第4話 学校帰り
ある日学校から帰ってくるなりママが言う。
「やっと帰ってきた。遅いわよ。」
「いつも通りじゃない?そんな遅くなってないと思うけれど。」
そう言うと玄関に若い男の子用の靴があった。誰のだろう?って思いながら自分を靴を脱いでそろえると、
「はやくはやく!」
とママが背中を押して急かす。
「なになに?」
と私を客間に通すとそこには、一人の青年がいた。
「今お茶入れ替えますね。」
とママが台所に行くと二人きりになった。
どこかで見たような顔だが、こんなイケメン知らない。まあ大体、私にイケメンの知り合いがいるわけがない。
でもお互いじっと見つめ合っている。何だろうこの懐かしい感じ、やはりどこかで会った気がする。
そのときはっと気がついた。
「シリウスの…。」
つい口に出してしまった。
最近思い出した昔UFOに乗った記憶。その別れ際に泣いていた男の子の目そのものだった。顔かたちは大人になったから変わってしまったが、目は変わっていない。本当にあの時の男の子なのだろうか?
そういろいろかんがえていたら、イケメン君は私の前にひざまずき手にキスをしながらこう言った。
「結婚してください。」
その現場をママがお茶をお盆を落としそうになりながら見ていた。ママも私も絶句して言葉にならなかった。
どのくらい意識が飛んでいたのだろう。気がついたときには、あの夜のことなどママに説明している彼がいた。
気がついた私の方を見て彼がニコッとする。何だろうその笑顔がまぶしかったせいのかわからなかったけれど、正面から見ることができない。しかも恥ずかしくて顔から火が出そうな勢いがある。この場から立ち去らないと自分が保てないと思ったのか、家から飛び出してしまった。
何が起こったのか、訳がわからない。
「結婚?結婚って何?私まだ10代だよ。恥ずかしながら男の子とお付き合いしたことないよ。」
と独りごとを言いながら闇雲に走ってしまった。
ちょっと整理してみよう。10年前、私は家の前で泣いている男の子を助けた。その両親といっしょにUFOに乗った。木星にも土星にも行った。この間やっとその記憶を思い出した。
たぶん彼のお母さんに封印されていたのだと思う。小さな男の子が帰り際、私と別れたくないので結婚すると言っていた。強くなって10年後またくるとも言っていた。その10年後が今ってこと。そう考えるとすべてのことに説明がつく。モヤモヤした気持ちをどうすることができずに口にしてしまう。
「でも結婚って…。」
結婚ですら尻込みするのに、星の王子と結婚なんてもっと大変じゃないか。
はい結婚しますね。なんて即答できないですよ。どうしようか悩んでいるといつの間にかここにきてしまった。
そう、ここは10年前彼といっしょに叫んでUFOを呼んだ小さな丘。
「ここに来ちゃうなんて…。」
そうつぶやきながらどうしようか考える。家に帰ったら彼がいるだろうし帰れない。でもずっとここにいるわけにもいかない。どうしよう。
夕日が西の空に落ちてきて、宵の明星が光っている。三日月も近くにある。もうすぐ星空に変わる。今日は雲ひとつない天体観測日和だ。こんなにも晴れているのに、心は曇っていて下を向いてしまう。
「同じ場所なのに心でこんなにも変わるんだ…。」
そう思いながら沈む夕日を見ていた。
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