「デブがいるとバズらねぇ」と追放された学生探索者、配信事故で1000億手に入れバズった結果、金に物言わせ好き勝手にダンジョンを改造しました。いまは理想の亜人っ娘たちと魔王軍やってます(笑)
川乃こはく@【新ジャンル】開拓者
第1話 クビ宣言は唐突に――
金の切れ目が縁の切れ目、とはよく言ったものだがこうして群がられると、レアなメタルスライムの気持ちがよくわかる。
ダンジョン探索者を育成するアカデミー。
その底辺クラスの1―E教室に登校した俺は、やけに馴れ馴れしい言葉の濁流に飲み込まれかけていた。
「なぁいいだろ、真上、この間のことは許してくれよ」
「オークなんていって悪かった!」
「わたし、真上くんみたいな人の彼女になりたかったんだよねぇ」
あふれかえる人、人、人!
真夏にも関わらず、肌色のバーゲンセールに正直めまいがする。
まぁ、人気を極めんと高い授業料を払って集まった生徒たちだ。
人当たりのいい笑みを貼り付け、媚びて思い思いの願いを口にするくらい造作もないだろうけど――
(よくもまぁ、これだけきれいに手を返せたもんだな。人として恥ずかしくないのかよ)
わずかに顔をしかめ、そっとため息を吐いた。
俺がここまでモテモテになったのには、もちろん理由がある。
そう、すべてはあの運命の瞬間。放課後の校舎裏で呼び出しがあったことからすべては始まった。
◆◆◆――放課後―――◆◆◆
「真上、テメェ今日で撮影係クビな」
そういって、ダンジョンアカデミーの校舎裏。
配信チャンネル【英雄の剣】のリーダー――
俺――
配信者が主役とするのなら、俺はその配信を支える裏方のような奴で。
ダンジョン探索に参加できない代わりに、配信者の戦闘記録を撮影、分析したり【配信企画】を考えたりしている。
これまでだって、俺が提案した企画で再生数が100万を下回ったことが一度もないのが俺のひそかな自慢だし。【英雄の剣】が大きくなるため、ダンジョン探索で役に立てないなりに【企画】や【配信編集】に貢献していた自負がある。
そもそも――
「昨日の編集動画だって500万回再生で好評だったじゃないか。それはなんで突然、クビなんて話になるんだよ!」
「んなもんテメェが俺様たちのメンバーだって知れると、評判が下がるからに決まってるだろ」
「は?」
シレっと吐き出される言葉に、ますます意味が解らなくなり、首をかしげる。
俺がいると、評判が下がる?
それはどういう意味だ?
「わからねぇーかなぁ。テメェみたいなキモオークがいるとせっかく上がった評価が下がるつってんだよ!」
でっぷりと膨らんだお腹を指さされ、俺はたまらず膨らんだ腹をつまんだ。
たしかに俺は肥満体だ。ダンジョンでもろくに動けないデブだ。
だけど、こんな身体でも学年一位の成績は変わらないし、九頭代たちだってそれを承知で、俺を【英雄の剣】に入れてくれたはず。
なんで今日に限っていきなり――
「ふっそりゃ、これまで探索結果と最速で評価者を集めたってことで、俺様たち【英雄の剣】は晴れてAクラスに転属決まったからだよ」
「Aクラスに⁉」
得意げに見せつけられた転属許可書に、俺は思わず驚きの声を上げた。
ここ、【ヤマトダンジョンアカデミー】は、いわゆるダンジョンで活動する探索者を育成する学園だ。
日夜、ダンジョンで増え続けるモンスターたちから市民を守るため。
そして【特権階級】とされる選ばれし生徒たちを育て、ダンジョンの秘密を解明、管理するために設立されたのがこの学園だが、
「まさかお前ら――ッ!」
「ふっ、ようやく気づいたようだな。そうだよ! 探索に貢献できないテメェより学園の優秀なスタッフを使うことにしたんだよ!」
太宰の言葉に目を見開けば、うろたえる俺の姿を楽しむように三つの笑い声に、俺は思わず唇をかんだ。
ダンジョンアカデミーのカリキュラムは特殊で、入学後の一年生は一律、最底辺のEクラスから始まり、【探索配信】の貢献度に応じて、様々な支援が受けられる【昇格システム】が採用されている。
評価対象は配信での『認知度』。
ファンや、探索配信での再生数が成績に直結するこの学園では、いかに『撮れ高』を逃さないかが重要になってくる。
それこそAクラスに転属となれば、学園側から莫大なバックアップが約束され、優秀な編集スタッフやマネージャーと契約し、もっと盛大な企画を実行できたりするって聞くけど、
「それじゃあ、俺をクビにするっていうのは――」
「ああ、俺様たち【英雄の剣】は一学年で唯一の評価者100万人を達成した探索グループだからな。これまでの配信は俺様たちが企画を考え、結果を残したってことにした方が、人気出るだろ? つーことでお前がいてもらっちゃ困るんだわ」
縋るように他の仲間に視線を向ければ、「今日までごくろうさん」と【英雄の剣】の後衛担当の太宰や
くっ、これだから【特権階級】の人間は!
一昔、ご先祖が魔王軍侵攻で活躍したからって偉そうにふんぞり返って。
だけど――
「ダンジョンの知識を提供したら、特別にパーティーに入れてくれるって契約はどうなるんだよ」
俺が抜けたら、これまでの【配信企画】も【配信方針】も全部変わることになるんだぞ!
「ああん? あーそういやそんな契約もしったけな。だけどよ真上、いい加減分かれ。デブがいると配信ウケが悪ぃんだよ」
「そうそう、俺たちイケメンがいる中、容姿が醜いオークがいると、せっかくついてくれた可愛いファンが幻滅すんだよねぇー」
「ええなにしろ、僕たちはすでにA級入りを果たすんですからね。配信のイメージ戦略は必須。結局は住む世界が違うということです」
メガネをクイクイ上げる善財のわかったかのような言葉に、リーダーの九頭代が同意し、あざ笑うように俺の首に腕を回してきた
「それに真上、テメェのレベルいくつよ」
「……レベル2」
「はっ、学園に入学してそれだけしかレベルが上がんねぇのかよ。俺様は落ちこぼれと違ってもうレベル10だ。特待制度で入ってきた勉強しか能のねぇテメェならわかるよな? 動けねぇデブはお払い箱なんだよ!」
「ぐっ」
たまらずバランスを崩して、尻もちをつけば、たるんだ腹の脂肪が大きく跳ね、三人のあざけりの笑いが校舎裏に響き渡る。
ズキズキと痛む体を押さえれば、詰め寄ってくる九頭代が怒りをたたえた目で俺を見た。
「何より俺様はテメェを許せねぇ、真上。テメェこの前のダンジョンで勝手にガキ助けただろ」
たしかに昨日、俺は配信の途中で勝手に動いた。
だけど、それは女の子がモンスターに襲われかけていたからだ。
配信外だったし、誰にも迷惑をかけていない。何も問題ないはずだ。
「学園のお情けの特待生制度で奇跡的に入学できたクズ平民が勝手にしなければ、俺様がヒーローになれたのに――なんだよこの記事は! 内職しか取り柄のねぇテメェが目立ってんじゃねぇよ。せっかくの撮れ高がパーじゃねぇか!」
でも九頭代も見ただろ、あの子が襲われるのを!
あのまま放っておいたらそれこそ大怪我どころの話じゃ――
「それでよかったんだよ。平民のガキに泣き叫んでたところに、俺様たちが颯爽として参上する。そうすりゃさらに評価が上がってSクラスまで伸びたかもしれねぇ。なのに、貧乏人の平民のくせに配信外で勝手に目立ちやがって」
そういって身分的に自分の立場が上だと理解しているからか。好き放題殴ってくる九頭代。
配信者としても、探索者としてもクズな発言だが。
残念なことに、最近の配信の流行は過激なものが多くなっているのは事実だ。
この社会は『成果』こそすべて。
成績のためと、これまで過激な配信企画を組んできた俺が言っていいことじゃないが、
「ああん、なんだその目は? 今日まで俺様たちに寄生してお情けで退学にならずに済んだお荷物が、生意気な正義面で俺様を見てんじゃねぇよ!」
「ぐあっ」
「なにより俺の婚約候補の西條に認知されたのが気に入らねぇ。なーにが『勇敢でした』だ。たまたま活躍した分際で、なんでデブで、家柄も金もないテメェの名前が知られてて、俺の名前は知らねぇんだよ。ふつう逆だろうが!」
結局それか。
九頭代が
たまたま現場に鉢合わせた西條が俺をほめたところを見て、我慢ならなくなってこんなことを言いだしたのだろう。
「ふん。これに懲りたらもう二度とその醜い顔見せんじゃねぇぞ。もし今度ノコノコ学園に来ようもんなら、英雄十三家の代表候補の俺様がお前をいられなくしてやるからな」
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【★あとがき】
さぁ、これからどんどん面白くなりますので、
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