君がすき(王子が好き)

第1話 朝

 朝、どうも今日は髪型が決まらない。何だかどれもしっくり来ない。カーテンを開けたときに彼と目が合う。口の形でおはようと言っているのがわかる。女の子の寝起きの顔を覗き見るとはなんてやつだ。頭はボサボサ、目はしょぼしょぼ、あんまり同い年ぐらいの男子には見られたくないのだけれど、彼は私が起きる時間に合わせて起きている。初めは嫌でずっとカーテンを閉めていたが、お日様が出ているのにカーテンを開けられないのは辛い。もう寝起きの顔を見られるのには慣れた。


「ちゃんと支度して髪型もきちんとしてやるからね。」


 と心で念じながら起き出した。


「ほら早くしなさい、朝よ。」


 いつものようにママが声をかける。


「今、行く〜。」


 と返事をしながら、教科書や宿題をカバンに入れていく。昨日の宿題がわからなかったので、夜遅くまで起きていた。それでまだ支度ができていない。


「まだ〜。」


 とママにもう一度声をかけられる。


「今行くってば!」


 とちょっと語気が強くなる。イスに座るとたん、


「早く食べちゃってね。もうすぐ王子くんがやってくるわよ。」


「いいのよ、待たしておけば。」


 私は素っ気なく言う。


「何言っているの、あんな立派な彼いないわよ。毎日毎日遅刻ギリギリになりそうな時間まで待ってくれるなんてありがたくて仕方ないわよ。」


「別に頼んでもいないし…。」


 私はパンを食べながら小声で言う。ママには聞こえていないようだ。


 ある日突然お隣さんが引っ越したと思ったら、王子が越してきた。しかも私の部屋の目の前に自分の部屋を陣取っている。だからカーテンを開けると彼の部屋が目の前だ。何だか昭和のマンガのような設定だ。笑ってしまう。


 この今まで恋愛について全く縁のなかった私だ、星空を見て夜更かしをすることはあるけれど、異性のこと考えて眠れない夜があるなんてことは全くない。ママはそんな私にボーイフレンドができたのが嬉しいのだ。パパはまだ早いのではって言っていた。


 そうなのだ、まだ早いのだ。女の子といえば普通は小学生の高学年にもなると恋愛のことに興味を持つ。そして同学年のちょっと間抜けな男子よりも少し上の先輩やアイドルに興味が出てくる。しかし私はそんなことはなかった。次の月食はいつかとか月の影に金星が入る金星食が見たいと思った。


 最新のプラネタリウムもいいが、昔ながらの機械式のプラネタリウムも見にいきたい。でも一番は本当の田舎に行って満点の星空を見たいのだ。そんなことを考えていたので、恋愛には全く疎い。


 その私が星の王子、もちろん地球の外からやってきた異星人の男の子にプロポーズをされた。小さい頃地球で迷子になった彼。その時いっしょに家を探したことがあるからだ。そのときのことだけでプロポーズするのか?と疑問に思ったが本人は私と結婚したいと一点張り。私は恋愛も疎いし、とくに異性にもそんなに興味がない。だからまだ返事はしていない。


 何とか髪もしっかりセットして家を出る。


「おはよう。」


 って私が目も見ずに挨拶すると、


「おはよう!」


 って元気に返してくる。ついでに


「今日の髪型は初めてだね、かわいいよ。」


 なんて言ってくる。クラスで目立つ方でもないので、普通に過ごしていたけれど、いつも金魚のフンのようにくっついてくる彼はとても目立つ。イケメンで秀才で星の王子。目立たないわけがない。大変困っている。私は静かに地味に行きたいのに、横で目立つ相手がいつもいっしょだ。


 なんだかんだで私も目に入ってしまうだろう。だから、私は毎朝髪の毛を整え身だしなみをきちんとする必要があった。慣れていないからけっこう疲れる。この間は時間がなかったので適当に出ようとしたら、彼の所のメイドさんに


「姫様、少々時間を…」


と言われてセットされてしまった。


「姫様じゃないわよ。」


と言っても、聞いていないようだった。

そんなこともあるので身だしなみに整え、毎朝彼に会う。

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