第4話 勧誘~砂原 沙都(すなわら さと)の場合

 力を得たのは幼少期、実家が所持していた『行ってはいけない』と言われた廃屋の地下室…床一面に広がる白砂を見付け、そこは二人・・の秘密の遊び場となった。


 その遊び場のレンガ壁をすり抜け現れた無数の赤い瞳を体に張り付けたぶよぶよしたたまご状の存在モノ…力が欲しいかと問われ無邪気に欲した兄と自分…もしあの時断っていたらどうなっていたのだろう?


「まあそのせいで!絶賛!死にそうなわけだけれども!」


 叩きつけた砂の刃で切り伏せた犬を模したカリカチュアような笑えない怪物フリークス


「ったく毎晩毎晩どこにでも現れやがって風呂とかトイレとか少しは空気読めよ」


 部屋隅から異臭を伴って現れるが故に不意打ちを喰らうことは無い。まぁこちらを嬲る気なのかのそりと這い出てくるうちだけかもしれないが…。


「にしたって相性最悪よね。」


リノリウムの床に垂れた未だブスブスと煙を上げる糞犬の唾液。沙都が得意とする砂を使った防御を易々と貫通してくる膿汁。あんなモノ、肌に付いただけでソコが腐り落ちるだろう…。


「あ”~なんであの時、過去視サイコメトリーしちゃったかなぁ。あの時の自分をめっちゃ殴りたい」


 自分が考古学者として異例なほどの早い出世を遂げたのも能力サイコメトリーのおかげではあるがこのざまの原因でもある。


 祭器と思しき黒曜石で作られた鏡、大陸からもたらされた銅鏡などとあきらかにルーツを違える鏡…好奇心と少しの名誉欲が無かったといえばウソになる。


 覗き込んだ過去でアノ犬と目が合った気がした。慌てて放りだした黒鏡が破損しなかったのは幸運だったのだろう。だが不幸は恐怖とともにやってきた。まともに寝れなくなってもう何日だろう。


「こんばんわ」


 背後からの声に文字通り飛び上がる。恐る恐る廻頭した視線の先の椅子に腰かける女性。部屋のカギはかかっていなかっただろうか…?


「砂原 沙都さんよね?警視庁特殊事件広域捜査零課トクレイ狡神こうがみ といいます。あなたを勧誘に…あら?あなたこの子たちにマーキングされてるのね?」


 そう言った彼女の影から私を見詰める無数のヤツラの瞳…死を覚悟した私に彼女が告げる。


 曰く、彼女なら糞犬どもの襲撃を中止させられる。

 但し、彼女の部下として警視庁特殊事件広域捜査零課トクレイとやらに協力する事。(副業として研究室勤務は認める)


 返答を求める彼女に「取り敢えず熟睡させて」と言って私は意識を手放した。

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