第4話 あの夜
あの夜はクリスマスイブの夜だから、私はサンタが来るのを楽しみに待っていた。こっそり寝たふりをして姿を見たいと思っていた。サンタが入れないといけないので玄関の鍵を開けていた。それでもこないので、窓の外を眺めていたら、泣きながら歩いている男の子がいた。
ちょっとかわいそうだったので外に出て話してみた。同い年くらいに見えたその子は家に帰りたいという。家から出てきたら帰れなくなってしまったみたいだ。サンタさんには会えないかもしれないけれどプレゼントは置いて行ってくれるかな。そんなこと思いながらその子の言う家を探しに行った。
あちこち回っているけれど、全然見つからない。ここにあったんだと言うところはただの畑。もう何も作っていない。歩き回った二人は夜空を前に座りこんでしまった。その子に連れられてきた私も実は家に帰れなくなっていた。
あの子がベソかいたのを見ていたら、私まで泣きたくなってしまった。ポケットにあったビスケットを半分こしていっしょに食べた。いつもよりしょっぱい気がした。
そして二人はハモったように
「パパ〜、ママ〜、どこ〜!」
と叫んでしまった。その瞬間星が光るのを感じ何かが飛んでくる。
「パパとママだ!」
とあの子が叫んで目の前に何かが降りてくる。
それを見た今の私はつぶいた。
「それってUFOじゃない…」
当時の私はサンタさんだと言っているが、まさしくそれは空飛ぶ円盤。その子のパパととママがかけ降りてきて抱きつく。完全に私はサンタだと勘違いして浮かれている。
UFOの中に招待されて、歓迎をうける。先ほどあげたビスケットのお礼がしたいと言われてご馳走になった。そのあともUFOで無重力を体験したり、木星土星まで接近して飛んでもらった。今思うと初めて見たはずの木星と土星の写真、すでに見た気がしたのは、このとき実物を見ていたからなのかと気づく。
その子と遊んでいるときは自分の家のことをすっかり忘れていた。もうそろそろその子のパパとママが自分の星に帰ると言うのでやっと自分の両親を思い出したぐらいだ。薄情な気もしたが、それだけ楽しかったということにしておこう。
じゃあ私のことを家まで送っていこうとすると、あの子が
「いやだ!もっと遊ぶ!」
とわがままを言った。パパとママがなだめているがますます男の子はダダをこねている。あげくのはては
「この子と結婚する!それまで帰らない!」
と言っていた。
まだ結婚というのが分かる年頃でもなかったが、なんとなくは理解していた。その子と結婚したいとは思っていなかった。だから
「泣き虫は嫌いよ!強くなったらいいわ。」
と私は言った。
そのとたん、また目に涙をためる男の子。でも頑張って唇かんでこぼれないようにしている。そのときその子のママが
「ありがとう、でもこの記憶は消させてもらうわね。」
と言いながら何か唱えていた。その向こうであの子が何か言っている。
「…….シリウス……..。」
私は今思い出した記憶が本当なのかは信じられなかった。
そのとき遠くで物理の先生の声が聞こえていた。
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