漆話 ドウチュウ

大男と少女…うつけ者と博士は『神秘の門』が拠点にするアパート直前まで迫っていた。


「ヒャハハハ!!!おい、前に何か人だかりが出来てるぜぇ?どうするよ博士!!」

「じゃあここは穏便に対処しようか。」


うつけ者は走りながら大斧をインベントリから取り出し右手に持った。左手で博士の体を支える。


「あ?…穏便にぶち殺す?…かぁ!いいぜ、面白えなぁ博士は。それ採用だぜぇ!!!」

「対処=殺す…か。君の思考には驚かされる。まあ武器を持って敵意満々だし、それも…アリか。」


二人は敵陣に突っ込む。敵は数えただけで30人以上いる。戦力差は歴然…の筈だった。


「くそっ、相手はたったの一人なんだぞ!?」


「あいつ…何で斬っても刺しても全然死なないんだ!」


「ヒヒッ、一つ!二つ!!三つ!!!おいおい、潰しても潰してもまだまだおかわりが来やがる…ヒャハ。楽しくなって来たぜ!!!」


「…私は少し酔ってきたよ。っ危な!?」


博士は必死に体をよじりながら避ける。そこに槍が突き刺さりうつけ者の肉体を貫通した。


「よし、これで…」

「テメェ……俺様の獲物に手ェ出すなよ。」


大斧で男の顔面をかち割り、大斧を地面に置いて槍を引き抜いてから前方に向かって力一杯槍を投擲した。


「……ヒヒヒ、何人かの頭が突き刺さってまるで目刺みたいだぜ、博士!」


「君が目刺を知ってる事に私は驚きを禁じ得ないな。」


「…?目刺くらい知ってるぜ??俺様の大好物だからなぁ!!!」


「…結構マイナーだよ?目刺って。今の子ども達はあまり知らないんじゃないかな?」


そうこうしていると周りの人達が一斉に二人から距離を取り始める。


「ん?おい待てよ!…チッ、逃げるのかよ。」


「このタイミングでの退却…そうか。」


「博士、何か分かるのかよ?」


博士は含み笑いを浮かべていた。


「まあ想像がつくよ…でも説明しても君はちゃんと理解出来るかな?」


「…ヘッ、端的に言いやがれ。」


「弓による一斉射撃が来るから君はそれ避けるか迎撃してくれ。前者は難しいから…え?」


博士は上に飛ばされた。その瞬間100を超える矢がうつけ者を襲う。


「…やったか!」


遠くに避難していた者達が徐々にうつけ者に近づく。それと同時に博士が地面に落ちた。


「痛…。」


「おい、女の子が落ちてきたぞ。」


「大丈夫か?」


「…っ、こいつは『固有スキル持ち』だ、警戒しろ!!」


「っマジか!」


矢だるまになり動かないうつけ者を無視して人々は博士を囲み各々の武器を突きつけた。


「…女の子にその仕打ちはないと思うな。ただでさえ今は右足が無いのにね。」


「…っ、黙れ!!あいつと共に行動している時点でお前は俺達の敵だ。」


「狂人どもは大人しくここで殺されろ!」


博士は武器を突きつけられても尚、くつくつと笑い出した。


「あははっ…狂人か。天才の私が、馬鹿な君達に特別に一つアドバイスをしてあげるよ。」

「ふざけんな!!」


誰かが博士の左腕を斬り落とした。それでも博士は動じずに笑って言った。


「一度敵と認識した奴は最後まで殺しきらなきゃ…特にあのうつけ者とかは…ね?」


「はぁ?あの男はさっきの矢の一斉射撃で死んで…」


「おいどうした?」


いた筈の大男の姿がどこにもいない。誰かが叫ぶ。


「っ!?上っ、」

「ヒ、ヒヒ、ヒヒヒャハァァ!!!!!」


上空から矢だらけになったうつけ者が大斧を振り上げながら、落下…博士に気を取られ一瞬、

行動が遅れた者達は皆、その衝撃で肉塊と化した。


「……あー!!!死ぬかと思ったぜぇ、やっぱこうでなくっちゃあ…なぁ!!」


「…危うく、私も巻き込まれてそうだったけどね。次からは私に優しくして欲しいな。」


「ヘッ、知るかよ…んな事より……」


うつけ者は辺りを見渡して…嗤った。


「割と残りやがったか…ヒャハ。いいぜ楽しく殺り合おうぜぇ!!」

「くっ、遠距離班に連絡をっ!」


いの一番に駆け出した女性の前にうつけ者が立ちはだかった。


「さっきよりも動きが早っ…」

「おう、逃げんなよ。」


大斧で横薙ぎに一閃して、上半身と下半身が別れ赤いエフェクトが大量に出ながら即死した。


「おい、こいつがどうなっても…」

「手ェ出すなよ。さっきも言っただろうが。」


大男は大斧を博士を人質にしようとする男に向けて投擲し、見事顔面を破壊した。落ちてた棍棒を拾い上げながら、ゲラゲラと嗤い突撃する。


「嫌ぁ!!助け」

「ヒハ。死ねや。」


グチャ。


「悪かった、何が望みだ!?」

「んなもんテメェが死ぬ事だぜぇ!!」


グチャ、バキッ。


「こ、殺さないで」

「おう、殺すぜ!じゃあな…ヒャハ!!」


グチャ、バキッ、ベキッ。


——まさに阿鼻叫喚の光景だった。


「あ、ああ…」

「これで最後だ、ヒヒ…言い残すことはあるかよ?」


年端も行かない少年に対してうつけ者は狂笑を浮かべながら言った。


「死ね…死んじまえ!!お前は地獄に落ちろ!!!」

「…地獄ぅ?ヒャハ…」


憎しみのあまり涙を流しながら言い切った少年を馬鹿にする様にうつけ者は嗤う。


「じゃあ、先に行ってろオメエ。俺様が地獄に来たら案内役としてこき使ってやるからよ。」

「…っ!?ふざけ」


言い切る前に棍棒が少年の脳天に直撃しひしゃげて、先に地面に横たわった人達の仲間入りを果たした。


「…よし、全員ぶち殺したぜ。」

「とりあえず、私の事を助けてくれないかな?そろそろ回復アイテムを使わないとHP的にヤバい。」


うつけ者は博士を見る。


「ヒャハハハ!!!…見ねえ間に随分と歪な体になったなぁ博士。」


「…君に頼むのは正直不安だけど…とにかく死体からアイテムを回収してくれ。」


「ケッ、しゃあねえなぁ。」


そう言いながらうつけ者はテキパキとアイテムを回収していく。


「…意外と丁寧な仕事ぶりだね?」


「あん?成功報酬はしっかりと手に入れねえといけねえって…兄貴が毎回言ってるからな。」


「君にも兄がいるんだね。」


「…へぇ、オメェにも兄貴がいるのかよ?」


「あ。……ま、まあね。」


博士は複雑な表情を浮かべていた。


「ほらよ、回復アイテムだ…オラァ!!!」


空気も読まずにアイテム欄からポーション型の回復アイテムを取り出して、思いっきり博士の体にぶっかけた。


「ヒャ冷たっ……いきなり何さ!?」


「オメェが欲しいって言っただろ?ほら、まだまだあるぜぇ!!!」


「それは…うん。助かるけど体全体よりも、断面にかけたほうが効果的なんじゃ…?」


「効果的?ヒャハハハ知るかそんなもん!!」


「…君がそう言うなら、こっちにも考えがあるよ。」


「あん?オメェの今の状態で何が…っ冷え!?」


負けじと博士は右手でポーションの液体をうつけ者に投げつける。


「っ何でオメェが持ってやがる…?」


「周りにある死体から回収したんだよ…数では君の方が有利だが…その程度。私の技量で補うとしようか。」


「…ヘッ、勝負かぁ?ヒヒヒ…いいぜ。たとえボロボロな状態でも俺様は容赦しないからなぁ!!」


お互いにポーションをかけあう。


……



博士は立ち上がった。


「やれやれ、お陰で全快したよ。自力で歩けるっていうのは…改めていいものだね。」

「そうかよ…俺様も全快だ。」


うつけ者は刺さった大斧を抜き取り、構えた。


「俺様から離れてろ博士…邪魔だ。」

「…了解した。まあ私は戦力外だからね。」


スタスタと博士はうつけ者から距離を取った。

緑髪の少女が声をかける。


「…別にまだ喋っててもええんよ?……これが最後の会話になるんやから。」

「テメェがそれを決めんなよ…ガキが。」



合図も無しに戦いは始まった。
































































































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