第2話 登校

 私と会うなり、


「昨日の宿題終わった?」


と彼が聞いてくるので。


「何とか終わったよ。物理、最近難しくてついていけてない。」


「それならば僕が教えようか?」


「いいよいいよ。いろいろ地球とのやりとりで忙しいでしょ。」


 彼は星の王子なので、国連の人たちとよく会合をしている。今後の地球への関与について話し合っているのだろうか?それだけ地球を大切に思ってくれているということなのか。


「大丈夫、地球の高校生ぐらいの問題ならどの教科でも解けるよ。」


 ここら辺が癇に障る。こっちは一生懸命勉強してもわからないのに、あっさり解いている。だから汗水たらして勉強している姿は見たことがない。昔、私と釣り合うために一生懸命勉強したんだって。


「今日もどこかの大統領と会合するんじゃなかったっけ?」


「うん、大丈夫。僕の代わりはたくさんいるからね。」


 そうなのだ。本当の王子は今私の隣にいる彼のようなのだけれど、全く違う場所に彼と似ているけれどちょっと顔の違う人が星の王子としてライブ中継していたりする。まあそれじゃないと私と学校には行けないでしょう。


「王子の星の科学力はすごいね。」


「でも、この星ののんびりした感じは好きだよ。もちろん君のことも好きだよ。」


「ちょっとそう言うのは人前で言わないでって言ったでしょ。」


「僕だって誰彼かまわず言うわけじゃない。君にだから言うんだ。」


「そういうこと言うと冷やかされるし、恥ずかしいから。もういっしょに学校行かないよ。」


「わかったよ。でも星では僕にそう言われるとみんな喜んでくれるよ。」


「ここは地球、しかも私はまだあなたのこと好きって言っていません。」


「まだ…?ってことは?」


「そういうこと言うから…。」


私は顔を真っ赤にして俯くだけだった。


 そこに親友が来て、


「朝から夫婦は仲良いね〜。」


と声かけてくる。


「別に夫婦じゃない!」


「まあまあ怒らずに。こんなイケメンと毎朝いっしょに歩けるなんてみんな羨ましがっているんだよ。」


「だって、私まだこの人のこと好きじゃないし。」


ちょっと悲しい顔の彼。


「それ本人の前で言う?もうそれって夫婦の域じゃん」


と親友。


「だから違うって…。」


 親友には星の王子のことプロポーズされていることとかは彼の許可を取って言ってある。だからなおさらからかってくるのだ。


「僕は君といられれば何言われても気にしないよ。」


そう言っている。


「私が気になるのよ!」


あ〜、もう何言ってもダメ。とりあえず何事もなくやり過ごすのが一番だと悟った。


 学校が近くなると生徒たちが集まってくる。そうするとみんな見てくる。ただでさえ星の王子というだけでも注目集めるのに、イケメンで天才、運動神経までいいという。彼に言わせると私が


「泣き虫は嫌い。」


と言ったのがきっかけらしい。帰ったあと頑張ったのだそうだ。彼の星の王様はそこまでできなくても周りに補佐する人がたくさんいるし、きちんと組織立っているのでちゃんと回るらしい。


 だから、彼の星では”若くして国を治められることのできる王子”の誕生だと、もてはやされているらしい。


 それはともかく、


「教室着いたら、物理の宿題教えて。わからないところのヒントだけでいいから。」


「いいよ、何なら全部写してもいいよ。」


「それは負けた気がするから嫌。」


「何に負けるっていうのさ。」


「あなただけでなく自分にも負けた気がするから嫌!」


「さすが未来のお姫様はちがうな。」


「そのお姫様ってやめてくれない。まだ結婚するって言ってないわよ。」


「まだ?でしょ。」


 何だかその笑顔むかつく。


でもそうなのだ、確かにお姫様って柄じゃないし、国の政治なんて全く興味がない。でもきっと完全に拒否できないところがあるので、嫌いではないんだろうなぁ。


 10年間自分を磨き上げて、もう一度プロポーズをした彼を邪険になんか扱えない。一方、私は星空を見てばっかり。何一つ自分を磨くことはしていない。そんな私が努力し続けた王子の横にいていいわけはないのだ。だから気後れしてしまう。


 彼の思いを素直に受け取ることができない。すぐにではなくても彼の隣にいてもいい女性になれたらいいなと思う。だから私も頑張るのだ。


 もし彼が普通に地球の人で、普通に恋をしたらそのままカップルになれたのだろうか?きっと私が飽きられてしまい長続きしないんだろうな。


 今は少ししかない恋心だけれど、じっくりと育てていければいいなと思う。それまで彼が待ってくれるだろうか。10年待ってくれたのだ。きっとずっと待ってくれるに違いない。

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