第7話 勧誘~紅葉 祐世(もみじ ゆうせい)の場合

「何処だ此処?知らない天井どころか天井が無い?」

 

 雰囲気的には洞窟内の天井の抜けた広間だろうか?石筍だったモノに赫い蠟燭が燭台の様にあちこちに立てられ他にもいくつも立てられた篝火と闇を照らしている。


 自分の身に何が起こったのか回想してみる。

  確か検診して再検査・入院って流れになって会社に休職届けだして糞上司に嫌味言われて…検査入院を薦めてきた日焼け芸能人シゲル並の褐色肌の医師。その親戚だという身長130㎝位にしか見えない小学生のコスプレかよと突っ込み入れたくなる今回の検査入院の担当医に挨拶されて検査は明日からと言われて飯食ったらすげぇ眠くなって…


「お目覚めかね?」


 声を掛けられ身を起こそうとするが四肢は拘束され動けない。

 辛うじて動かせる首を巡らせば其処には巫女服を纏ったがコスプレ女が居た。


千々代ちぢよ先生!此処は何処なんっすか?なんか動けないんですけど?」


「静かにしたまえ。此処は祈りの場だ。」


 言われて首を巡らすといつの間にか周囲を浅黒い肌シゲルばりの男女に囲まれている。


「祈り?」


 周囲の異様さと自身の拘束されているという現状。思い至る想像に冷や汗が流れる。


「生贄?」


「そうとも言えるし違うとも言える。紅葉君、光栄に思うといいよ。君はね使徒様の器・・・・・に選ばれたんだ」


 糞女ロリBBAが上機嫌に語る。

 天に向かい指を指す。初夏の星空には『牛飼い座アルクトゥルス』が異様にくっきりと見えていた。


「遥か星間の彼方より訪れし旧きとこなる御方々、偉大なる『黄衣の王ハスター』様のの眷属の二柱、。対なる双子神ツァール様ロイガーノス様その使徒様の器として君の遺伝子は実に好ましい」


 そういうと千々代は懐中から取り出した林檎くらいの石ころを伏し拝む。

 その石の表面にはポリプ状の生物が化石になって嵌り込んでいる。


「忌々しい『精神寄生体イス人』共に封じられて尚、神々しきこの御姿!素晴らしいと思わんかね?」


「いやちょっと理解できないって!そういうマニアックな性癖に理解求めないでくれます?」


「君はこの御方と一つになるんだ。君が望むなら我々の操ぐらい儀式後に喜んで捧げよう」


「だが断る!生贄なんざ御免だし性癖も至ってノーマルなんでね」


「まぁ食わず嫌いは良くないぞ?我々千々代の民を格別だという権力者もいる。さぁ星辰ときも定まった。儀式を始めよう」


「やめろぉ!」


 ガチャガチャと手足の鎖を鳴らして抵抗するも何の効果もない。


「いと気高きハスター神いあ いあ はすたあ はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい あい はすたあ、対なる双子神、ツァール神・ロイガーノス神 いあ いあ つぁーる・ろいがーのす いあ ろいがーのす・つぁーる…」


 祝詞のような呪文のような詠唱が場に響き…鈍く光る白刃が胸に突き立てられる。

 灼けつくような痛み、声にならない絶叫。胸央から取り出されたまだ拍動する心臓…次第にかすみゆく視界の中、紅葉は心臓の跡に化石が胸中に収められるのを見ていた。


 詠唱の終わった静寂の中どこからか口笛のようなかすれた音が低く響く。

 儀式場の中心から風が吹いた。吹き付けて来るのに何故か引き寄せられる・・・・・・・風。ざわつく場内を制し千々代が歓喜の表情を浮かべる。


「おおおぉ我らが祖たるチョ-チョ-よ我ら千々代は成し遂げたり!言祝ことほげ新たなる御使いの誕生を!時空ときを超え永き眠りより醒めし新たな世界の指導者の復活を!」


 歓喜に極まる千々代達の顔に異風が吹きつける。


「あ?…ふぇ?」


 千々代達狂信者の顔が手足がぐずりと崩れる。

 闇が弾け篝火が、蠟燭の火が闇を照らす力を失う。

 輝く闇の中低く響き渡るかすれた口笛の旋律が止んだ時、闇が通常の闇に戻り篝火の炎が闇を照らし出すとそこには腐汁に塗れた中身・・を失った衣服が点在する中心に傷一つ無い負うことなく気絶した紅葉が祭壇上に倒れているのだった。


 そんな紅葉を崖上から見下ろす影があった。千々代が紅葉に病院出資者の製薬会社の社員だと紹介した少し神経質そうな眼付きの眼鏡をかけたエリート然とした男。


「ふむ…出来損ないの混ざりもの千々代共にしてはいい仕事したじゃないか…一族と引き換えに『邪神遺伝子発症者オーバード』一人。お誕生日おめでとうハピバースディ紅葉君。ようこそこちら側へウェルカムトゥニューゲート。永き絶食後の空腹の糧となった彼女らに代わり『悪魔ディアボロス』春日恭二が誕生を見届けた。再会を楽しみにしているよ」


 そう言い残し春日恭二が溶けるように消え失せる。


翌日、 事件を察知した特殊犯罪調査室特調第零機動捜査隊零機が現場を捜索。紅葉を回収した。


「と、いうわけで検査の結果だが…紅葉 祐世、貴様に死亡通知書・・・・と人生の選択肢を二つくれてやろう。なお死んでいる時点で人権等の抗議は一切受け付けない『死人に口なし』というやつだ」

 

 特殊犯罪調査室特調第零機動捜査隊零機隊長の三室戸みむろど 美月みづきと名乗った女性が指を順に立てながら告げる。


「ひとつ、政府研究機関の研究対象モルモットとしてお役に立つ献体人生。もう一つは政府肝入りの対『邪神遺伝子発症者オーバード』部隊警視庁特殊事件広域捜査零課トクレイに入るかだ。怪物バケモノには人外バケモノという訳だな。貴様が人だというなら抗い証明し続けろ」


 「それ実質一つだろ常識的に考えて」


 死亡通知書を破り捨て紅葉 祐世は猟犬を選択した。

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