第9話 不本意な【コラボ】 と その【代償】
探索者の生存率は、アイテムの有無に直結する。
これは命がけでダンジョンに潜る探索者であるなら、誰しもがわきまえている常識の一つだ。
回復薬一つにとっても、それ一つ用意するだけで命をつなぐ場合が多く。
それゆえ、ちょっとした補助アイテムでもそれなりに高かったりする。
大金を手に入れたい以上。それなりの備えは必要と思って、九頭代たちとの闘いに備え、学園の自販機で100万くらい【補助アイテム】を買いまくったんだけど――
(まさか、こんなまともな状況にまで追い込まれているとはなッ!)
現在、俺と【英雄の剣】は、突如ダンジョンの壁を突き破って現れた化け物――ミノタウロスを相手している最中だった。
会敵するなり、問答無用で大斧を振り回すミノタウロス。
敵味方の区別がついていないのか。不本意にも生き残るために協力体制を敷かざるおえず、俺は【英雄の剣】のサポート役として補助アイテムを投げまくっていた。
「おらブタ! 出し惜しみしねぇでもっと呪符を使って俺のステータスを上げまくれ!」
「わかってるっての!」
こちとらどれだけお前らの見せ場を演出するため、お前らの連携を研究しまくったと思ってんだよ。
不本意ながら、お前らが何したいかなんて言葉にされなくてもわかってる!
買った呪符を湯水のように使えば、限界以上にまで高まったSTRで大剣を振り下ろす九頭代が次々と攻撃スキルを唱えていった。
「クソが! これでくたばりやがれ! ≪ソードストライク≫ッ!」
上級ジョブ≪大剣使い≫の最大出力の技が、ミノタウロスに炸裂する。
≪ソードストライク≫
体内で練り上げた魔力を刀身に込め、一気に放つ上級ジョブ≪大剣使い≫の奥義だ。
その壮快ともいえる派手な一撃は、これまで配信で多くのモンスターをこの技で仕留め、期待の新星チャンネル【英雄の剣】と名を馳せるきっかけとなったはずだが――
「効いて、ねぇだと⁉」
「――ッ、受けるな九頭代! 横に飛び退け!」
九頭代の驚愕の声と共に、ギロリと真っ赤な眼光が下手人に向けられ、煌めく大斧が勢いよく振り降ろされた。
ドゴンと破砕音がさく裂し、土煙の奥でむき出しになったダンジョンの地面が黒く赤熱する。
スキルを使わず、大斧を振り下ろしただけでアレかよ。
「九頭代、無事か!」
「当たり前だ! 英雄たる俺様があんなちんけな攻撃にやられるかよ! それにでも――」
「あれだけ攻撃して効果なしか」
短時間とはいえ、STRやAGIを上昇させる呪符をふんだんに使ったのに、効果なしってどんな化け物だ!
「くそ! なんだってこんな浅い階層にこんな化け物がいんだよ。アカデミー調査部はどうなってやがる!」
「追及はコイツを倒してからだ! 今はこの状況をどうにかすることだけ考えろ」
「テメェに言われねぇでもんなことわかってるんだよクソが! 一撃必殺がダメなら次は連携してあいつをぶっ殺す! 俺様の動きに合わせろ! タメオ! トウシロウ!」
「おう! まかせろ≪タイガーフェスト≫ッ!」
「踊れ! ≪サンダーバレッド≫!」
≪十拳闘士≫の太宰と≪魔導士≫の善財の一撃が波状攻撃となって、ミノタウロスを襲う。
どちらも上級ジョブの一撃。だが肝心のミノタウロスに効いている様子がない。
以前、補助アイテムを使った三人のステータス強化は続けている。
だがレベル15の技を食らい続けても、大斧を振り回す姿は衰えることなく。それどころかむしろ勢いを増していて――
(おかしい! あのミノタウロス、明らかに階層ボスのレベルを超えてるぞ!)
階層一つにつきボスモンスターは一体。
それは魔王軍が滅ぼされてから100年変わらぬ絶対の法則だ。
基本的に、モンスターは寿命で死ぬことはない。
第10層のボスエリア≪ブラッディ・ワーウルフ≫はアカデミーの管理化にある以上。学園が我が処分しない限り、新しいボスモンスターは『リポップ』されないはず。
だとするなら考えられることはただ一つ。
「まさか――ッ⁉ 深層から這い出て学園が管理していたボスモンスターを殺したのか⁉」
となれば相手は【統率者】クラスだ!
闘技場のジェネラルオークと同じく35レベルクラスの化け物。
十三英雄の家系とは言え、レベル十五どまりの一学年が勝てるような相手じゃない!
「九頭代! 戦闘中止だ。ここはいったん逃げたほうがいい!」
「ああんテメェ、勇者である俺様に逃げろっていうのか? いったい誰に命令してんのかわかってんのか⁉」
くっ、この傲慢チキが。
パーティーのリーダーのくせに戦局も冷静に分析できないのか!
「四の五の言ってる場合じゃない! 相手は学園が管理するボスモンスターを殺した可能性のある化け物だ! 死にたくなかったらいうことを聞いて撤退しろ!」
「ソウヤ。どうやらあの平民の言う通りです。あれは、アレは最深層クラスです」
「なっ⁉ レベル40クラスだと⁉ なんで今まで言わなかった」
「使っていました! だけどボクのレベルでは即座に測れないほど格上だったんです!」
普段気丈にふるまっていた善財の声が震える。
それほどの格差があるという証拠だろう。
「とりあえずここは撤退しましょう。アレは明らかに上級生案件です。英雄ジョブでもないボクらじゃ絶対に勝てません!」
「だからってどうすんだよトウシロウッ! 相手はレベル40クラスなんだろ⁉ あんな化け物相手に逃げ切れんのか⁉」
「それは――」
「……そうだな。このままじゃ逃げきれねぇ。なら俺様に一ついい考えがある」
いい考え?
「いいか、俺が合図したら一斉に九層の入り口まで走れ。それまで俺様がなんとかしてやる」
「馬鹿言うな、いくら何でもお前ひとりじゃ無理だ!」
「うるせぇ、いいからやれ時間がねぇんだ!」
そしてカウントダウンの合図と同時に駆け出せば、振り返りざまに飛んできた拳が『俺』にせまり、
「は?」
あまりにも突然の衝撃に反応できず、受け身も取れないまま俺の身体がミノタウロスの下まで吹き飛んでいった。
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