第2話魔法少女VS学園の秩序

「ハーハッハハハっ。待ちたまえ、井坂こむぎくん。それとも魔法少女と

呼んだ方が良いのかな……」


「うわっ、キモ……。今日も変のがきちゃったよ」


こむぎは女子学園からの帰りだった。

まだ校門から外に出ておらず、学内で呼び止められていた。

同じ制服姿の友達も一緒にいる。

魔法少女であることを隠していないので、全校生徒に知られている。


だからといってつまはじきにもなっていないし、どちらかというと友達は

多い方だった。


「こむぎちゃん。このおじさん新しい校長先生だよ」


「へー、知らなかった」


「こむぎちゃん。魔法少女になって授業中抜け出したり、突然休んだり

するでしょう。だから全校集会で挨拶していた時もいなかったのよ」


「ふ~~ん…。だってしょうがないんだよ。魔法少女だってお金を稼がない

と活きていけないんだから。色々とすることがあるのよねぇ」


「へー大変なんだ。こむぎちゃん、えらいねー」


「こ、こら。私を無視して勝手に盛り上がるな」


「えっ、誰だっけ──?」


「だ、だ~か~ら~。新しい校長だって言ってるだろうが!!」


「ふ~~ん、それがなにかよう……?」


「わたしが校長になった限りは、かっては許さない。魔法少女といえど同じだ。早退やらも認めるわけにはいかない。ましてや魔法少女に変身するなどもってほかぁ。私はそのためにある組織から、送り込まれてきたのだよ」


「ふ~~ん……」


「どうだ。知りたいだろう。私のことが、私の後ろにいる組織についても知りたいだろうぅ~~」


「別にぃ……」


「嘘をつけて、魔法少女、今お前は私の正体を知りたくたまらないはずだ。そして恐怖しているはずだァ!」


「ぜんぜん……」


「だが、教えてあげな~~い。悔しいだろう」


 病的な感じでねっとりと、話す校長。

 横暴だとブーブー文句を言うJKたち。


「校長自ら、これから指導してやろうゥ~~。フフフフ……」


「みんな、少しさがって──マジカル変身ッ!」


 二人の間に緊張が走る。

 魔法少女の変身する姿を見ても動じない。

 にんまりと笑う校長。


「変身できるのは君だけではないのだよ」


 校長の右手が顔の一部を掴む。

 ベリベリと薄皮のように、手で剥がされていく。


 特殊メイクのような、怪人が変相を解くときに見せるあれである。


「えっ──?」


「「「「え~~っ?」」」」


 驚くこむぎと、生徒たち。

 変相していた偽り顔の下に現れたのは、厳つい真四角な顔だった。

 それもスキンヘッド。


 それどころから、いままできていたスーツもはち切れるように破れて

いった。


 「デビ~ル」と叫びながら悪魔に変身や、なんとか拳の使い手がやる着ている服がベリベリと破けるあれである。


 一気に体のボリュームが数倍にも膨れあがっていった。

 ちぎれた服やズボンのしたから現れたのは、筋肉隆々とした、ビルドアップ

した肉体である。


 ──なにあれ、気持ち悪いとか、テラテラ光っているとか、大勢の

生徒たちに指さされて気味悪がれていた。


「なに、それ。どういう仕組みになってるの。体のサイズが

違うよ……」


「フハハハ。どうだ、小娘ども驚いたか。この筋肉を見よ、この見事に

ビルドアップされた私の肉体美を恐れるがいい!」


 ブーメランパンツだけになった校長は、ボディビル大会の時に

見せるビルダーたちのポーズを次々と決めていく。


 ダブルバイセップス・フロントから、ラットスプレッド・フロント。

 サイドチェストからの、ダブルバイセップス・バック。 

 ラットスプレッド・バック、サイドトライセップス。

 アドミナブル・アンド・サイの次に、モスト・マスキュラー。


 ポーズを次々決めるたびに白い歯を見せて、ニカっと笑っている。

 そしてポーズを決めるたびに、生徒たちから気持ち悪いとの罵詈雑言が

浴びせられている。


 だが新校長は、怯むどころか逆に興奮していった。


「どうだァ、小娘たち。この私の美しい筋肉美をしっかりと目に焼き付けるのだ。どうだ、そら、どうだぁ~~!」


 げんなりしたような表情を見せるこむぎ。

 変相のレベルどころか、次元をはるかに超える謎の変体ぶりには誰も突っ込まず気持ち悪いだの不細工だのお小遣いが少ないだのと、まったく関係ないことまで取り混ぜてワイキャイ騒ぐJKたち。


 そんなJKたちの視線と罵声を受けて、益々、悦に入る新校長。

 もはや誰に見せつけているのか分からない。


「だから、なに──?」


 何の攻撃なのか分からないまま、しばらく眺めていた。

 いい加減にしてよね──と、感じ始めたときにピンとひらめくものがあった。


「マジカル、加速ソウーチ!」


 こむぎは音速をこえるダッシュで近くの工事現場から、ロープを持って戻ってきた。

 マジカル超加速である。

 相変わらずJKたちに自分の筋肉美を見せつけている校長。


 こむぎがいなくなっていたことにも、気がついていなかった。

 満面の笑みを浮かべ、法悦に酔っていた。


 そんな校長の肉体に、こむぎは素早くローブを掛けていく。

 得意のポーズがとれないと気付いたときには、ロープでぐるぐる巻きにされ

て自由を奪われていた。


「な、なんだ、このローブは、いつの間に……。これではボディビルのポージング

がとれないではないかッ」


「気にするのは、そこか──」


「なにを言っておる小娘。見ろ大勢の生徒たちが、私の筋肉美を見たがっておるのだ。それがわからんのかッッ」


「当たり前よ。みんな、そんな筋肉見たがってないから。そんなのチ◯コを見せられているようなものだもの。気持ち悪いっ」


 そうよそうよと同意するJKたち。

 チ◯コだの、ウ◯コだの、グロいだのと罵詈雑言で畳みかけてくる。


「みんな、やっちゃえ──」


 こむぎの合図とともに、生徒たちの追い打ちが始まった。

 ぐるぐる巻きにされて、芋虫のように転がる校長へ、エイエイと蹴りやらカバンでタコ殴りにした。


 中には指でつねる女の子もいる。


「こ、こら……。やめなさい、や、やめないか。……あ、何だこの感じは……、あ、ああ、背筋がゾクゾクするこの感じは、何なのだァ……。み、未知の快感が私の肉体にぃ……。

う、ウグ、クッ……。イ、イイ…、良いではないかァ…。ああ、この感じぃぃ~!」


 全身を赤銅色に染めて、悶えるように訴える。

 苦悶の表情なのか、悦楽の印なのかもはや分からなくなっていた。

 全身の筋肉から太い血管が、浮き出している。


 なにかを悟って、こむぎはマジカルステッキを傘に変化させた。


「ウンバラバラァ~~~!!」


 昇天の雄叫びとともに、校長の肉体は弾けて四散した。

 大量のもと校長の残骸が降り注ぐ中を、生徒たちはキャアキャア叫びながら

逃げ出していった。


「こいつ、やっぱり変態だったのね」


 こむぎは変身を解くと、その場を後にした。

 悪は滅んだと、心の中でつぶやきながら。


 だがこれは始まりに過ぎなかったことを、魔法少女はもうすぐ知ることになる。


 


 





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