第6話 勧誘~紅葉 祐世(もみじ ゆうせい)の場合~前譚

「え?検査入院ですか?」


定期健診後に訪れた病院で紅葉もみじ 祐世ゆうせいは疑問を医師に向けた。

いつもの産業医とは違う千々代ちぢよと名乗った浅黒い肌の医師。なんだか良く解らないが小難しい病名の専門医らしい。


「紅葉さんね、此処の血液検査の数値とですね〇〇と××、△△の値が…」


 正直さっぱり何を言われているのか解らない。


「で?結論、放って置くとどうなるんです?死ぬんですか?」


「精密検査をしてみないとナントモ申し上げられませんが症例的には結論死にます。まあ、人間なんぞ放って置いても事故だナンダで死にますがこの病気の厄介なところは『イグサれ病』的なところにありまして…」


「イグサれ?」


「生きながら腐ると書いて生腐れですなこれは糖尿や凍傷等を起因とする体組成壊死とは違い全身に散発的に腐敗が始まりなのにがん細胞的スピードで同時に組織再生も進行します。ただし再生とは名ばかりででたらめなパーツが再生されるため腐った眼球の跡から指が生えたり本来人間にない体組織…触手状の器官や鱗、ゲル状の体細胞などが形成される事もあり『変身ミューテーション』に伴う肉体・精神的苦痛は…想像したくありませんな。まぁ発症例が極端に少なく紅葉さんが精密検査してみないとですが発症者となった場合、世界的には十三人目…国内的には二例目になります。」


「『変身』って一時期国際問題にもなった『邪神遺伝子発症者オーバード』ってやつですか?」


『邪神遺伝子発症者オーバード』であれば十三例どころではありませんな。

まぁ『邪神遺伝子レゲネイドウイルス』と関係ないとも言い切れません。私の推論から行くとあなたの中にある人であろうとする『反邪神遺伝子アンチレゲネイドウイルス』因子とあなたを変貌させようとする『邪神遺伝子レゲネイドウイルス』とのせめぎ合いではないかと。

つまり『反邪神遺伝子アンチレゲネイドウイルス』因子が特定できればノーベル医学賞確定。紅葉さんも教科書に名が載るかもしれませんな。

正直、病院の支持母体スポンサーの製薬会社から検査費・入院に伴う諸費用・検査結果に関わらず謝礼。もちろん罹患者と判明した場合、治療に全力で取り組みその費用も全額製薬会社スポンサー持ちです」


 まぁそれなら良いかと会社上司に休職申請をどう出そうか考えていた紅葉は黒いわらいを口元に浮かべた医師に気づかなかった。

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