陸話 ギルド

「お、お邪魔します。」

「そんなかしこまんでもええよ。」


現在、やまねはナツサに連れられ、とあるアパートの一室にいた。


「まあ、座ろうや。」

「失礼します…」


ここまで来るのに色んな事があったからか、やまねはつい、ため息がこぼれた。


「…ははっ、先に食べててええよ。今冷蔵庫からお茶持ってくるわ。」

「……ありがとうございます。」


コンビニから持ってきたおにぎりを頬張っていると、コップ二つとペットボトルのお茶持ってきてナツサは机に置いた。


「持ってきたで〜ほな、あたしも食べよ。この卵サンドが再現度が高くてな、いつ食べても飽きへんのよ。」

「…そ、そうですか。」


ナツサはムッとした表情をした。


「だからええんやって。そんな緊張せんでも。」


「その、ごめんなさい。道中にもこのアパート周辺に沢山の武器を持った人達がいて…それで。」


「まあ気持ちは分かるけどな。でも今はそれどころじゃないやん。」


「…デスゲームですからね。」


「それ、デスゲームだけに『です』をかけてるんか…はは!なかなかおもろいやん。」


「えっ!?…別にそんなつもりじゃ…」


その後ひとしきり、ナツサがやまねをからかった後、お茶を一口飲んで、机に戻した。


「あっ…あたしとした事が忘れてたわ。改めてやけど名前、教えてくれへんか?」

「…じゃあ、やまねで…ってあれ?」


本名を言った筈なのに、何も起こらなかった。

それを不可思議に思っていると、


「やまねくんね…別に言わんでもええけど、今まで何があったのか聞いてもええ?」

「え、いいですよ。」


やまねはここまでの経緯をナツサに話した。

唐突に地図を取り出して机に敷く。


「大柄の男ね…黒髪…赤目…やまねくん、どこで見たんか覚えとる?」


「地図なんて持ってるんですね…えっと、このマンションだと思います。」


「……近いなあ。」


ナツサがさっきとは違って真面目な表情で黙り込む。


「…あの人に心当たりがあるんですか?」

「……見てみい…これ借りたやつなんやけどな。」


説明書の裏に七人の人物の写真が載っていた。


「ぼかされてるけど…この人に似てます。あれ?ナツサさんっぽい人もいますね。でもこれって一体…?」


「…これはな『固有スキル持ちリスト』や。ほら、ここにやまねくんも載ってるで。」


「……本当だ…って、何で僕だけぼかされてないの!?…ていうかステータスを見る余裕がなかったから…僕が『固有スキル持ち』なのが今の今まで…その、気づかなかったです。」


「…とりあえず、ステータスを見るとええ。」


「!分かりました。」


やまねはステータス画面を開いて見てみる。


「『最も、優しき者』ってありますね、固有スキルは…『不殺の誓い』?効果は…『武器防具が使用不可になる代わりに、攻撃をほぼ無効化するレベルの防御力上昇バフを常時付与する。』…って書いてありましたよ、ナツサさん!」


ナツサは唖然とした表情でやまねを見ていた。


「…やまねくん、別に声に出して言わんでもよかったんよ?」


「え!?あっ、そうなんですね。でも、ナツサさんならいいかなと。」


「…あたしを信用してくれるんは素直に嬉しいんやけどなあ。次からはちゃんと言う相手は選んだ方がええで?」


「分かりました!ちなみにナツサさんも『固有スキル持ち』ですよね?」


ナツサは少し悩むそぶりを見せてから言った。


「…あたしは『最も、反射神経が良い者』や。『固有スキル』は…まあ、言わんでもええやろ。」


「え、勿体ぶらずに教えて下さいよ。ナツサさん!」


「はっはっはー…それを言う前にな、先にやまねくんに話さないけん事があってなあ。」


「……?」


ナツサは説明書をインベントリにしまった。


「一応聞くけどな、今のこのデスゲームの状況…やまねくんは知っとるか?」


「すいません、全く…分かりません。」


「うんうん、そう言うと思ったわ。安心せい、それを責めるつもりはあらへんよ。」


「えっと……教えてくれるんですか?」


「…やまねくんがそんな上目遣いで言うと、思わず抱きしめたくなるなあ。」


「…っ!?どういう事ですか!?!?」


「まあええわ、とりあえず教えたるからよく聞くんやで?」


「さっきの事が気になりますけど……分かりました。教えて下さい、ナツサさん。」


ナツサはお茶を飲んでから、話し始めた。


「まず、始まってから一時間が経過した頃やったなあ。外でアナウンスが流れたんよ…やまねくんは聞いた?」


「その時は室内にいたので聞いてないです…何かその…すいません。」


「気にせんでええって。アナウンスで色々言ってたんやけど要は、『ゲームマスターが脱落した』って内容やったわ。いや、ほんまびっくりしたで〜。」


「っえ、ゲームマスターが…ですか?」


「普通そこでゲームは終わる筈やん。でも、」


「まだ終わってない。まさか、って事ですか?」


ナツサは無言で頷いた。


「それか、このゲームに搭載されてるっちゅう人工知能【蒲公英】の仕業かもしれへんけど…まあ流石にありえへんな…映画の見過ぎや。」


「……。」


「話、続けるで。そんでその首謀者を探して倒すべく、プレイヤーのほぼ全員でギルドを形成したんや。相手はゲームマスターを倒した奴や。複数人で固まってた方が多少は安全やしな。」


「…ギルド、って事はここもそうなんですか?」


「そうやで?名前は『神秘の門』。あたしが名付けたんや……カッコええやろやまねくん?」


「あっ、そうですね。かっこいいです。」


「…感情こもってないなあ…まあええわ、でな、ここからが問題なんや。」


「問題?」


「それを話す前にやまねくん…お茶、一滴も飲んでないやん。喉はちゃんと潤した方がええよ。」


「?あ、すいません…今飲みますね。」


やまねはお茶を一気に飲み干した。


「…で、問題とは何でしょうか?」


「いい飲みっぷりやね…で、あたしがさっき『プレイヤーのほぼ全員でギルドを形成した』って言ったやんか?」


「言ってましたけど…」


「『ほぼ全員』…つまりなやまねくん。このゲーム内において、がおるねん。」


「…この状況で反対する人達がいるんですね。」


「正確に言うなら、反対というよりは…デスゲームを楽しんでると言い換えれるかもしれへんなあ…で、その人数は三人。情報では単独で動いてるらしいで?」

「えっと…意外と少ないですね?」

「全員が『固有スキル持ち』や。」

「…えっ?どうし……あ。」


瞬間、やまねは悟った。


「説明書にあった勝利条件…『七人いる「固有スキル持ち」を全員殺す事』だから…」


「…そうや、一般プレイヤーに狩られるリスクがあるのに他人同士で協力するのはおかしいと思ったんか、はたまた別の思惑があるのか…その辺は本人に聞いて見なきゃ分からんなあ。」


「そうですか…う…なんだか、眠く…」


やまねは机に突っ伏して眠り始めた。


「…はぁ、やっと薬が効いたんか。」


小さくため息をついていると扉が強く開かれて、大剣を持った男が入ってくる。


「…っ大変ですナツサさん、あいつらが前線を突破しました!!」


「もう来たんか。やまねくんを押入れに隠し終えたらあたしが出て戦うから、それまでの時間稼ぎ…頼むな。」

「っ、はい!」


そう言って男は出て行った。押入れを開けてから、眠っているやまねを背負って中に入れていた時にナツサはふと呟いた。



「…ん???」






















































































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