第16話 ガチャ装備 と フィーネ式ブートキャンプ


 そうしてガチャを回しまくることしばらく。


 リソースなら腐るほどあるから、とつい調子に乗って5000万ほどツッコんだ俺はガチャの可能性に打ち震えていた。


「まさか、こんなのもまで出てくるとは」


 ちょっといい武器出てくれないかなーと思ったら、めちゃくちゃなレアアイテムで溢れていた。

 【魔剣バルムンク】【邪血竜の鎧】【不死王の手甲】――etc

 どれも一級品どころか、そこいらのボスモンスターを倒した程度じゃ手に入らないSランク装備だ。


 そもそも鑑定スキルのない俺が、なんでアイテム名がわかるかって?

 そんなのガチャ回しまくったら≪スキル≫習得できたからに決まってるだろ!


 スキルってのは普通、モンスターを倒して経験値を得てレベルアップしたり、ジョブにつかなければ手に入れられないのだが、100万ツッコんだらカプセルになって出てきた時の俺の驚きがわかるか⁉


「いや、だからってここまで高性能とか、壊れアイテムすぎるだろガチャボックス!」

「マスター次行きましたよ」

「うおいっしょー!」


 フィーネの声援に魔剣バルムンクを切り伏せれば、眼前に飛び込んできたスライムが光の粒子に帰っていった。

 闘技場の訓練機能を使った簡単な模擬戦で。

 慣れない武器に悪戦苦闘する俺(万年体育1)のために、最低限の戦闘技術を獲得できるようフィーネが組み立てた戦闘チュートリアルを消化している最中だった。


 訓練とはいえ、普段に比べて身体の動きが軽いのは、やはりガチャで手に入れた装備の数々が俺のステータスを底上げしてくれているおかげなのだろう。


 まるでパワードスーツを着てるが如く、的確な動きの補助に俺は内心、感動していた。


(すげぇ! 俺がちゃんと探索者できてる!)


 スライム一体倒すだけで苦労していた俺が、いまや英雄十三家並みの強さを手にしているのだ。

 感動しない方がおかしい。

 だけど――


「はぁはぁ、治療明けにいきなりこの運動量はしんどすぎる!」

『お疲れ様ですマスター! もうすぐ訓練プログラム29も終わることですし、この訓練が終わったらいったん休憩にしましょうか』


 数十体ものスライムが消え、ドッと尻もちをつく。

 経験値が入らないホログラム相手とは言え、やはり慣れない戦闘行為は精神的に疲れるものがある。


 それでも何とか形になってるのは特級装備――伝説クラスの武具のチカラなんだろうけど、


『どうですか、マスター。私の考えた戦闘プランは』

「自分の思った通りに体が動くってのは楽しいもんだな、一つクリアするごとに自分でもうまくなっていくのがわかるな」


 むしろ、いままじゃ考えられないほど自由に動けてるからか。

 相手の動きを見てからでもバタつくことがなくなったのは本当にありがたい。


『まぁ今までの現状が現状でしたからね。お役に立てたようで何よりです』


 どうやら俺にかかった【醜悪の呪い】はよっぽど悪辣な効果を発揮していたらしい。


 まさか呪いの影響で人としてカウントされなかったと!


 ≪ジョブ≫とは本来、人類にのみ与えられた特権のようで、呪いにより魔族認定された俺は≪ジョブ≫としての恩恵を受けるどころか、逆に人類の敵認定され、日常的にバットステータスを負うことになっていたらしい。


『マスターが出世欲に駆られてレベルを無理に上げようとしなくて本当に良かったです。呪いを解かず、あのまま無理やり探索者を続けていたら、最悪ジョブの影響で近いうちに死に至っていた可能性がありましたから』

「マジかよ」


 落ちこぼれだった俺の立場が、俺の命をつないでたってわけか。

 強くなりたいのに、逆に自分の身体を使い物にならなくするとか、なんて皮肉だ。


『それではモンスターとの戦闘は慣れてきたようなので次は対人戦の訓練に移りましょうか』

「対人戦ってお前が、俺の相手をするのか」

『そうですけど、何か問題が?』


 いや、問題というか、ぶっちゃけ戦えるイメージしかないのだが、


『マスターいま失礼なこと考えましたね?』

「……いや別に。お前に戦い方を教えてもらうのは不安だなぁとか別に思ってないぞ?」

『はぁ、マスター。私は悲しいです。いいですか? これでも私は100年間このエルデンを管理運営してきた担当者ですよ? いつどんな方がマスターになってもいいように戦闘指南など当然、サポートサービスとしてインストール済みに決まっているじゃないですか』


 そういってにこやかな笑みを浮かべ、唐突に虚空から長剣を取り出すフィーネ。

 そこからは、まさに地獄の訓練が始まりだった。


 なにせ闘技場の機能を利用した『時間圧縮機能』に加え、魔力投影を利用した本物同然の殺気を五時間ぶっ続けで受けまくったのだからッ!


 どうやらマスターの願いを叶えるために存在しているというのは本当なようで、訓練は文字通りスパルタを極めた。


『攻め手に工夫が足りません!』

『ほらほら、足元がお留守ですよ!』

『はい、死にましたー。もっと真剣に敵の動きを見ないとダンジョンであっさり死んじゃいますよ?』


 この高性能な装備のおかげでギリギリついていけているが、この鬼畜秘書。

 戦闘初心者に対して要求するレベルが高すぎる!

 

 いや、俺も早く強くなりたいって言ったから、スパルタ気味になるのはいいけど、いきなり首ちょんぱとか、限度があるだろう!


『まぁだいぶ形にはなって来ましたかね。それでは休憩にしましょうか』

「だー疲れた!」


 ドッと地面に腰を下ろし、あたりを見渡せば、魔力投影で現れた俺の死体がごろごろ転がっていた。


 体感にして5時間ぶっ続けの戦闘訓練。

 実際は1時間しかたっていないそうだがそれでも、300回以上殺された。

 しかも一回も有効打を与えられていないとは


「くそ、なんで当たらないんだよ」

『それはもちろん。始めたてなので仕方ありませんよ。知性のないモンスターであれば装備の性能でごり押しできますけど』

「やっぱ、課題は知性を持つ相手か」

『そうですね。特にマスターは自信と同じ形のモンスを相手にすると極端に躊躇う癖があるようなので、まずはその苦手意識の克服からですかね』


 言いにくいことをズバリと指摘され、俺は大きなため息をこぼす。

 原因はよくわかっている。

 人を相手にすると、どうしても身体が硬直してしまうのは俺の中にある悪しき記憶の数々が原因だ。


「強くなるためにはこの問題をはやく克服しないとな」

『ですがマスターの動きも少しずつ良くなっていますよ? 初めての戦闘訓練ならこんなものでは?』

「いや、だからってこのままじゃ宝の持ち腐れだろう。ただでさえ、装備で下駄をはいている実力だってのに」


 イジメられた記憶がトラウマで対人戦が苦手だなんて笑い話にもなりはしない。

 それこそフィーネが建てた育成プランの目安であるレベル20なんて夢のまた夢だ。


 それに――


「このステータスじゃなぁ」


≪運営コマンド≫――NEW

≪ステータス≫

 <名前> 真上ミチユキ

 <レベル> 3

 <ジョブ>ビギナー

 <ステータス>

 最大HP:8

 最大MP:19

 STR:12

 INT:16

 VIT:11

 AGI:5

 MND:17

≪所持金残高≫999億0000万リソース。

≪装備≫聖魔剣バルムンク。邪血竜の鎧。不死王の籠手。

≪スキル≫:≪アイテムボックス≫≪鑑定眼≫≪危機感知≫≪バックステップ≫≪MP自動回復≫


 うん。装備に使われてる感がすごいな、このステータス。


『まぁ戦闘スタイル確立はおいおいですね。それよりどうですかマスター。実際にガチャ装備を使ってみての戦闘の感想は』

「……ぶっちゃけ助かってる」


 どれも初級スキルだが、特定条件でモンスターを倒したりレベルアップしないといけないから、リソースを突っ込むだけで手に入れられるのはマジでありがたい。

 特に≪アイテムボックス≫はアイテムポーチいらずの上級スキルだからめちゃくちゃ当たりスキルと言っていいだろう。


「つくづくガチャ回すだけで強くなるってのは反則だな。どんな俺でもこれだけ強くなれるんだから」

『ふふん、当然です。自分がどれだけ恵まれたチャンスを手に入れられたか、そろそろ実感できたんじゃないですか?』

「ああ、課金中毒者が、破滅するまでガチャを回したがるのもわかるな」


 特に俺のこの身体だと、いちいちサイズや値段を気にしないといけないから使用者の身体にアジャストしてくれるガチャ装備は本当に助かる。


『まぁリソースを代償にマスターの願いを具現化した専用武器と言ってもいい代物ですからね。マスターの願いに合わせた最適化機能が搭載されているのは当然なんじゃないですか』


 これが失われたロストアイテム――遺物とリソースのチカラなのか。

 お金に余裕があるって本当に最高だな。


「そういえばフィーネ。さっき気づいたんだけど俺のレベルがちょっと上がってるのはなんでかわかるか? 訓練モードじゃ経験値は入らないんだろ」

『そう、ですね。どうやらミノタウロスを倒した経験値が加算されたようですね。耐久値が上がって死なずに済んだのもそのおかげかと』


 あーなるほど。あの痛みはレベルアップの痛みか。

 どんな経験値減衰のせいで経験値取得が1/100になっていたとはいえ、よく上がったものだ。

 

(それだけ化け物だったってことだろうな)


 そういえば初めてレベルが上がったときも、痛みに耐えきれずにぶっ倒れたっけ。 


「しかしレベル上げか、やっぱ憧れるよな」

『やはり強くなるのは興味ありますか』

「まぁ上位配信者を目指すんだったらレベルは必須条件だからな。そりゃ興味あるよ」


 あの九頭代でさえ、レベル二桁あるのだ。呪いが解けたとはいえ、今の俺のレベルは3だ。

 アカデミー生の中で、今期、一番出遅れている生徒はおそらく俺だろう。

 

 何としてもこの遅れだけは取り戻さなければならない。


「それに成果社会のいま、レベルが上がるだけで俺が抱える大半の厄介な面倒ごとが消えるのだから、欲しいと思わない方が可笑しいって」

『そうなのですか』

「まぁ一気にレベルを上げられればいいんだけど、さすがにそんな都合のいい方法があるわけ――」

『ありますよ?』


 はい?


「フィーネ。いまなんて」

『ですから一気にレベルを上げる方法ですよね? なんでしたら訓練もいい頃合いですし、試練を始めましょうか?』

「は?」


 すると闘技場に透き通るような鐘の音が響き渡った。

 ゴーンゴーンと体の芯を震わせる音と共に、周囲の空気が若干重くなったような気がする。

 それにこの鐘の音、昨日も聞いたことがあるような気がするが


「フィーネ、お前いったい何をした⁉」

『私は何もしてませんよ。ただ試練の開始の時間になっただけです』


 訓練の時間だと?


『いまのマスターであれば大丈夫だとは思いますが、油断していると死にますよ』


 すると、ゾクッとスキル≪危機感知≫が反応し、背筋に冷たいものが走った。

 何か来る!

 慌てて後ろを振り返れば、脂肪を大きく揺らすオークが俺めがけて棍棒を振り下ろしている最中だった。


「オークだと⁉」

『次、きますよ』

「くっそ」


 装備によって底上げされた動体視力が攻撃を見切り、寸でのところで地面を蹴る。

 そして一度、バルムンクでオークの武器を打ち上げれば、訓練通り。オークの肉体にバルムンクを叩き込んだ。

 血しぶきを上げ光の粒子になることなく闘技場に倒れるオーク。


 その瞬間、俺の身体の奥底から言い知れぬ熱が沸き上がるのを感じた。

 ぐぅ、何だこのむず痒い痛みは。


「身体に熱が走るこの感じ、まさかレベルアップか!」


 とっさに闘技場に残ったオークの死体を凝視すれば、どうやらこのオーク。

 魔力で投影された仮初の肉体ではないようだが、


『お見事! 今のマスターなら雑兵程度なら倒せると信じてました』

「どいうことだフィーネ! ここは安全じゃなかったのか! なんでダンジョンモンスターが出てくるんだよ!」


 闘技場のモンスターは魔力投影で再現された存在で、実体はないはずだろ!


『マスターの言う地上の闘技場がどういう形で機能しているかは知りませんが、元々、闘技場はモンスターの育成場として使われているので驚くようなことではないですよ?』


 フィーネ曰く。

 どうやら俺は現在、このエルデンを管理する者としてふさわしい資格を持つか運営から精査している途中らしい。

 なので、これ以上のサポート機能を利用してもらいたいフィーネとしては、さっさと俺の実力を運営に認めさせて正式に俺の担当として仕えたいそうだ。


「つまり、もっとリソースを使ってもらいたいから、さっきから無茶なカリキュラムで俺の戦力強化を優先させていたわけだな」

『さっすが私のマスター! 話が早くて助かります!』


 どうしよう。すごくぶん殴りたいんだが、モンスターが邪魔でぶん殴れない!

 

『今のマスターはほとんど『資格』を得た状態ですので、ガチャで装備を整えたいま、最後の資格を得るのもそこまで難しくないかなと』

「マジかよ」


 道理であのスパルタな詰め込み授業だったわけだ。

 フィーネめ。こうなることを見越して俺を闘技場に連れてきたな。


 すると転移魔法が発動したのか、闘技場に次々と亜人系のモンスターがあふれ出た。

 ワーウルフ、ハイオーク、オーガ。

 くっ、どれも今の俺のレベルでは勝てない怪物たちだが、やるしかないのか。


『それでは支配者の試練を始めましょうか。マスターはアレらを従わせて、見事このエルデンを支配する主としての資格を獲得しちゃってください!』

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