37. 禁じられた遊び
こんなことは、もうしないって決めたのに。私の決意は脆すぎる。豆腐……いや、プリン・メンタル。でも、どうしようもない。カルが好きな気持ちが、暴走するのを止められないの。
「やることやったら、できるだろ。可能性の問題だ」
そんなことは分かってる。だからえっちは絶対にダメだったのに!
捨てられるのが、私だけならいい。それは私がカルに横恋慕した罰だ。ヒロインとの未来を知ってるのに、色仕掛けでカルを誘惑した。
婚約破棄では、きっとそこを断罪されるだろう。聖女として不適切な行動だったと。それはそうだ。聖職者なのだから、神殿の戒律に反する行為だし。
でも、子どもに罪はない。私と一緒に国外追放になったら、命の保証はない。そんなのは絶対にダメ。
かと言って、子どもと引き離されるのもいや。他人に預けるなんてできやしない。
「精神の自由のことだよ! 負の感情から解き放たれる、悟りの境地だよ!」
前世では、『学び』とか『癒し』が流行っていた。苦しみを手放すとかなんとか、精神論的な『救済』というのかな? 忙しい時代に心を病む人が多いから、そういうのが重要だったんだと思う。
カルには呆れられたけど、私に必要なのは、本当にその『悟り』だと思う。煩悩を捨てること。いわば出家するってやつ。うん、本来なら聖職者になった時点で、そうなるべきなのに。私、本当にダメ。堕落してる。
でも、カルを愛さないなんて、鋼メンタルでも無理だと思うの。こんなに素敵な人で、しかもえっちもいいなんて、もう反則だよ。転生チートじゃないの?
「とにかく、体は資本だ。ほら、これなら食べられるか?」
カルの合図で給仕が持ってきたのは、前に私が食べたいと言ったプリンだった。
「お前の創作菓子。プリン……だったか? 似たようなものを職人に作らせたんだ。たくさんあるから、いっぱい食べろよ」
プルプルを揺れるプリンをスプーンで掬って、そっと口に入れると、昔食べた懐かしい味がした。カルは私のために、これをわざわざ作ってくれたんだ!
泣きそうだった。どれだけ私を甘やかせば気が済むんだろうと。こんなに大切にされて、好きになるなってほうが無理だ。
泣いたりしないように、私はプリンを食べることに集中した。黙々とプリンを食べる私を、カルは本当に嬉しそうに見ていてくれた。
私がたくさん食べると、カルはとても喜んでくれる。いつも私の健康を心配して、たまにこっそりと魔力を分けてくれる。
巡業の後、王宮でよく眠れるのは、たぶんそのせいだった。自分も疲れているのに、私のために無理をしてくれているんだ。
こんな関係になって、やっとそれに気が付いた。あれもこれも。カルが私に教えたことは夢なんかじゃなかった。だから、体がそれに忠実に反応するんだ。
「そんなに美味しい?俺にもちょうだい」
ニコニコと嬉しそうな彼の様子を見たら、自分の気持ちを抑えられなかった。カルがほしい。彼を誘惑しようという明確な意図を持って、私はその膝に座って、口移しでプリンを食べさせた。
それを何度か繰り返すうちに、カルは私の思惑通りに誘惑されてくれた。息のつけないような長いキスが、彼の答えだった。
「カル、もうお腹いっぱい」
「じゃ、少し動こうか。お腹がこなれるように」
私は聖女なんかじゃない。肉欲に溺れてカルを誘惑する悪女。でも、ヒロインと結ばれるまでカルに女を必要なら。遊びで誰かを抱きたいなら、それが私でもいいはずだ。
でも、これは言い訳。本当の理由は嫉妬だ。カルに抱かれた、たくさんの女性たちが妬ましかった。もう誰ともそんなことしてほしくない。単なるヤキモチ。それが正直な気持ち。
そうして、もう一度だけカルを独占できた日の翌朝、私はなぜか誰かに呼ばれたような気がして、夜明け前に起きてしまった。
カルを起こさないように、ベッドから抜け出して、とりあえず着るものを探した。思った通り、クローゼットには女性用の服があったので、目立たない濃紺のドレスを着た。
いつも一人で泊まるっていうのは、本当? それなら、女物がこんなにあるなんておかしい。やっぱり、あれは支配人の気遣い?あっぱれ仕事人……だけど、遊び人カルに、ちょっとむかつく。
それでも、ぐっすり眠っている彼を起こすのはかわいそうだと思った。これは惚れた弱みってやつか。でも、好きなんだからしょうがない。
それに、彼がここまで疲れたのは、私の要求に応えたから。もっともっととねだったのは、今夜は私のほうだったから。
そう思って、私はまたこっそり寝室を抜け出した。
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