21. 甘い軟禁生活

「本当に元気になって良かったよ。もうすっかり回復だね」


「うん。ごめんね、心配かけて」


 競技会から一週間ほど、私は絶対安静を言い渡された。学園の診療室はあっという間に集中治療室となり、最終的には正神殿から神官様が来て癒してもらった。


 大聖女の称号を冠しているくせに、同僚のお世話なるとか、迷惑甚だしい。


 でも、今の神殿の様子とか、神皇様の意向とか、色々と情報収集できたので、ヨシとすることにした。結果として、神殿はすぐにでも私を受け入れてくれることが分かったから。


 カルは毎日お見舞いに来てくれた。でも、結婚のことも婚約解消のことも、あの事件の真相についても、もう一切触れなかった。


 私たちの関係は、特に前と変わっていない。ただ一つ、カルの変化を除いては。


「それにしても、殿下の執着、ますます強くなったね。気持ちは分かるけど」


 ニナに言われるまでもなく、カルは今では、学園中が呆れるほどのストーカーぶりだった。いや、婚約者なのだから、別に迷惑行為と言うわけじゃないんだけども。


「なんか、私がまたバカなことしないようにって、たぶん見張ってるの。信用されてないみたいで。あ、監視中?」


「溺愛中……の間違いでしょ。なのに、あんたとの温度差がイタいわ。みんな、殿下の切ない恋を密かに応援してるよ」


「私は普通だよ。カルだって別にいつもと同じ。ただ、どこでもくっついて来ちゃうのは、困ってるけど」


 庭でピクニック・ランチしている今も、カルは会話が聞こえない程度にちょっと離れたベンチに座って本を読んでいる。それでも、私たちは、ガッツリ彼の魔法結界の中だ。


「あのさ、もう諦めてさっさと殿下と結婚しなよ」


「無理。卒業までは」


「はあ?  もう同棲してるのに? むしろ結婚してないのに、ダラダラ関係持ってるほうが、聖女としてはどうかと思うけど」


「ちょっ!  変なこと言わないでよ、ダラダラなんてしてないっ! カルと同居してるのは、あくまで療養ってことで」


「もう療養なんて必要ないじゃない。あれから一ヶ月だし、もう同棲して三週間くらいでしょ。殿下はあんたの旦那のつもりみたいだけど?」


 診療室を出たときには、寮にはもう私の部屋はなかった。私の私物はそっくりそのまま、カルが使っている王族用の部屋に移されていて、私はそこでしか生活できないようになっていたのだった。


「お前が、あんなバカなことするからだろ。これは国王命令だ。聖女の身を守るのも、王族の務めだからな」


 そう言い切られてしまうと、文句の言いようがない。勅命には背けないし、バカなことをしたのも私だし。


 あのときはカルが心配だったので、あまりよく考えずに、ありえない護符を施してしまったのは事実。実際、あの後で他に怪我人が出ていたら、私の癒やしが使えなかった。それでは、私が救護のために待機していた意味がない。


 私欲に目がくらんだ、私のミスだ。たまたま他に怪我人がいなくてラッキーだった……では済まされない。今回の件を私は深く深く反省しているのだ。


 でも、それとこれとは話が違う! 反省してるんだから、なにも軟禁状態にすることはないと思う。いじめだ!


「はっきり言って、息が詰まるよ。プライバシーとかないし。お手洗い以外は」


「うん、聞いてるよ。お風呂のお湯加減まで、殿下がチェックするとか」


「なんでそんな話……」


 ニナは、それについては黙秘を決め込んだ。口止めされているんだろう。でも、女の子の秘密の話なんて、言いふらしてくれと言ってるようなもん。誰にも話さないなんていう約束が、守られるのは本当にまれな話だ。


 それに出所はだいたい想像がつく。貴族の女子はみんなメイドさんのお世話が受けられるし、王族は男子でもつく。つまりは、殿下と私の生活はメイドさんたちにバッチリ見られているのだ。


 もちろん、守秘義務はあるけれど、人の口に戸は立てられない。どの世界にもあることだ。王子も聖女も公人なので、ある程度のリークはしょうがない。


「ニナってば。じゃあ、色々知ってるんじゃないの。同棲じゃないってことも!」


「うーん。寝室は一緒だけどベッドは別とか、熟年夫婦? でも、お風呂は一緒だから、ガッツリ新婚?」


「違うっ! 一緒じゃないよっ! カルは衝立の後ろで、本を読んでるのっ! それは、メイドさんが証人だよっ!」


 うー。なんでこんな恥ずかしい私生活プライベートを暴露するはめに! 私は真っ赤になった頬を両手で押さえた。



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