15. 危険な国技
闘牛。スペインの国技として非常に有名なこのスポーツは、いかに優雅に美しく牡牛を仕留めるかが評価される。
闘牛士に求められるのは、勇気と技と美。
まず槍や
有名な「オ・レ!」という場面だ。
そして、最終場面の「真実の時」で、急所を真剣で一突き。これを外すと牛は苦しみ、会場からはブーイングの嵐。
きちんと急所に刺されば、牛はその場に膝をついて倒れる。本当に突いた直後に。苦しむことなく。
なんともエンタメ性の強いスポーツで、はっきり言って動物愛護団体には、相当嫌われている。
競技が終わると闘牛士も倒された牛も、その健闘を讃えられる。観客の振る白い布が多いほど評価が高い。要ハンカチ持参なのだ。
前世で私が見たときは、闘牛士の演技と牛の健闘が高く評価されて、普段は閉じている正門が開いたと聞いた。
正門の開閉にどんな意味があるのか。なんで普段は閉まっているのか。あのときにきちんと聞いておかなかったのが悔やまれる。
次回、聞けばいいって思ってた。だって、死んじゃうなんて思ってなかったから。
ちなみに、仕留められた牛の肉は、レストランに卸されて、シチューなどになるらしい。成長した雄なんて肉が堅いので、じっくり煮て食べるしかないんだろう。
この世界は、もちろんスペイン・テイスト。国技と言えば闘牛……ではなくて、闘竜になる。竜というのはドラゴンじゃなくて、いわゆる恐竜。
トリケラトプス? そんな感じの魔物。全長九メートルの成竜ではないけれど、それでも三メートルは下らない。
いくら魔法がありだと言っても、こんなもんと戦うのが国技とか。ゲーム作家は狂人だ!
もちろん、恐竜にひらひら布は振らないけれど、槍と
そんな簡単に設定するなら、自分でやってみろ……と思う。ゲーム作家め、覚えとけ! カルに何かあったら、聖女の力で遠隔呪詛ってやるっ。
「シアぁ、診療室で殿下と何してきたのかなぁ? お肌プリプリじゃ~ん! 女性ホルモン出したね」
悪友のニナが楽しそうに言う。聖女になる前からの幼馴染なので、今でも気軽に話してくれる。
唯一の友で、つまり親友だ。
「変なこと言わないで。ちょっと魔力をもらっただけよ」
「えー? 密室でしかできない方法で? やぁらしい」
ぶん殴るよ! 私がカルに片思いしているのを知っていて、この言い草。
いくら密室になったって、私たちはずっと清い関係。そんなこと分かってるくせに。
「それ、もう聞き飽きたよ。好きに想像してて。それより、なんで今年はカルが出場するの? 聞いてなかったよ。去年は出なかったのに」
「あー。あれせいじゃない? 優勝者への『ミス学園』からのキス。去年あんたが優勝者の先輩のほっぺにキスしたとき、殿下マジでキレてたから。あの先輩、まだ生きてるかなあ」
カルが言ってた『ご褒美のキス』って、あれのことなの? でも今年は……。
「今年の『ミス学園』は私じゃないと思う。たぶんサラちゃんよ」
「サラ? あの子は可愛いけど、あんたほど人気じゃないよ。それに大人しくて目立たないし。ブレークするとしたら、あんたが卒業した後じゃない?」
「違うよ。今年の卒業パーティーまでは、サラちゃんが主役なんだから」
「なんで一年生が卒業パーティーなのよ。いくら聞いても意味分かんない」
「いいの! そのときになれば分かるから」
そうか。ここでカルが優勝したら、ヒロインとキスをする。カルが危ないことをするのは嫌だけど、邪魔しちゃいけないんだ。
とにかく、カルが無事なら、勝っても負けてもどうでもいい。
「ねえ、シア。いい加減、殿下の気持ちに応えてあげたら? 今の時代、本当に未経験な聖女なんていないよ。聖職者だって、みんなそれなりにヤッてるし。この学園に入学する平民は、奴らの隠し子率高いって聞くよ」
「そういうことじゃないのよ。私の問題なの! 関係が深まったら、別れるのが辛いじゃない。それに、正神殿にも大手を振って頼れなくなるし」
「だから、そこが分からないのよ。なんで婚約者と別れる前提? そんなんだったら、さっさと婚約解消すればいいじゃない」
「してくれないのよ。何度も打診はしてるんだけど」
「え、ちょっと! 殿下に婚約解消を願い出てるの? あんた、正気?」
「うん。だって、婚約が長引けば長引くだけ、苦しいんだもの」
「はあ? 殿下にベタ惚れのくせに、なんで好きな相手との婚約が辛いのよ?」
「好きだから辛いのよ。だって、離れたくないんだもの」
「それ、論点おかしいよ。好きで離れたくないのに、婚約解消したいって何?」
「だから、色々あるのよ。特にこれから」
「はあ? それ、シアの妄想でしょ。あーあ、殿下もあんたが相手じゃ大変だわ。同情するね」
なんとでも言えばいいわ。どうせもうすぐ分かるんだから。
たとえ、ヒロインが別の攻略対象を選んだとしても、カルはヒロインに夢中になってしまうんだから。
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