第7話 『オーク狩り』開催?


 どうも、世界一運がいいのか悪いのかわからん男、真上ミチユキです。


 宝くじの当選配信見てたら、見事に配信事故でやらかしました。

 いやー人生、ほんとなにあるかわからないな。

 まさか冗談で買った宝くじ、全部あたる日が来るなんて。


 そんな俺はあまりの現在を前に、ダンジョンで気を失っていたはずなのだが――


『おい! あの豚どこ行った!』

『レベル低いからそう遠くに入ってないだ!』

『100億♪ 100億♪』


 そう、配信事故で奇しくも大バズリを果たした当日。命からがら鬼ごっこが始まっていた。

 すれ違う探索者の声がダンジョンに響き渡る。


 『オーク狩り』と称したこの偽イベント。

 どうやらコメント欄のデマが原因で開催されたみたいけど、


(誰だよこのHNサイキョ―ってやつ! いくら派手に配信事故したからって、なんで俺を捕まえたら賞金ゲットできるって話になるんだよ!)


 お祭り好きの視聴者の集まりだからって悪ふざけにもほどがある!

 よく見ればアカデミーの生徒までおり、普段ガラガラのはずの第一層は、高レベルの金目に飢えた探索者で溢れかえっていた。


(くっそ、本格的に包囲網を強いてやがる。うまく誘導して同士討ちさせれば逃げ切れるか? つか、俺の賞金はモンスターのドロップアイテムかなにかか⁉)


 そうしてどうにか狭まりつつある包囲網をどうにかかく乱し、ダンジョンから逃げきった俺は、家に帰らず隠れるように学園に向かっていた。


 理由はもちろん、休学届を申請するためだ。

 なにせダンジョンでこれだ。

 あんなバカ騒ぎがあった以上。呑気に学園に登校し続けようものなら、間違いなく嫌な意味で注目を浴びてしまう。


 俺の読みなら、この時間帯ならまだアカデミーに登校している生徒は少ないはずだけど、


(どうか。誰も知りませんように)


 そうしてヤマトダンジョンアカデミーまでくれば、案の定、ほとんどの生徒は出払っている最中だった。

 さすがは撮れ高のためなら、どんなこともする配信者の集まり。

 予想通り、多くの生徒が『オーク狩り』に出払っているのか。学園はスカスカだった。

 

「――よし、これなら大丈夫そうだな」


 そうして慎重に廊下を移動し、1ーEと書かれた教室を見上げる。

 あとは課題と休学届を提出して、折を見て家族と合流しよう――と思ったら背後から首を狩るような一撃が飛んできた。


「おーい! 例の億万長者が来たぞー!」


 馴れ馴れしく肩を組まされたかと思えば、男の声が学園に響き渡る。

 するとどこに潜んでいたのか。わっと群がるクラスメイトに飲み込まれた。


「な、なんでお前らがここに。ダンジョンに行ったんじゃ」

「ふっ、臆病なお前のことだからどうせ戻ってくるだろうと思って教室で待ち伏せてたんだよ」

「見ろよこれ。すごいニュースになってるぜ」


 そういって突き出された見出しの一面に俺はたまらず声を上げた。

 『オーク、高額当選者が軒並みかっさらう⁉』

 いやそれより、あのふざけたイベントがなぜか公式化してるのは一体どういうことだ⁉


 情報が独り歩きしているのか、面白半分に懸賞金まで掛けられてるし、俺の個人情報までばっちり公開されている。

 くっ、これだから目立ちたがり屋の配信廚は!


「いやーお前ならやってくれると思ったぜ。見ろよ、お前のクソチャンネル10万人突破したってよ」

「ほんと持つべきものは親友だよなー」

「ところで億万長者のお前に買ってもらいたいものがあるんだよね」

「ねぇねぇ、私と付き合わない?」


 視界にあふれかえるクラスメイトたち。

 これまでさんざん、デブだのオークだのバカにしてきたくせに、大金を手にしたらこれかよ。


「なー俺たちいままでさんざん世話焼いてやったよな。そろそろ迷惑料支払ってくれてもいいんじゃじゃねぇか」

「100億もあるんだろ? 庶民のデブが一人で使うにはもったいないぜ」

「俺たちが有効活用してやるって」


 そういって退路を塞ぐように、囲ってくるクラスメイト。

 ぐっ、このまま賞金を食いつぶされるのかと覚悟した時、背後から雷でも落ちたような一喝が教室に響き渡った。


「やめないかお前たちッ!」

「い、委員長」


 声のする方を振り返れば、凛と廊下に立つ一人の女子生徒の姿が腕を組んで立っていた。

 わずかに引き締まった体に、トレードマークの眼鏡をかけた、短髪美女。


 岸田ツバサだ。


 由緒正しい中級ジョブ≪騎士≫を多く輩出してきた道場の一人娘らしく。

 上級市民にもかかわらず、俺を一人のクラスメイトとして真摯に声を掛けてくれる数少ない女子生徒だが、


「平民に話題をかっさらわれ、焦り騒ぐ気持ちもわかるがいい加減にしないか! 貴様らそれでも『ヤマト』の名を背負って立つアカデミー生か!」

「で、でもよぉ委員長。平民が金を持ってたって意味ないんだぜ? どうせなら俺たちが有効活用した方が世のためになるだろ」

「他者から奪うような愚か者が、高潔な探索者になれるものかッ! うらやましいのであれば奪うのではなく、配信で自ら勝ち取るくらいの気概を見せろ!」


 委員長の一喝に湧き上がったクラスメイト達が静まり返る。

 おお、そうだそうだ! もっと言ってやれ!


「貴様もだ真上!」


 うええ⁉ 俺も⁉


「いくら金を手に入れても、そのたるんだ醜い身体で探索者としての本分を全うできると思っているのか! 平民にしては成績優秀だから期待していたが金をもって浮かれたイベントを開くとは情けない。もっと違った人の役に立つ目立ち方をしろ!」


 そういって軽蔑するような眼差しを周りに向け、割れた人垣を押しのけ教室に入っていく委員長。

 しめた、退散するならいまのうちだ。


「そ、そうだ俺、先生に出さなきゃいけないものがあるから」


 そういって慌てて自分の机から必要な教材をカバンに仕舞うと、俺は逃げるように教室を後にするのだった。


 ◆◆◆


 それにしても、まさかあの配信事故が巡り巡ってニュースの一面になっているとは思わなかったが、


「この分じゃ家も張り込みされてる可能性があるな」


 父さんと母さん、それに妹は無事だろうか。


 スマホを見れば、クラスの男子が行っていたように、俺の個人チャンネルの登録者数は15万を超えようとしていた。

 この調子でいくなら、明後日には50万くらい言ってそうだけど、


「はぁこれもやっぱ昨日の配信事故とクソイベントが原因だよな」


 あの配信事故さえなければ、ここまで騒がれることはなかったはずだ。

 そこに加えて、あの悪ふざけなイベント。

 アレが、事態ここまでことを大きくしたと言える。

 俺の個人情報もネットに暴露されたことだし、これは本格的に家族のことが心配になる。


(まぁ配信事故ったおかげで、なんとか課題提出できるってのはある意味じゃ皮肉だな)


 とりあえず休学届を申請するとして、今後のことをじっくり考えるか。


 そうして昨日のバズリ動画と課題の一つであるモンスターの生態データを担任の出頭に提出する。

 するとデータの中身を確認した出頭から鼻で笑うような声が返ってきた。


「たしかに課題は受け取ったが、これじゃあダメだな」


 バッサリと打ち切られた出頭の言葉に、俺は思わず声を荒げていた。


 アカデミーの課題は、ダンジョン解明の情報収集も兼ねている。

 配信データもそうだが、アカデミーの基準は、基本的に配信でどれだけ有名になったかなので、再生数=貴重なデータとして判断される。


 今回の配信データは内容はともかく、一学年に与えられる課題。

 すなわち――


「配信者としての才能を計る『企画力』としては問題ない内容のはずですけど」

「たしかに真上の言う通りアカデミーの性格上。有名になれば、それだけで正義だ。有名探索者が排出されれば、学園にもメリットがあるからな。だがこの内容じゃ許可は出せない」

「はぁ⁉ それはいったいどういうことですか」

「わかんねぇか? 採点者である俺が気に入らないつってんだよ」


 そんな、横暴が過ぎるだろう!

 せっかく光明が見えたのに、まさか教師の方から否定されるとは。

 すると怒れる俺をなだめるように、出頭が馴れ馴れしく肩を組んできた。


「まぁ落ち着け、俺も教師だ。見どころある若者を放っておくことなど出来ん。ところで話は変わるが真上、お前、九頭代たちに切り捨てられたんだってな」

「……それが、どうしたんですか」

「ゴブリンも倒せないようじゃ探索者はやっていけない。このままだと退学まっしぐらだろうが、――どうだ俺と取引してみないか?」

「取引?」

「ああ、お前の心づけ次第で今後の成績の面倒を見てやる。お前が手に入れた賞金がありゃ、その程度の出費痛くもかゆくもないだろ? お前の両親もお前が落第するのは望んじゃいない。どうだいい取引だろ」


 にやにやと笑う担任の言葉に、俺は信じられない思いで出頭を見た。

 つまりコイツは、学園に残りたければ自分に賄賂をよこせといっているのだ。

 だが、こんなことに屈したら、永遠に搾り取られるのは目に見えている。


「お断りします」

「おい! いいのか。このままじゃお前は確実に退学だぞ!」


 かまわない!

 なにせこれだけの金があるんだ。

 使い方さえ誤らなければ、ダンジョンで動けなくても撮れ高を作る機会なんていくらでもできるはずだ。


(どいつもこいつも馬鹿にしやがって。今に見てろ、あっと言わせる配信して見返してやる!)


 そうして休学届をたたきつけ、職員室を飛び出す。

 だけど、宝くじを当てた俺はどうやら運を使い果たしたようで


「おい、オーク。ちょっと面かせよ」


 アカデミーの玄関で立ちふさがるように、見覚えのある三人組が待ち構えていた。

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