶飯事。
……とは言え、見てしまった以上、見過ごすのも憚られた。
たとえ、その助ける相手が、この街で有名な出禁男だったとしても。
故に、早速両手にナイフを構えて彼を救おうと駆け出そうとしたのである。
ーーしかし、その場面で、少女は衝撃的な光景を目にした。
「記憶、改竄……」
そんな言葉と共に、先程まで殺気立っていたギャング達は、まるで赤子に戻ってしまったかの如く、首を傾げながらその場を去ったのだ。
……彼女は、その魔法を知っている。
「昔、文献で読んだ事がありますが、何故、あの人が、世界でも使用出来る者が限られる"秘術"を……」
そう呟くと、評判が地下深くまで潜っている"ペテロ"という青年に、妙な好奇心を抱くのであった。
「……これは、少し調査が必要かもしれませんね」
少女は覚悟を決めると、気付かれない様に猫背の彼の背中を追いかけるのであった。
……好奇心から。
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