第3話魔法少女VS戦隊レッド
──正義の鉄拳。俺はその言葉が好きだった。
いまもだ……。やられて倒れる怪人や悪の組織の構成員たち。
たぎる正義の血潮が沸騰するかのような高揚感。
一撃を放ち、相手が吹き飛ぶ瞬間の爽快感。
……たまらなかった……。
数え切れないくらい多くの敵を葬ってきた。
なかには強敵もいたが、仲間たちと協同して倒していった。
手強い敵が弱っていく姿に、ゾクゾクするような興奮をおぼえたものだ。
嬲るように倒すことに、酷く興奮するようになった。
だがいつでも悪の怪人や構成員たちが、戦隊の前に現れる訳ではない。
正義の拳を振るいたくても、ふるえる相手がいないのだ。
だから、正義の拳を一般市民にむけた。
強盗や泥棒、殺人犯といった奴らを片っ端からぶちのめして回った。
腕や脚がもげて、絶叫する奴も多くいた。
力をいれると声もなく消し飛ぶので、力加減が難しいが。
時にはヤクザや海外のテロリストもいたが、何の改造もされていない
ただの人間が戦隊レッドにかなうはずもない。
逃げ惑い、許しを請い。泣いて脚にすがってきたものもいた。
そいつらを時間をかけて追い詰めて、嬲りながら倒していくのは
快感だった。
脆弱な一般人に、正義の鉄槌を下すことにためらいなどない。
正義の味方はなにをやっても、許されるのだから……。
……そして俺は、戦隊を追われることになった──。
『この人、暴走レッドと呼ばれている人だよ、こむぎちゃん』
「ふ~ん……?」
「う、むぅ………」
珍しそうに、ひとりと一匹の視線をうけて、レッドはマスクの上からでも分かるほど困惑した様子をみせていた。
しげしげと、珍しい生き物をみるような視線にも困惑している。
凶悪な魔法少女がいるから、倒してくれという依頼を受けての登場だった。
だがどう見ても、イヌがしゃべっているということ以外は、普通のJKにしか見えない。
「なにか、用ですかぁ……」
「……尋ねるが、お前が、あ、悪の、魔法少女か……?」
「えーっと、悪とかではないけど、魔法少女だよ、うん──」
「う………」
さらに困惑。
見えない大粒の汗が、レッドのマスクから流れ落ちていった。
……どう、しよう?……。
と、その時──。
「「「「「危なーい!!!!!」」」」」
「なに──!?」
「とう!」
「とう!」
「とう!」
「とう!」
「とう!」
空中を、難易度の高い体操技を見せつけるようにして、次々と着地した五人の戦士。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、皆が呼ぶ。呼ばれなくてもやってくる。参上──。正義の戦隊、ここに見参──!!」
「お、お前たちは──」
「魔法少女よ、危険なので、安全なところへさがっていなさい。こいつの相手は我々が引き受ける。決して手を出してはいけないよ」
「ウン」と元気にお返事してから、こむぎはペロと一緒に後ろにさがってベンチに腰掛け成り行きを眺めることにした。
ここは住宅地のど真ん中にある普通の公園。
遠巻きに、建物に隠れるようにして住民たちが戦隊戦士とこむぎを観察していた。
視線が合うと、さっと隠れるところからも、かなり恐がられているのは間違いない。
子供たちに、目を合わせてはいけませんと叱っているママさんもいた。
それに警察官もチラホラいて、家から出ないで、静かにさがってと住民たちに指示しているようだ。
「──なぜだ──なぜここが分かった……?」
「アホかァ…、なにがなぜだ、だッ。戦隊組合から、至急の連絡が来たんだよ。戦隊レッドを発見したとな。……お前のおかげで我々戦隊がどれだけ苦労しているかわかるかッ。この正義中毒者がァ~~!(※戦隊クリムゾンレッド)」
「最近では、戦隊メンバーを見ただけで、泣き出す子供もいるんだぞ(※戦隊イエロー)」
「この前、生卵をぶつけられたんだ(※戦隊ブルー)」
「お前のせいで、いまや悪の組織よりも恐れられている。おかげで人に正体を明かせなくなったんだ(※戦隊ブラック)」
「合コンでもし戦隊メンバーだなんて知られたら、すべてぶちこわしになってしまうじゃないの。どうしてくれるのよー!!(※戦隊ピンク)」
殺気を放ちながら次々と文句を言う戦隊メンバーたち。
レッドはじりじりと後退る。
相当鬱憤がたまっていたのか、文句は三十分以上にわたって続けられた。
足が臭いだの、でべそだのいった子供のような叱責の言葉も多くあった。
五人が一斉に文句を言うので、レッドからは反論の言葉が出なかった。
言葉を発する余裕すらない。
「我々は、とくに俺はお前を許せない。同じレッドとして許すわけにはいかないのだー!!」
拳を握りしめ固い決意とともに言い放つ、クリムゾンレッド。
怒りの炎を身にまとうようだった。
見えない真っ赤なオーラが、全身から立ち上っているよう。
「くっ、正義の鉄槌を下して何が悪い。私はお前たちにかわって、正義を執行しているだけだッ」
「なにが正義の鉄槌だ。信号無視しただけの自転車を破壊してどうする。オバサンたちが大挙して怒鳴り込んできたぞ。危なくて買い物にも行けないってな」
『……こむぎちゃん、なにか、スケールが小さいね……』
「うん、でも、見てるとおもしろいよ。にちあさのテレビ見ているみたい」
『うん……まぁ、そうだね、ぇ……』
ペロも尻尾をふりふり、面白そうに眺めている。
こむぎは「怪人出てこないのかなぁ」と、お気楽につぶやいている。
一人と一匹は、傍観者を決め込んでいた。
「──では、どちらが正義なのか力と技で決着をつけようではないかっ」
言い放つのと同時に、レッドのパンチが繰り出される。
だがクリムゾンレッドも、他の戦隊メンバーもひらりとかわすだけで、反撃にはでなかった。
蹴りもパンチも、見事に避けている。
「クッ──どうしたお前たち、やる気があるのか!」
さらに猛スピードで攻撃技を繰り出すレッド。
それを次々とかわしていく。
「な、なんだ──」
「フッ──かかったな、レッド。熱血して飛び込んできたことを後悔させてやる。やるぞ、みんなー!!」
「「「「おう」」」」
いつの間にか五人の中央へと誘導されていた。
その五人が、レッドを中心に高速で回り出した。
レッドから見ると、五人が数十人にも見えるような速さだった。
空気がゴウ~~ッ──とうなりを上げている。
風が、風圧が竜巻のよう。
「「「「「地獄──!!」」」」」
レッドは目が回り、思わず立ちすくむ。
その隙を突いて、両手両脚を戦隊隊員ひとりずつに捕まれていた。
「なっ──!?」
レッドの体の自由が奪われた。
「ゴーリン!」
すかさず、クリムゾンレッドのチョップが股間に炸裂する。
「ウギャアアア──!」
レッドの悲鳴とも苦鳴ともつかない叫び声。
追い打ちをかけるように、次々と入れ替わってはレッドの股間へ。
蹴りが、パンチが、チョップが、頭突きが、膝蹴りが、ショルダーアタックが、
切れ目なく襲いかかっていった。
すべての攻撃が股間に集中している。
為す術もなく、すべての攻撃を一身に受けていた。
「見たか我らの怒り、地獄ゴーリンを──(※懐かしすぎるかも)」
股間を押さえ、口から泡をふき無様に地面に崩れるレッド。
完全に失神して、意識を失っていた。
時々、ピクピクと足先が痙攣している。
こむぎはお気楽に、パチパチと手を叩いてよろこんでいる。
ペロも激しく尻尾を振って、よろこんでいるようだ。
「迷惑をかけたね、魔法少女。こいつは我々が引き取っていくよ」
ズルズルとボロ布のようになったレッドを引き摺って、戦隊隊員たちは颯爽と立ち去っていった。
戦隊の後ろ姿を眺めながら、こむぎは彼らを見送るように手を振っていた。
「面白かったね、ぺろ」
『………(汗)』
「今度は、怪人が出て来ると良いなぁ」
よろこんでいるこむぎとは対照的に、複雑な想いで戦隊を見送っている。
『──また、どこかであうような気がしてきたよ、こむぎちゃん……』
「えーっ、そうなの。今度はロボットにのって、戦って欲しいね」
『う~~ん。それはちょっと迷惑な話だと思うよ。巨大ロボット同士が喧嘩すると、街も道路もぼろぼろになるからね。戦隊の人だけで終わらせて欲しいな』
「そんなのつまらないじゃない」
『……だからこむぎちゃん。どこでもすぐに魔法を使って壊してしまったらいけないよ』
「え~~。向こうからなにかしてくるんだよ。正当防衛だよぅ……」
一人と一匹は、そんな話をしながら家路についた。
かって帰る予定の牛乳パックを、帰ってから思い出したこむぎたちであった。
その日は特売日であったことを、後の記録は伝えている。
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