第7話魔法少女VS魔女VS悪の構成員VS戦隊


「あ、ありがとうございます……」

「うん……」

「そうね、ちっょと話を聞かせてもらいましょうか」


 威張りながら話すのはアナコンダ。

 その隣では、おでんをぱくつきジュースを飲んでいるこむぎ。

 屋台のおでん屋に三人がならんで座っている。

 そしてイヌのペロも。


 自己紹介では悪の構成員は28号と組織では呼ばれていて、本名はアイガと言うそうだ。

 こむぎやアナコンダは自己紹介しなくても、悪の組織ないでも名前は知られているという。


「騙されたというか、悪の組織の構成員になれば女の子にモテるし、友達もできる。大学なんて推薦でどこへでも入れるって、聞かされて……」

「ふ~~ん。それで大学には入れたの?」

「はい、一応、四浪しているもので。親からもずっと前から仕送り打ち切られていたものですから。給料もいただけるので……」

「しみったれたはなしねェ」

「は、ハハ……」

「それで、きっかけ」

「あのー、セ、セミナーみたいなのがありまして。少し話しを聞いていかないかって、誘われて。無料だって言うし、きれいなお姉さんだったものですから……」


 こむぎは話を聞いているのかいないのか……。

 もっぱら魔女アナコンダが会話を引き受けている。


「それで、彼女はできたの?」

「いや、それは、まだ……」

「まあ、当然よねぇ」

「だって、一構成員ではなく、働き次第で怪人になれる。そしたら女の子にもて放題だって、いうから……」

「ふーん。性欲だけは一人前なのね。で、ハーレムでも作ってやろうというわけ」

「いえ、可愛い女の子と手を繋いだで遊園地へ遊びに行けたら、と……」

「ちっちゃい野望ね。毎日、女を取り替えながらやりたい放題の酒池肉林、それくらいのこと言いなさいよ。あんた一応、悪の組織にいるんだから」

「そ、そんな~~。恐ろしい。ぼ、ぼくは、ご、ごく普通の青春をおくりたいだけで……」

「普通の青春したいだけの四浪生が、どうして悪の組織とつながるのよ」

「ぼく一人だけじゃなくて、他の人達も同じような感じで、みんな入るっていうから、それじゃあ、って」

「ダメじゃないッ! 一番出世できないタイプよ。みんなと一緒なんて、自分の意志がないじゃないッ!」

「やっぱり、そうですよね。ぼ、ぼくなんか……」


 いじけ始める悪の構成員。


「でも、戦隊と戦っていたわよね」

「それは仲間がやられちゃって、残ったのはボク一人だったから……」

「ああ~~、あの転がってた男たちね。で、何したわけ」

「勧誘です、ただの勧誘……。悪の組織の、ですが……」

「しみったれてるわね。街行く人達を襲うとか、人を連れ去って身代金を要求するとか。もっとそれらしいことがあるでしょう。なんならどこかを襲撃して皆殺しにするとか、列車を爆破するとか、もっと派手なことをしなさいよ! 女の子だって襲って犯すとか、もっと過激な方法があるでしょう」

「そ、そんな恐ろしいことできませんよ……」

 

 ビビりながら話す悪の隊員。

 アナコンダの話す悪の組織の仕業がエグすぎるのか、だんだん怯えて震え始めた。


「銀行や空港を爆破したりするのも良いかもしれないわね。いかにもって、感じがするでしょう! トラックを使って道行く人をひいちゃったりするとかもありかも」


 アナコンダの話しは益々エスカレートしていった。

 怯えた目をして話を聞いている悪の隊員。

 汗がとまらなくなっている。


「で、今までどんな悪いことしたわけ……?」

「……えっ、え~~っ、と……。赤信号で、渡ったりとか。この前は、ポケットのゴミを道路に捨てたりとかぁ、ゴミの分別をしなかったり、えっと、それから……」

「はん、なによそれ……、そんなの悪さのうちにはいらないわ」

「は、はい…。そうです、ね……」


 だんだん自分は悪の組織にむいてないと、今更ながら感じ始めた。

 がっかりと肩を落とす姿に、哀愁が漂い始めた。


「どうして戦隊の人に追いかけられてたの」


 話しの流れを無視して、こむぎがポツリと質問した。




──話しは少し前にさかのぼる……。


「17号──!」

「くそっ。また一人やられた!」


 悪の組織の構成員は、みな番号で呼ばれている。

 怪人や幹部になって初めて、名を呼ばれことになる。

 叫びながら向かって行く戦闘員も少なくなかった。

 だがあっけなく蹴りや、パンチを食らい面白いように倒されていく。


 17号はナカタという。

 子供の頃からヒーローに憧れていた。

 だがいつも悪者役を押しつけられて、ヒーロー役の子供たちに倒されてきた。

 だからヒーローごっこは嫌いだった。

 いつの頃からだったろうか、ヒーローをやらせてもらえないならば、怪人としてヒーローを倒してやろうと考えた。

 本気になった17号ことナカタは強かった。

 ヒーロー役の子供たちを倒してしまった。

 それからは遊びに参加させてもらえなくなった。

 初めての勝利と自信。それは大人になってから本物の怪人へと変身することを夢見るようになった。

 だが現実はどうだと思う。

 怪人にもなれないまま倒されてしまった、と。



 二十人以上いる悪の構成員たちが、次々と戦隊ヒーローに倒されていく。

 それもわざと一人、一人楽しむように。

 逃走を試みる構成員も少なくなったが、わざと逃がして、嬲るように追い詰めていく。

 かかってこいと、わざと隙まで作って。

 今ではのこりわずか、三人。


「ちくしょう。これじゃあ、どっちが悪だかわからないじゃないか!」

「せ、せめて一矢報いないと仲間たちに顔向けできない」


 そう言ったのは21号こと、イシダだった。

 17号とはとくに仲が良った。

 いつも二人で怪人になる夢を語り合った。

 幹部まで登りつめようと誓いあった。

 それが目の前で、戦隊ヒーローに嬲るように倒されてしまった。

 目の前が真っ赤になるくらいの怒りだった。

 だが如何ともしがたい実力差がある。

 現実を実感すればするほど、汗と涙がとまらなくなる。


 残りの28号は二人と違って怪人や幹部へ登りつめようとは思っていない。

 そういう構成員も少なくなかった。

 できなかった青春を取り戻したかった。

 女の子にモテたい。

 友達が欲しい。

 自分もリア充な生活をおくりたい。

 そんな想いから組織に入ったし、構成員どうしもまた仲が良かった。

 同じ日陰の生活を送ってきたもの同士、通じ合うものがあったからだ。

 二人の手前言い出せなかったが、「見逃してください」と何度も言いかけていた。



「くそっ。残りはこれだけになったのか、最近は悪の組織も怪人も、めっきり少なくなったからな」


「フッ──ひさしぶりの正義執行だ。そんなに簡単に終わらせるわけにはいかない」

 

「──な、なんてことをするんだ。俺たちはなにもしていないだろう」

 

「悪の構成員が、ほざくなよ。お前たちがまだ何も悪事に手を染めてなくても、存在自体が成敗の対象だァ」


 戦隊レッドのフルフェイスのマスクの下から、見えないはずの目が異様な輝きを放ち、悪の組織の構成員たちをねめつけているようだった。

 他の四人も同じで、どこか熱病におかされているような異様な雰囲気が漂っている。

 どの戦隊メンバーのマスクの下の顔は、薄く笑っていた。

 ハアハアと吐く息が異常だった。


 恐怖にすくみ上がり、地面に尻餅をついて漏らしている構成員もいた。

 28号だった。

 虎が獲物をいたぶるような。

 逃げ場を失った、子鹿になったような気分がした。

 これで自分のたちの運命も終わるのかと、震えながらその時をまった。


(こんなの間違ってるよ……)


「フフフ、これからお前たちを、正義の刃で、成敗してやる……」

 

 譫言をつぶやくように、ブルーが口にする。

 悪の構成員たちは、背筋から悪寒が這い上るような恐怖を感じていた。



 ──その時。

 

 ゴスッ! と言う鈍い音。

 バタリと、突っ伏すように無様に地面に寝そべるイエロー。


「「「「なにッ!!」」」」


 とっさに決めのポーズと一緒に振り返る四人の戦士。

 「でたな怪人」という言葉は、四人の口から出ることはなかった。

 四人とも、少しの間、フリーズしたように固まっていた。

 

 原因は怪人ではなく、二人の女と一匹のイヌ。

 長身でグラマラスな姿態は、限界ぎりぎりまで露出させた魔女服。

 つば広の魔女帽子をかぶり、大きめの杖をもっている。

 もう一人の背の低い女の子は、フリルのついた魔法少女スタイル。

 手には定番のマジカルステッキ。


 ステッキと杖が同時にイエローの後頭部を殴打したのだ。

 意識を失い、完全に伸びて時々ピクピクと手足を痙攣させている。

 こんな体験は今までになかった。

 想像もしていなかった展開に、四人ともただ呆然と固まっていた。


「──弱いものいじめはやめなさいッ!」


 睥睨するかのように、魔女アナコンダが言い放つ。

 となりでマジカルステッキを四人に向ける、魔法少女こむぎ。

 その後ろで、ペロが尻尾をパタパタ振っていた。

 

「なッ──ま、魔法少女──災厄の魔女まで、いるぞ……」

「ご、誤解だ──」

「グッ──わ、我々は、悪を退治しているだけだ」

「せ、正義執行の邪魔は、しないでもらいたいッ!」


 それが精一杯の抵抗だった。

 二人の悪名は戦隊ヒーローたちの間でも周知されていた。

 絶対に手を出してはいけない相手として。

 

「はっ、笑わせるわね。さっきから見てたけど、悪事も働いていないこいつらを、蹴るわ殴るわ切りつけるわ。やりたい放題じゃないの──」


「──そ、それは……」

「そ、そうだ。悪の芽は小さいうちに刈り取っておくためだ」


「この前、暴走レッドとあった。悪の組織や怪人は、本当は少ないといってた」


「そういえば、さっきもそんなこと、いってたわよぇ……」


 戦隊たちが「マズイ」とお互いの顔をマスク越しに見ている。

 どう切り抜けるのかと、お互いに目線で伺っていた。


 アナコンダの眼に殺気がともる。

 こむぎのマジカルステッキがしっかりと、狙いを定める。


「ま、まて。わかった、今日はこのまま引き上げよう。悪の構成員は君たち二人が処分してくれ。それでいいな。なッ。そ、それでは、失礼する──」


 そそくさと、イエローを引き摺るようにして立ち去っていく戦隊ヒーローたち。

 戦隊ヒーローたちのマスクの下にある瞳には、明らかにおびえの色が灯っていた。

 構成員ひとりを残して、後のふたりはもの凄いスピードで逃げ出している。




「知ってた。戦隊ヒーローってさあ、ひとりいると近くに四、五人隠れているのよ。手強い怪人だと、追加戦士って言うのまで出てくるらしいわよ」

「きいたこと、ある……」

『戦隊の人達はチームで活動していますからね』

「でもそれって、酷くない。いつも怪人一人に五人掛かりじゃない。さっきだって、悪の構成員を皆で虐めてさ。もともと戦闘力が違うんだから、簡単に倒すとかすれば良いのに、それをねちねちいたぶるように。きっと戦隊って、変態の集まりね」

「へん、たい……?」

「そう、絶対あれは後で一発抜いてるわ。正義中毒よ!」

『こむぎちゃん。変態について考えなくていいから……』


 素直に頷くこむぎであった。


「えっ──そんなことするんですか……」

「だってあいつら、正義ジャンキーだから。世のため人のためなんて見せかけだけよ。自分の楽しみのために戦ってるのよね。正義をかたる変態やろう。怪人やら君たちを、ぼこぼこにして悦んでいる中毒者よぉ。弱いものをいじめる快楽に酔っているだけだから」

「ええぇ~~、そんなのダメじゃないですか。僕が言うのも変ですけど……」

「そう、だからあいつらはクズなのよ。だいたい怪人って、どんなことしているわけ。実害は出ているの。誰が悪と決めているのかしら。警察や軍隊もあるのにね。それにもしこの国が他の国と戦争になったら、どうするの。戦争をやめろって仲裁に入ってくれるのかしらね。そんなこと知らぬふりで悪の組織や怪人とだけ戦うのかしら。だいたい正義なんて、誰が決めているのよぉ……」

「……た、たしかに、そうですね……」

「あっちも正義、こっちも正義。どこもかしこも正義の味方ばかり。世界は正義の味方で溢れているのよ。供給過多なの。そんななかで悪の構成員を名乗るのは根性がいるわよ」

『そうですよ。変な言い方ですが、立派だと言えますね。この前あった、暴走レッドの人よりも』

「あのー。このワンちゃん、さっきから普通にしゃべっているンですけど……」

「ああ、この子、こむぎのペットだから」

「うん、ペロ……」

「…あーそ、そー、ですか……」

 

 構成員の青年は深くたずねようとは思わなかった。

 スルーした方が良い気がしたのだ。

 ペロは尻尾をふりふり。


 青年も、少し気持ちが落ち着いてきた。

 世の中には、信じられない存在がいて、こうしてならんでおでんを食べている。

 そう思うと、自分の悩みはたいしたことではないように思えた。


「こむぎはどう思うの……」

「うーん……世界なんて、滅べばいい……」

『こむぎちゃん。そんなこと言わない』


 ペロはこむぎをたしなめている。

 一瞬、ひるんだ様子のアナコンダだったが、すぐ「それも、そうよね」とあハハハッと笑っていた。

 青年は悪の組織や数多くの正義の戦隊よりも、魔法少女こむぎや、魔女のアナコンダの方が恐ろしいような気がしてきた。

 別次元の恐怖である。

 そして悪の構成員を辞めようと、しっかりと強く心に誓うのだった。




 

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魔法少女の生きる道 ハヤシ ユマ @yuma556

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