第11話 神様に任せなさい

 神様の歩いている道が、ミツキの知らない道になった。 

 そっか、パパは、ミツキの知らないところに住んでるんだ。

『ほら、あの人だよ。こんにちは』

 神様があの人、と指さした人は、パパじゃなかった。

 あの、ママが大事にしてるパパじゃない。

 え……違うよ、神様。この人じゃないよ。

 ミツキはそう言って神様を見たけど、神様はミツキを見なかった。

『お仕事に戻る前に、この子に手を見せてくれませんか? ちょっと変わった子で、美容師さんの手が大好きなんですよ』

『へえ、初めて聞いたな、そんな猫いるんだ……薬剤の匂いとか平気なのかな』

 すっ、と大きな手が向かってくる。

 あ……この手……ミツキのとそっくり。

『ミツキはね、顔がママにそっくりで、手がパパにそっくりなんだよ』

 昔、ママが言ってたことを思い出した。

 じゃあ、この人がミツキのパパなんだ。え……じゃあ、あの写真の人は?

『じゃ、仕事に戻るんで』

『はい、ありがとうございました』

 なんだかぼんやりする頭で、パパの後ろ姿を見送る。


 茶色い髪。大きな体。なんとなく、真面目じゃない感じ。

 ミツキ……あの写真の人が良かった。



『ごめんな、ミツキちゃん』

 神様は電柱の陰にミツキを置いた。

 あ、体がムズムズする。

『日が暮れたから、体が元に戻ったんだよ。お腹空いたよね、ちょっとご飯食べようか』

 うん。確かにお腹はすいた。けど、なんだかものすごくさみしい。

『あ、な、泣かないで』

 ごめんなさい、無理みたい。

 だってミツキ、とっても悲しいんだもん。

『泣きたいだけ、泣くといいよ。大丈夫』

 神様はまたミツキを抱っこしてくれた。

 涙、とまんないや。でも、いいよって、神様言ってくれたもん。


『ミツキちゃん、ラーメン好きなの? じゃ、これ二つお願いします』

 神様はラーメン屋さんの人にそう言った。

『ママ、心配してるかもしれない……お家に帰らなきゃ』

『うん、帰りは瞬間移動で帰ろうね』

 シュンカン?

『大丈夫、すぐにお家につくように帰るよ。神様に任せなさい! 今はとりあえず、お腹をいっぱいにしよう』

『さっきの人が、ミツキのパパなんだね』

『うん……そうなんだよ、ちょっとワケアリみたいでね

。それにさっきの人、ミツキちゃんのパパにはなれそうにないんだよね。ごめんね』

『え……なんで?』

 神様は、またさっきみたいに、ちょっと変な顔になった。

『あの人は、ミツキちゃんのママじゃないママと、ミツキちゃんじゃない子ども二人と、一緒に暮らしてるんだ。ミツキちゃんよりお兄さん、お姉さんの子どもだよ』

 ……そうなんだ……

 あったかそうな湯気をたてた、ラーメンがやってきた。

『いただきます』

 違うママ。違う子ども。ミツキのパパにはなれない。

 じゃあ、あの写真の人は? あの人なら、ミツキのパパになってくれるかもしれない?

 一生懸命ラーメンを冷ましながら頬張る。

『ラーメン、おいしいね』

『うん……うまいね! 初めて食べるけど、これは衝撃的なうまさだよ!』

 そっか、神様はラーメンを食べたことなかったんだ。

『え? なんか変? そんなに笑われるとなんだかくすぐったいな……へへ』

 神様が笑ってた。なんだかそれだけで、すごく嬉しかった。

『すぐには無理だろうけど、元気だしてね、ミツキちゃん』

『うん……ねぇ、神様。ミツキ、あの写真のパパにも会いたい』

 食べきれなかったラーメンを、ミツキは神様にあげた。

『え……あの人か……』

 さすが神様、なんでもお見通しなんだ!

『うん!』

『いや、ちょっとそれは……なかなか難しいな……あ、会わせることはできるけど、パパになってもらうのは……神様にも難しい』

『そうなの?』

『うん。神様はね、人の気持ちは変えられないんだよ。あの二人はこじれた上に、もう冷めきってるから……あ、ラーメンありがとう』

 にゃーん……

『あ、黒猫さん』

『げ、黒龍様っ』

『すごいね、どうやってここまで来たの?』

『まあ、黒龍様は瞬間移動できるから……え? 協力しろ、ですか? いや、だって、どうやったってあの二人は修復不可能でしょ……え、過去に行けばなんとかなるんじゃないかって? また無茶な、そんなことでき……できるんですか……そりゃあ、俺だってミツキちゃんには幸せになってもらいたいですよ……はあ、はい……わかりましたよ……』

 はあーあ、と神様は大きなため息をついた。

『まあ、とりあえずお家に帰ろうね。ママを心配させちゃいけないから』

『うん……ねぇ神様、大丈夫?』

『うん。大丈夫、大丈夫! 神様に任せときなさいって!』

 お店の人にお金を払う神様は、そう言って笑ってたけど、なんだかミツキはちょっと心配になった。

 でも、次はあの写真のパパに会えるんだ。

 だって、神様が任しとけって言ったもん。

 やったね!


『じゃあ、またね!』

『できる、できる、できると思うばなんだってできる』

 神様はバイバイした時、にっこり笑ってた。

 ほんとに、大丈夫かなあ?

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