22. 地獄耳の王子

 カルは絶対に意地になっている。いや、意地悪になっていると言っていい。それって、求婚を断ったから? 男のメンツ潰されたから? 


 確かに一生に一度のお願いを断ったのは私だけど、でも、それってプロポーズだよ? 後先も考えずに、ほいほい承諾できるものじゃないでしょう!


 結婚のことは、一応、卒業まで待ってくれる気らしい。私の希望の「清い関係」についても守ってくれている。でも、それ以外は私に自由はない。ほぼ軟禁状態!


 カルがいる部屋で脱衣とか、カルが触ったお湯に入浴とか、どれだけ恥ずかしいか! メイドさんが一緒にいるとはいえ、本当に最悪な羞恥プレイ。衝立の向こうでカルが何を考えているか、裸で入浴中に想像すると悶絶する! 


 側でお世話してくれるメイドさんも、絶対に同じ気持ちだと思う。だって、いつもみんな顔が真っ赤だもん!もう、いっそ二人きりのほうが、まだマシ。本当に公開処刑はやめてほしい。


 でも、これももうすぐ終わるんだ。来月末にある創立祭のパーティーで、カルは噴水広場でヒロインとダンスを踊る。たぶん、会場には婚約者の私がいるので、彼らはこっそりと野外で踊るという王道設定だ。


 私はパーティーなんか欠席してもいいんだけど、そうなると、カルは別のパートナーを連れていかなくちゃいけない。カルとヒロインが会場を抜け出すのを、その子が見逃すとは思えない。


 二人のダンスに邪魔が入らないようにするには、私はどう行動すればいいんだろう。本当に世話が焼ける二人だ。勝手にイチャイチャしてればいいのに!


「ねえ、創立祭パーティーなんだけどさ、私の代わりにカルと一緒に参加してくれるとか、あり?」


「なし。絶対イヤ。あんたの代わりとか、冗談キツい」


 たしかに、カルの社交に付き合うのは大変か。隣でニコニコ笑っているのだけでも、本当に疲れるしね。王族って可哀想だなって思う。


「そっか。誰かいないかなあ。あ、サラちゃん! 彼女がいいな。美男美女でお似合いだし」


 盲点だったわ。最初から彼女をパートナーにしておけば、わざわざ噴水広場に出なくていい。誰にとっても省エネになるわ。


「本気で言ってる? 殿下に殺されたいんだね、あんた」


 だって、どうせならパーティー会場で踊ればいいと思わない? そのほうが手っ取り早いし、二人の仲もすぐ噂になると思うし。

 そのままでなんとなく私たちの婚約が自然消滅的に消えてくれれば、婚約破棄イベントにならない可能性が高いでしょう。 断罪もされなくて済むじゃない!


「だって、私がパートナーになる意味ないもの。カルは私とはダンスしないよ」


 今までどんなパーティーでも、私たちは二人で踊ったことがない。王族の英才教育にはもちろん社交事項も含まれている。カルが踊れないわけがない。

 それなのに踊らないというのは、カルが踊りが好きじゃないか、私と踊りたくないかのどちらか。


「なんでだろうね。あんたのダンス、セミプロなのにね」


 この世界はスペイン・テイスト。すべての舞踊にはフラメンコの要素が入っているのよ。もちろん、ものすごく楽しんで練習した。だって、好きなんだもの。ギターで踊るスペイン舞踊。


「うん。まあ、聖女らしくないからじゃないかな? 王族も聖女もイメージ勝負みたいなことあるし、きっとそういうの気にしてるんと思う」


 私がダンス好きなのは、もちろんカルも知っている。踊りだしたら止まらないくらいに、熱中してしまうことも。

 カルはたまに練習を見に来ては、私の踊りにため息をついていた。意味が分からない。


「そっか。じゃ、またレッスンだけ行こうよ。先生もシアのこと聞いてると思うし、心配してるんじゃない?」


「行きたいっ! あ、でも、外出できるかな。無理かも」


「シア、それじゃ全然楽しいことないじゃん。あんたって仕事と勉強ばっかり。青春ないね」


「そりゃ、聖女だからしょうがないよ。まだカルの婚約者だし、王族関係者が遊んでばかりじゃね」


「ってか、シアって遊びゼロでしょ。ダンスくらい……」


「いいのいいの。カルも遊んでないんだし、もう働くのも慣れたよ」


「そっか。婚約解消できたら、シアにも少しは自由な時間ができるのかな」


 最後にニナが、そうつぶやいた。それをカルに聞かれていたのかもしれない。なぜって、その後から何やらカルが、おかしな行動をするようになったのだから。


 まさか、あんなことしてるなんて。それが判明するのは、もうちょっと先の話だけど。

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