第2話 学園ヒエラルキー と 幼馴染
やはり、この世は頭の出来より顔面の造形がすべてを決めるのだろう。
登校早々、降りかかるリンチで、満身創痍になっていた俺はさっそく職員室に呼び出しを受けていた。
説教の内容は、闘技場を使用せず私闘について。
一方的に殴られた俺が説教を受けるのは理不尽極まりないが、全部『平民が悪い』で片づけられる階級社会は面倒だ。
これも一種の嫌がらせなんだろうけど――、
「……ひでぇ、いくらムカついたからってここまでするか、ふつう」
【1-E】を書かれた教室に戻れば、通学鞄の中身が派手に散乱し、土埃を被っており、中身は泥だらけになっていた。
幸いにも壊れていないようだが、それでも大事な配信道具だ。
(いったい誰が――)
すると遠巻きに見ていたクラスメイトたちがこちらを見てクスクス話す姿が見えた。
『おい見ろよあれって』
『ああ、九頭代さんたちにくっついてた寄生虫だろ』
『もうすぐクラス分けとはいえ、あーんな醜い顔でよく平気でアカデミーに登校できるわよねぇ。死にたくならないのかしら』
『庶民のくせに、さっさと退学しちゃえばいいのに』
『さすが学年主席の落ちこぼれ。ざまぁないな』
上位グループの九頭代からクビにされていることがすでに、クラスに知れ渡っているのか。
聞こえるように飛んでくる陰口をグッと堪え、散らばった配信機材を拾い上げる。
そうして誰もいなくなった教室で、掃除を終わらせれば、視線の先にやけに目立つ髪色の女子生徒がオロオロとしているのが見えた。
うん? あの見覚えのある色素の薄いプラチナブロンドの長髪ってもしかして――
「アキラ、そんなとこで何してんだ」
「――っ!」
まさか話しかけられると思ってもみなかったのか、ビクリと体を大きく震わせる女子生徒が驚いた顔で俺を見る。
西條アキラ
小学校まで俺の家のお隣さんにいた幼馴染で、アカデミー入学後、久しぶりに再会した顔見知りの一人だ。
なにせ特待生制度を使ってなんとかアカデミーに入学できた『平民』は俺一人。
それこそ入学当初。Eクラスに配属したての頃は美人すぎて誰だか分らなかったが、周りが『上級市民』で囲まれ委縮しているなか、顔なじみを見つけて心細い思いが一気に吹き飛んだのを覚えている。
最近は、九頭代たちにパシられた上に、面倒な配信派閥が出来上がっていてろくに会話をする機会がなかったが――
「なにか用ですか? わたし、用事があるんですけど」
若干、距離を開けられ、怯えたような顔でこちらを見上げてくるアキラ。
あれ? なんか距離遠くない?
昔はもっとフレンドリーだった気がするんだけど。
「い、いやー用というほどのことじゃないんだけどさ。久しぶりに見かけたから少し話がしたくて」
「そうですか」
「今日めちゃくちゃいい天気だよなー。いままでどっか行ってたみたいだけど、ダンジョン研修でもしてたのか」
「そうですね」
「アキラ?」
何とか話題を探すように話しかけようするけど、返ってくるのは冷たい生返事ばかり。
というか俺、話題振るのへたくそすぎないか⁉
(久しぶりに人目もなくアキラとじっくり話せる機会なんだぞ、何ビビってる真上ミチユキ! 配信者ならもっとウェットに飛んだ話題とかあるだろうが!)
そう、俺たちの間で一番話題にしやすいこと、となるとアレしかないか。
「そういえば昇級試験のクラス分けの通知きた?」
「クラス分け、ですか?」
「そう! アキラもEクラススタートだろ? 暫定的とはいえ探索パーティーを組まなきゃいけないから大変だよな」
実は俺、もしかしたらお前に会えるかもと思って、勉強頑張ったんだぜ。
と言いかけて、俺は妙案を思いついた。
そうだ。九頭代たちから追放されても新しい配信仲間を見つければいいんだ。
幸いにもまだクラス分けも発表されてないし、同じ平民のアキラなら一緒に配信パーティーを組んでくれるかもしれない。
「なぁアキラ一つ頼みごとがあるんだけど――」
「お断りです」
「へ?」
ええっとまだ何も言ってないんですけど
「申し訳ありませんが貴方と一緒にいて仲がいいなんて勘違いされたくないんです」
はっきりと言われ、硬直すれば、まくしたてるようなアキラの言葉が俺の胸を打ち抜いた。
「だいたいほぼ初対面の相手に頼み事なんて失礼じゃないですか。用がないならもう二度と話しかけてこないでください」
「いや、初対面というか、俺、お前んちのお隣の真上ミチユキで――」
「貴方があの人なわけないでしょうッ! どこでそのことを知ったのか知りませんけど、馬鹿にしないでください!」
そうして軽蔑のこもった視線が突き刺さり、すぐに踵を返すように校舎の方へ消えて行ってしまった。
「さ、避けられた、だと?」
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