魔法少女の生きる道

ハヤシ ユマ

第1話魔法少女VSヤンキー


 魔法少女のこむぎはJKである。

 貴重というか、世界中で──たぶん他にいない存在だと、思う。


 だから時々、危険なことに遭遇する。

 今日も、どこからともなくやってくる。


「おい、そこのJK。お前だ、お前。ピンクのママチャリに乗っている魔法少女のお前だ──」

 

「えっ──、誰……?」


「そうだ、お前だ!」


「もしかして魔法少女のファンの人、あたしサインはしないことにしてるんだけど……」


「違うわッ!!」

 

「う~~、じゃ、なに……?」


「この前は、良くも仲間を酷い目にあわせてくれたな!」


「……なんのことやら。いくらあたしが美少女な魔法少女で

あっても、そんな無個性なヤンキーなんてしらないよ」


 魔法少女は有名だった。

 正体を隠すとかはまったく考えていない。

 むしろやたらと目立ている。


 そのせいなのか、なにかと色々なものに絡まれる──。

 そして、必ずといって良いほどトラブルに発展する。


 魔法少女は逃げたりしない。

 こむぎの信条である。

 関わった人間は例外なく酷い目にあっていた。


 まわりを三十数台のバイクに囲まれていた。

 ブォンブォンとエンジンを吹かせて、こむぎのまわりをぐるぐる回っている。

 通行人は関わるまいと、通り過ぎていく。

 どちらというと、ヤンキーが怖いのではなく魔法少女が怖いようだ。

 

 危ない逃げなきゃ、あの子魔法少女よ、やめといた方が良いのに──と、ささやき声が微かにきこえてくる。

 ヤンキーを恐れているのか、魔法少女を恐れているのかよく分からない声だった。


「こ、このッ──この傷を見ろこの傷を、お前がやったんだッッ!」


 包帯ぐるぐる巻きのヤンキーのひとりが言った。

 なかにはバイクの後ろにのって、松葉杖を持っている者もいる。


「ふ~~ん……、知らない」


「しらないだと、俺たちを怪我させておいて、何言ってやがんだ」


『こむぎちゃん。ホラ、二日前に出会ったヤンキーの人達だよ』


 そう言ったのはママチャリの──ペガサス号と名前をつけていた──前かごに乗っている、犬のペロだった。


 見た目コーギーだが雑種である。

 それがこむぎに話しかけていた。

 ワンワンと吠えるのではなく、人語で。


『イヌがしゃべった!!』


 ヤンキーたちの声がハモる。


『こむぎちゃん。この前の人達だよ。マジカルステックでぼこぼこに

しちゃった人たち』


「…………??」



 

 ──話しは少し前にさかのぼる。


 こむぎの愛車であるミニサイクル、ペガサス号に乗っている時だった。

 ピンクのママチャリで前かごは愛犬であるペロが乗りやすいように改造されている。


 見た目だけではなく、ただの買い物自転車であるがこむぎが乗ることでべつの乗り物に変わってしまう。


 変形してロボットになるとかではないのだが、動力が違う。

 マジカルアシストが使えるからだ。


 スピードが自転車のものではない。

 スーパーカーで有名なポルシェやフェラーリーなどごぼう抜き。

 地上を走る車では、こむぎの駆るママチャリには追いつけない。


 それどころか高層ビルの壁でも平気で登っていくし、ついでに言えば空まで飛べる。

 ビルの屋上から屋上へと、まるで地上を走っているような感じですいすい走っている。


 魔法の力ならば自転車に乗る意味があるのかと言う疑問が出てくるが、そこはお約束である。

 ペロや、時には荷物を運ぶのに利用されていた。


 ヤンキーの暴走するバイクを、こむぎの駆るママチャリであるペガサス号がぶっちぎっていったのがそもそもの原因であった。


 なぜ記憶にないのかと、ふと考えてしまう。

 そうだ、暴走といっても集団で走ったりするだけで、信号も守っていたし、制限速度も守っていたからだ。

 ブオンブオンとエンジンの音が大きいだけで、何が暴走なのかわからない。

 とてもよい子たちの暴走行為。




「へ~~、そんなこと、あったっけぇ……」


 イヌがしゃべることに驚いているヤンキーたちをよそに、こむぎとペロは話を続けている。

 ヤンキーたちを完全無視である。


「だってヤンキーって、バイクで走り回って強盗したり、街に火を放って放火して回ったり、ひゃっはーって言いながら弱い人達に暴力を振るう人達のことでしょう。この人たち違うと思うんだけど。モヒカンやらとげとげのついたショルダーガードも付けてないし……」


『それは違うよ。それはなんとかの拳に出てくる雑魚キャラでしょう。この人達はヤンキーだから特攻服着て、バイクで走り回る人達だよ。正確には暴走族って言われているらしい』


「あー。変な学ラン着てガン飛ばしながら歩く人達のこと……?」


『う~~ん、ちょっと違うけど、まあ良いよ。絡まれたこむぎちゃんが降りかかった火の粉をはらうとかいっていた』


 魔法を使わないで、マジカルステッキをただの凶器に換えていた。


「ね~、ね~、ヤンキーなの暴走族なの、どっち──?」


「知るかそんなこと!」


 ナチュラルに挑発するこむぎであった。

 まったく悪気はないのだが。


「あ~~、なるほど……。ん、じゃあね」


「こら、勝手に納得して立ち去ろうとするな──!」


「こ、このォ。俺たちを無視しやがってェェ~~!」


「ほえッ──」


「だから無視するなってんだよ」


「えっ、あ~~~……?」


「ふ、ふ~ざ~け~やがってーー。仲間の怪我のおとしまえどうしてくれんだ」


「そう、言われてもねぇ」


「魔法少女か、マジカル少女か知らねえけど、メスガキに舐められたままにしておけねェんだよ。


「そ・こ・は、魔法少女ね、魔法少女、マジカル少女でも良いけど、やっぱり魔法少女が一番しっくりくるかな~~……」


 胸を張るこむぎに、キレたヤンキーたちが口々に文句を言った。

 ブスだの発育不足だのチビなどである。

 語彙か乏しく、子供の喧嘩だった。

 こむぎは自分の欠点を攻められるのが大嫌いである。


 プチッ──と、どこかの宙から何かがキレる音がした。


「な、なにぃ~~~!(カチンという音が)。魔法少女を怒らせるとはたいした度胸ねぇ。良いわ、やっちゃる。その喧嘩受けてやるわッ!」


 そう宣言してすっくと立ち上がり、右腕を左肩に向けてクロスするように突き上げた。

 どこかで見た懐かしのヒーローの変身ポーズ。


 「マジカル変身」とかけ声をかける。

 一瞬のうちに魔法少女であるフリルやリボンがいっぱいついた、いかにも魔法少女ですという格好に変身したのである。

 手には魔法少女の定番アイテムである、マジカルステッキを持っている。


 『おおっ!』と驚きの声を上げるヤンキーたち。


「変身に驚いてる場合じゃねえ。気を付けろ、あのステッキが凶器になるんだ」


 包帯を巻いたヤンキーが叫んだ。

 こむぎはマジカルステッキを、ただの棒として使い、ヤンキーたちをぼこぼこにしばいていたからだ。


 魔法など、なにも使っていなかった。


『ヤンキーの皆さん、危険です。はやく逃げてくださいぁ~~い!』


 ペロが危険を知らせて叫ぶ。

 こむぎを怒らせると怖いのだ。

 高層ビルの一つや二つ、簡単に倒壊させてしまう。


 関わった人間に明日は来ない。

 それが魔法少女である。

 

 だが遅かった。

 

「とう!」


 一声、こむぎがかけ声を上げて宙を舞った。

 跳び蹴りである。


 パンツ丸見えでも魔法少女は気にしない。

 こむぎのはくパンツは、水玉模様だった。

 パンチらファンには白が圧倒的に人気であるそうだが。


 一斉にバイクごと転ぶヤンキーたち。

 車間距離が開いていても、まるでドミノ倒しのようにすべてのバイクが一斉に転倒した。

 着地したこむぎは膝を落とした姿勢から、すっくと立ち上がる。

 


「「「なんだよこれ~~~!!」」」


 声がかぶると同時に、次々と爆発して行くヤンキーたち。


 すっきりした顔のこむぎは、爆炎を背に変身を解きママチャリに跨がるとペロに話しかけた。


「悪は滅びたわ」


『やり過ぎたよぉ、こむぎちゃん……』


「だって向こうが悪いんだよ。それにヤンキーだし」


『ヤンキーというのは、いまはもう絶滅危惧種なんだよぉ。いまの人達が

最後の暴走族かも知れないよのに』


「え~~~。でも、どうせまたどこからか、わいてくるよ~~、きっと」


 涼しい顔してママチャリで立ち去るひとりと一匹。

 会話の中には、爆散したヤンキーたちに対する同情の言葉はなかった。


 ペロは思う。あれが最後のヤンキーだったのかもしれないと……。







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