第3話 シャーペン

 もう彼が地球に来てからずいぶん経った。この生活にも慣れてきた。彼があまりにも地球の生活になじんでいるので、星の王子というのを忘れてしまう。学校の勉強は彼に教わればできてしまう。先生の言うことを聞きはぐっても彼に聞けば大抵のことはわかる。何かそんな魔法や薬などあるのかなと思う。


 以前、勉強が辛くて覚えられない時に、


「一瞬で覚えられる薬はあるけれど使う?」


って聴かれたことあるけれど、


「いやいやいや、それは使わない。使ったらみんなに悪いし、体悪くなったら嫌だし。」


王子に使ったことあるの?と聞いたら


「それ使って王様になっても、強くなったと認めてくれる?」


と逆に聞かれてしまった。


「それはダメだよ。」


と私が言うと。


「そう言うと思って使っていないよ。」


と彼。そう言うところは好きだ。いや訂正しよう、そう言うところも好きだ。


 夜中、家で勉強していたときにわからないので彼に聞こうと窓を開けた。そうすると彼はそっちにいっていいかという身振りをした。私が首を縦に振ると一瞬で私の部屋にやってくる。そして苦手の物理を教わる。少ない頭で考えて何とか理解をする。


「ふぅ〜、何とか理解できたよ。」


「苦手なことに挑戦する君は素敵だよ。」


「いやだって頑張らないと卒業できないし。」


「頑張って自分で何でもできるようにならないとね。」


「そうよ、プリンセスだからって何でもやってもらうのは違うと思う。」


「と言うことは、うちの星のプリンセスになってくれると言うこと?」


「ちち…違うわよ。あくまでも一般論。そう一般論よ。プリンセスになるような人でも努力は必要ということ。」


「そう…。」


 彼のがっかりした顔を見るたび申し訳ないのだけれど、やっぱりもしプリンセスになれるなら彼にふさわしい人間になりたい。


 もう遅くなったから寝ると言うと、彼が


「抱きしめてもいいかい?」


とか言ってくる。驚いたのでとっさに、


「何言ってるの、ダメに決まっているじゃない。」


と言ってしまった。彼が


「じゃあシャーペンを取り替えっこしよう。物理解けるようになるよ。」


と言うのでそれならばと言うことで取り替えた。色違いで同じものだったので取り替えた。最後彼が自分の部屋に戻るときに、


「さようなら。」


と言った。


「こう言うときは”おやすみなさい”だよ。」


まだまだ地球のあいさつはできないようだ。


「そうかごめん、おやすみなさい。」


そう言うと彼の顔は強張ったまま消えていった。

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