参話 バケモノ

…………。ダメージ自体はない。


(確かにあの女を斬りつけた筈だ。なのに、何故だ。)


あの『黄金の剣』は必中の効果がある。間違いなく、当たった筈だ。


ゲームマスターは立ち上がり、下を見る。


「…うっ。」


元々いた場所から、無傷で一歩も動かずにただこちらを見つめていた………追撃する気配がまるでない。


「まさか……。」


ゲームマスターは一冊の本を取り出し、読む。


「やっぱりか。」


(。)


固有スキル持ちになる条件は、千人のプレイヤーの中でも


『最も、最強な者』


『最も、運動神経が良い者』


『最も、反射神経が良い者』


『最も、優しき者』


『最も、狂いし者』


『最も、賢き者』


『最も、最弱な者』


この7名のうち、俺は『最も、最強な者』である。当然だ。ゲームマスターなのだから。


それに対して奴は『最も、最弱な者』だ。普通に考えて、負ける要素がない。


……。事前テストでは、運動は全く出来ず、病弱だという事を俺は知っている。


ーーなのに、そのはずなのに、つい声が出てしまう。


「何故こうも…手の震えが止まらないんだ?」


あの女が心底恐ろしい。


「……でも、やるしかない。」


ゲームマスターの特権をフルに使ってでも、倒してやる。


そうして、戦闘が再開する。先手を取ったのは無論、ゲームマスターだった。


(遠距離で仕留めてやる。)


『黄金の剣』をしまう。そして、無数の武器を空一杯に展開させる。


「……死ね!」


武器が全て楓に向けて、放たれる。


「……。」


その全てを一歩も動かずに、剣一本のみで撃墜する。


「っ!?まだまだぁ!!」


楓がいる周辺から槍が生え、彼女を貫こうとするが、全方位からくるそれを見ずに全て斬り落とした。


「っそこぉ!!」


ビルとマンションが楓を押し潰そうと迫る。

ぶつかった衝撃で物凄い衝撃音が辺りに響きわたった。


(どうだ!これで、)


瞬間、胸に衝撃が走った。地面に思いっきり叩きつけられる。


「が……は…。」


(『スーパーガード』が無ければ即死だった。)


『スーパーガード』、本来なら、一定時間あらゆる攻撃を無効化する。だがそれを、ゲームマスターの特権で時間を無限にしている。でも攻撃が当たれば普通に痛い。


少し離れた場所に楓は着地し埃を払っていた。相変わらず傷はついていない。


「はは、化物め。」


遠距離で無理なら、接近戦で殺してやる。


「これだけは使いたく無かったが、」


赤黒く輝く剣を取り出した。


名は、『一撃必殺即死ブレード』。

文字通り、この剣で傷つけた相手は必ず死ぬ。


これと『スーパーガード』があればどうとでもなる。が、念を入れる。


「……コマンド、『全ステータスMAX』。」


——ゲームマスター特権もフルで使う。


「コマンド…『リーチハック・オン』。」

「コマンド…『インビジブル・オン』。」


透明になった。あの距離からなら接近せずとも当てられる……剣を振った。


「…っ。」


少し驚いた表情をしながら剣で弾かれた。


(………は?防いだのか??この攻撃を。)


まぐれかもしれないと考え、何度か試行錯誤したが楓に当たる事はなかった。どうしようもなくなり、自身の透明化を解除する。その時少しびっくりしていた。



「…お前、何者だ?これのどこが最弱だ!?」

「あなたは敵、ですか?」


最初と同じ質問をまた投げてくる。


「ああ、敵だよ。お前もその弟も殺すのさ。」

「……そうですか。」


。無論リサーチ済みだ。


(一度、ここを離れて弟を人質にすれば…。)


勝機はある……と愚かにも思っていた。相手は人間なんかを軽く超越した『化物』だったとっくに理解していたというのに。 


——また胴体に痛みや衝撃が走るが、今度は踏み止まる。


「馬鹿め!俺のガードは最強だ!!」


反撃しようとして、体の動きが止まる。


「…。」

「何、言って……っ!?」


視界が揺らぎ、仰向けに倒れる。


「ぐ、ぐああああぁぁぁぁあ!?!?」


胴体が痛い痛い痛い痛い痛い…………

痛みの所為か『スーパーガード』が強制解除される。傷ついてはいなかったからか即死はしなかった。


「貴方のその剣を真似してみました。」

「っ有り得ない、どうやっ…て。」

「私の剣にあなたは沢山打ち付けたでしょう?」

「まさか、固有…スキルの効果…なのか?」

「え?ただ受けた効果を剣表面に残したまま、貴方を斬っただけですよ。」


(はは、イカれてやがる。)


持っていた剣を楓に投げつけたがあらぬ方向に飛んで行った。楓は男の体に剣を向けた。


「…さようなら。」

「っ!!!!


腹部に衝撃を感じて楓は下を見ると、深々とさっき男が投げた剣が体を貫通していた。血は出ないが赤いエフェクトが出ている。その姿を見て男は笑った。


「ざまあみろ…お前の負けだ。剣に追尾機能をつけたんだ…化物め、ここで脱落しろ。」

「……はあ。」


楓がそう呟くと、持っていた剣を鞘にしまって淡々と自身に刺さった剣を引き抜いて投げ捨てた……男が動揺する。


「な、なぜ死なない!?とっくに効果が出ているはずだ。」

「効果とかはよく分かりませんが………きっとあの剣は直接傷つけた方が効果的なのでしょうね。」

「…うっ、コマンド!『テレポート』」


——しかし何も起こらなかった。


「え、何で…どうしてだ!?テレポート、テレポートっ!!」

「…?何を言ってるんですか……。」


楓は少し呆れ気味に見つめながらまた鞘から剣を抜いた。その時脳裏にノイズが走った。


『人工知能【蒲公英】の判断によりアナタに「ゲームマスター」の全権限の譲渡がここに完了しました。引き続きこのゲームをお楽しみ下さい。』


「変な感覚ですね…。」

「は?貯蔵した武器も取り出せない!?お前一体何をしたんだ!」


男の怒鳴り声で楓は少し動揺した。


「えっ、いえ…私は何もしてませんよ。ただ声が聞こえただけです。」

「…声?……っ!まさか、」


男は思い当たった事を言おうとしたが首を斬り飛ばされ、それが中断される。


「貴方は私と私の愛しい弟の敵ですし…どの道貴方にゲームの知識とかは言われても本当に何も理解できないと思うので、時間の無駄だと判断し、斬らせて頂きました。説明をしようとしてくれた事には感謝します…ごめんなさい。」


飛ばした頭を拾って胴体の近くに置いてからお辞儀をして空を見上げた。


「あの子は無事…なのでしょうか?」


そんなことを呟きながら。



——デスゲーム開始一時間、ゲームマスター「棚田早八名やなぎた はやな」は脱落した。






























































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る